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マイナ保険証は解約困難なサブスク契約か~7つの問題点を解説する~


8月4日に岸田総理は記者会見を行い、2024年秋にカード保険証を廃止するにあたり「弥縫策」を打ち出した。保険証廃止の方針は変えずに「マイナ保険証を保有していない方全員に資格確認書を発行」し、「すべての国民が円滑に医療を受けられるようにする」という。
保険証廃止と弥縫策が現場にもたらす混乱など7つの問題点について解説する。

はじめに

マイナンバー法が一部改正され2023年6月9日に公布された。改正のポイントは、1.マイナンバーの利用拡大 2.マイナンバーの利用及び情報連携に係る規定の見直し 3.マイナンバーカードと健康保険証の一体化 4.マイナンバーカードの普及・利用促進 5.戸籍等の記載事項への「氏名の振り仮名」の追加 6.公金受取口座の登録促進 となっている。
特に、情報連携に係る規定の見直しでは、「法律でマイナンバーの利用が認められている事務について、主務省令に規定することで情報連携を可能とする。」と、法律改正は不要で省令で変更可能としている。
法改正後に細部は官僚が決めることができるため、国会での議論も深まらずに通過した。健康保険証は廃止されるが、法律には廃止の記載はない。それに対して衆議院法制局は「現行健康保険法上、健康保険証の規定がなく施行規則にのみ規定されているので、健康保険証の廃止についても、改正法上直接の言及がなされているわけではなく施行規則の改正により処理がなされる」と回答している。

1. 発行予定の資格確認書は6千万枚

マイナカードとマイナ保険証の発行枚数

 日経新聞によれば、「マイナカードを持っている人の7割は保険証と紐づけている」として岸田総理が言う資格確認書を郵送する人は3割との印象を与えているが、これは数字のマジックで実は5割の人はマイナ保険証を持っていない。
1週ごとに発表される政策ボード(11月26日現在)によると、マイナカード交付数は9,702万枚(人口の79%)、マイナカードが保険証として登録されている人は7,170万人(人口の57.2%)であり、実際にマイナ保険証を利用している人は1週間で457,475人(人口の0.36%:2023/7/30)しかいなかった。

図1. マイナ保険証の有無

当院でのマイナ保険証利用は非常に少ないが、医療機関全体での利用率はどれくらいなのか? 1週間の入院・外来患者数を受療行動調査から推計してみると、1週間に外来日が5日間として外来受診者数は7,137,500人、入院患者数は1,211,300、合計36,898,800人とすれば、医療現場でのマイナ保険証利用率は1.24%ということになる。

マイナ保険証を利用していない人

岸田総理の方針に沿って、資格確認書を送るべき人数を計算すると53,718,012人、約5,400万人に送付することになる。
 第1の問題は、全人口から5,400万人を抽出する作業は、うまくできるのか? が問題だ。抽出しないで全員に保険証を送る方が、トラブルが少なくコストもかからないことは明白だ。
 住所変更などで、マイナカード、マイナ保険証が失効する場合もあり、抽出作業を完璧に行うことは不可能だ。資格確認書が送られてこなかった人は、黙っていると無保険状態になるため地方自治体や保険者に資格確認書発行「希望」を提出することになる。総理の方針を実現するためには、現場ではアナログ対策を考えて通知を出し続けることになるだろう。
 法改正前には、保険料を滞納している人に対して「資格証明書」が交付された。今回の法改正で「資格証明書」の文字はすべて削除され、「必要な事項は厚生労働省令で定める」とされている。今回送付されるのは「資格確認書」で名称は似ているが、全く別のものだ。

2. 負担割合の間違いは致命的

 第2の問題は、現行保険証の負担割合がマイナ保険証の負担割合と異なっている問題だ。
 そもそも、マイナ保険証の利用率はまだ極端に低い。にもかかわらず、千葉県保険医協会と神奈川県保険医協会の調査では、驚くべきトラブルが報告された。
 最も重大な問題は、「負担割合や負担限度額がカードの保険証とマイナ保険証で異なっていた」という。神奈川保険医協会(2023年8月4日発表)によれば、負担割合の間違いが判明している42人では、2割を3割、1割を2割あるいは3割と多く負担するように間違った人が12人いた。1/3は負担増に間違い、残り2/3は負担が減るように間違っていた。
多くの医療機関で、マイナ保険証とカードの保険証の突合を行っていないが、窓口担当者が不審に思って確認した人に限るとマイナ保険証利用者の20%に間違いがあったことになる。多くは、70歳以上の高齢者で、市町村によって違いがあるかもと調査したが、どこの市町村でも起きていた。
8月22日に保団連が記者会見し、8月8日までの全国調査で693医療機関で健康保険証の券面と異なる負担割合が表示されたことが報告された。

間違いの原因は?

保険者は支払基金と国保中央会のサーバーに加入者情報を送り、日々更新している。レセプトの審査では、負担割合で問題が起こることは少ない。一方、資格確認では、保険者が中間サーバーに加入者情報を送り、情報の更新を行う。
1つ目の原因は登録のタイムラグ
兵庫県太子町のサイトには、「国民健康保険及び後期高齢者医療保険に加入されている方につきましては、資格情報は手作業での入力ではなく、住民基本台帳に登録されている情報が健康保険証の資格情報として反映されるため、誤情報が生じることはありません。しかし、医療機関におけるオンライン資格確認のためのシステム等の不具合や資格取得直後の情報反映のタイムラグにより、正確な資格情報が表示されない場合もあります。」と書かれている。
保険者が行う中間サーバーの情報更新の手順、中間サーバーから資格確認サーバーへの情報送信の仕組みの詳細は不明だが、どこかでタイムラグが生じている可能性もある。このデータ更新を全国統一でルール化しないといつまでも割合の間違いが起ることになる。
運用フローについて、医療保険者の中間サーバーに正しい情報が届いているはずだが、資格確認サーバーでは最新の情報に更新されていないようだ(図2. ④の流れ)。
2つ目の原因は登録ミス
千葉市長は7月13日記者会見で「担当職員のシステム登録のミスによるもの」、「再発防止に努める」と謝罪した。市町村によっては国保中央会のサーバーに送ったデータが資格確認の中間サーバーに転送されずに、保険者から中間サーバーに、改めて送信するシステム設計なのかもしれない。
3つ目はレセコン電子カルテのプログラム
資格確認サーバーでは正しく表示されているが、医療機関で電子カルテに取り込むときに、割合を正しく取り込まないプログラムがあることもわかってきた。
「レセコン等において、オンライン資格確認結果の負担割合を参照せず、所得清報(限度額適用認定証の適用区分)をもとに負担割合を独自に算出する仕様になっていることが原因」だという。このようなレセコンが使われていること自体、大問題だ。
8月8日に行われた「マイナンバーカードと健康保険証の一体化に関する検討会最終とりまとめ」によると、「国民健康保険や後期高齢者医療制度において、システムの仕様やマニュアルに沿った事務処理が行われないことによりマイナンバーカードによるオンライン資格確認結果と被保険者証の負担割合が相違するケースが報告されており、各保険者で同様の事象が生じていないかの確認等の調査を行い、必要な対応を図る。」と、あいまいな説明に終始している。システムの仕様が原因なら、早急に手当てすることが必要だ。今更「仕様が問題だ」という見解が示されること自体、準備不足だろう。
 それなのに、次期マイナンバーカードは2026年に導入するとも書いてある。今のマイナカード仕様ではポンコツで治せないので、新しくするということなのかもしれない。

図2. 資格確認の運用フロー

デジ庁の責任は?

負担割合間違いについてデジ庁からの説明はない。なぜなのか?中間サーバーとオンライン資格確認システムの管理責任は、責任分界点を定めた図3.から「支払基金・国保中央会が管理責任を負う」と記載されている。
正しいデータに訂正する責任は、国保中央会と支払基金にあり、市町村国保に正しいデータの提出を求め、デジ庁は関与せずということのようだ。現場でどのように解決するかが問題だが来年秋までには間に合うとは思えない。
デジ庁は、マイナ保険証をごり押しするためにムチは打って責任は取らない対応は、何とかしなければいけない。

図3. 責任分界点

3. 資格確認トラブルにはアナログ対応

 第3の問題は、現場のトラブルにはアナログ対応していることだ。マイナカード読み取り機でマイナカードの顔認証ができない、パスワードを忘れた、読み取りシステムのトラブルが発生した場合にどうするか? さらには、顔認証ができたとしても「資格(無効)」、「資格情報なし」と表示された場合はどうするか? 保険情報が本人の理解と違っていて、間違った情報が記載されている場合はどうするか?など、トラブルは無数に起きている。このトラブルに対しては、7月10日に泥縄ともいえる保険局長通知が出された(図4.)。
 通知では、「オンライン資格確認ができない場合」「機器のトラブル等によりマイナンバーカードでオンライン資格確認ができない場合」には、保険証で確認する、さらに、患者さんのスマホで自分のマイナポータルの資格確認情報画面を表示してもらい資格確認する。
 高齢者が自分のマイナポータルを表示するのは不可能と思われ、確認が難しくなることは必至だが、ここで登場したのが「被保険者資格申立書」だ。2023年9月から実施し、患者に可能な限り記入してもらって、対応するという。
 マイナ保険証を利用していない人には、読み取りトラブルは起こらない。したがって、資格申立書記入などアナログな対応もいらない。今まで通りカード型保険証があればトラブル対応を考える必要もなくなる。そう考えると、マイナ保険証の本当の目的はデジタル化ではなく、他にあると考えざるを得ない。

図4. トラブル対応

 高齢者が自分でこの申立書に記入できない時はスタッフが手伝ってもよいものか、よいとしても時間と手間がかかってしまうことは明らかだ。
 現在の保険証では、氏名も住所も正確な漢字で表現されているが、マイナ保険証では、氏名や住所が黒丸(●)になっている例、読み仮名が間違っている例が多数あることがわかっている。●対策は、医療機関スタッフが患者さんにマイナカードの券面情報を聞いて電子カルテに登録することになる。
国民健康保険法施行規則 「第六条 市町村は、当該市町村の区域内に住所を有する世帯主に対し、その世帯に属する被保険者に係る様式第一号による被保険者証を交付しなければならない。」とされている。様式一号には氏名欄があり、本名を記入するが、●表示では施行規則に違反しているのではないか。
さらに、改正された国民健康保険法では、「第9条 当該市町村は、厚生労働省令で定めるところにより、速やかに、当該書面の交付の求めを行った世帯主に対しては当該書面を交付するものとし、当該電磁的方法による提供の求めを行った世帯主に対しては当該事項を電磁的方法により提供するものとする。」となっている。提供の責任は市町村とされ、ここでもデジタル庁の責任は出てこない。
 負担割合が間違った時も、患者さんが申告した負担割合で負担金を徴収し、異なった割合だった場合は後日調整するという。追加徴収、返金はどのように行うのか?口座を登録している人の場合、返金や引き落としをするとでもいうのか? 日頃、未収金処理、返金処理を行っている医療機関に任されるなら、大きなため息しか出ない。
 図5.が、上記の文章をもとに、患者さんに記入してもらう書類になる。

図5. 被保険者資格申立書

4. 朝令暮改の通知を連発

第4の問題は、次々おこるトラブルに、慌てて通知が出されている問題だ。泥縄ともいえる7月10日の通知から1か月もたたない8月7日には、事務連絡:暗証番号の設定が不要なマイナンバーカードへの医療機関・薬局での対応について(周知)が出され、「暗証番号のないマイナカードを発行する」「本人に保険証として使用する同意を得て」目視認証の保険証もスタートさせる、「顔パス認証」を11月からスタートさせるという。
 暗証番号のないマイナカードで顔認証ができない場合は、読み取り機のモードを「無人運転」から「目視確認」モードに変えて、職員が本人確認をする。本人確認ができた後は、読み取り機をもとのモードに直すというもので、うっかり戻さないでいると他の患者さんも顔パスになってしまう。さらに、それでも認証できない時は「資格確認申立書」を書いてもらうという。
 8月7日の事務連絡を読んでもよく理解できない。政府がばたばた対応し、その説明のためにまた通知を出すという、冷静な対応ができていないことが明らかだ。ここは、落ち着いて対応しなければさらに蟻地獄に落ちることになる。
このようなアナログ対応が増えれば、デジタル化のメリットはどこかに飛んでしまうし、医療現場の負担は軽減されるどころか増えることになる。来年秋に保険証を廃止すれば、医療現場で、今は表面化していないトラブルも含めて頻発することは避けられない。
 いろいろな通知を図解(図6.)してみれば、保険証で全て完了していたものを、わざわざ難しくしているように思えてならない。
さらに、総務省は「顔認証マイナカード」を導入するための省令改正の手続きとしてパブリックコメントを募集(10月13日~11月12日)していた。「原則として暗証番号の入力により本人確認を行っているが、主務大臣の認可を受けた特定利用者証明検証者については、当該本人確認を顔認証又は目視により行うことが認められているところ。」と記載し、「特定利用者証明検証者は社会保険診療報酬支払基金のみと」と答えている。つまり、医療機関が顔認証をすることは法令違反に当たる。

図6. トラブル対策フロー

5. マイナポータル利用規約は無効か?

 マイナ保険証の第5の問題点は、2万円分のポイントを前面に出した「有無を言わせぬ利用規約への同意」問題だ。
 医療機関でマイナカードを資格確認読み取り機においた時、保険証としての利用に同意していない人(7月30日現在2,850万人)には、マイナカードを保険証として使用することに同意を求めてくる。
岸田総理が予定通り保険証を廃止する理由は、受診時にマイナカードで受け付けし、「保険証として使用する」に同意する人を一気に増やすことが一番の目的かもしれない。
デジ庁は、病院の受付時に多くの患者さんが読み取り機前に並び、規約を読まずに同意せざるを得ない状況を期待しているようだ

あなたはどの規約に同意しましたか?

マイナポータル利用規約は、2017年 1月16日に制定され、その後も頻回に改定されている。あなたは、どのバージョンに同意しただろうか? 問題になっている利用規約は、2022年 3月22日と2023年 5月11日に改定された規約だ(図7.)。
 2022年3月の免責事項(23条)は、第1項「デジタル庁は、本システムの利用及び利用できないことによりシステム利用者又は他の第三者が被った損害について一切の責任を負わないものとします。」第3項「デジタル庁は、本システムの利用に際しマルウェア感染等で生じた被害について、責任を負わないものとします。」となっている。何とも高圧的な書き方だが、この規約に同意した人は711万人と推定される。

図7. 免責事項の改定

利用規約の免責条項は無効

 これに対して、橋詰卓司弁護士は、『デジタル庁はマイナポータル利用規約の「一切免責」条項をどう改定したか』で、規約の問題点について指摘している。
 「消費者契約法」では「消費者に一方的に不利益な免責文言は無効」とされていたが、2023年6月からは、「事業者らが本来負うべき責任を限定および最小化しようとすることも無効」と改正された。2022年3月のマイナポータル利用規約は消費者契約法に抵触する規約だったが、法改正があるために「免責事項を改定した」と解説している。さらに改定に対する利用者の同意についても「改定後の利用規約に対する同意や確認を求める表示もない」ことも問題視している。
 さらに、消費者契約法に詳しい山田瞳弁護士によると、「2022年3月22日バージョンの正面切った全部免責規定は、消費者契約法8条の規定に反して無効だ」と述べている。そのうえで、2023年5月11日に改定された免責事項でも、「デジ庁の軽過失による債務不履行(又は債務の履行の際の不法行為)によって利用者等に生じた損害については、デジ庁の責任は全部免責されると解釈されるが、軽過失について全部免責する条項も、消費者契約法8条で無効と解される。同じような約款上の条項については、東京高裁が無効と判断している(東京高判平成29年1月18日判時2356号121頁)。」と現在の免責事項についても問題ありとしている。
 このように、マイナポータル利用規約や国民とデジ庁の契約に関しても、法律の専門家から問題点が指摘されるなど、事前に法務的な審査が行われていないことが明らかになった。法案審議も束ね法案のために、立法府でのチェックが十分行われず今後も行政の裁量で全て決められることは大問題だ。
 問題の根源は、明治憲法下で作られた健康保険法なのかもしれない。行政の裁量権が多く基本的人権が尊重されていないなど、いくつもの問題点が指摘されている。

暗証番号なしマイナカード利用者の同意は有効か?

 現在、マイナカードを使って顔認証ができない時、暗証番号入力ができない時は、「顔パス=目視モード」で本人確認のうえ資格確認をすることになっている。ただし、保険証利用に同意していない時は、「顔パス認証」モードでは保険証利用へ同意はできないために、現行の保険証で資格確認をしている。
8月7日の事務連絡によって、暗証番号の設定が不要なマイナンバーカードが2023年11月から発行されることになった。このマイナカードも患者本人の同意に基づき、医療機関・薬局において、患者の過去の薬剤情報、特定健診情報、診療情報を閲覧できるようになるという。保険証が廃止された後で、暗証番号が覚えられない人の同意はどのようにとるのだろうか、消費者契約法に照らして、この同意は有効なのだろうか?

6. 解約困難なサブスク~マイナ保険証

*サブスク(サブスクリプション):定期的に一定金額を支払ってサービスを利用する契約。定期購読料、会費などがこれにあたる。
 
第6の問題は、現在は原則として無料となっているシステム利用負担が、将来行政の判断で有料化される可能性があり、さらに、現在のマイナ保険証を解約することがとても困難になるという問題だ。

将来システム利用者負担を有料化

 もう一つの規約の改定(図8.)では、(利用者の設備等)の第2項で、「マイナポータルを利用するために必要な通信費用、利用者証明用電子証明書及び署名用電子証明書を取得又は更新するための費用その他マイナポータルの利用に係る一切の費用は、利用者の負担とします。」と変更された。
電子証明書については、「原則として電子証明書の発行・記録の手数料は無料です。」(総務省:公的個人認証サービスによる電子証明書)と書かれている。一方、「電子証明書の有効期間は、年齢問わず発行日から5回目の誕生日までに設定されています。」とも書かれている。
 将来的に「電子証明書の発行・記録の手数料を有料にする」ことがあり得るか、あるとすれば国会が決めるのか、デジ庁が決めるのか、も問題だ。法律では、全てが国会の審議なしに行政が決めることになっているので、有料化も内閣総理大臣が決めてしまうかもしれない。

図8. 費用負担についての改定

解約不可のサブスク~マイナ保険証

 デジ庁も厚労省も、「マイナポータルに一度同意したら、マイナ保険証利用登録は解約できないと説明してきた。point of no return(三途の川)を超えると後戻りできないシステムになっている。
5月23日の参議院厚生労働委員会 芳賀道也議員の質疑で厚労省は「マイナ保険証の登録は、マイナポータルを削除でも保険証利用登録の取り消しはできない。マイナポータル削除後もマイナ保険証の利用は可能」と説明している。
今もマイナポータルのQ&Aに以下のような回答がある。
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https://faq.myna.go.jp/faq/show/3570?back=front%2Fcategory%3Ashow&category_id=107&page=1&site_domain=default&sort=sort_access&sort_order=desc
Q:マイナンバーカードの健康保険証利用登録をすると、取り消しはできないのでしょうか?
A:ご回答内容
利用登録を解除することはできません。なお、利用登録はしたものの、マイナンバーカードを健康保険証として利用しないことで、不利益が生じることはありません。
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 2万円付きでお試し購入をして、将来5年ごとに有料で手数料を払わされることになるとしたら、「解約不可のサブスク~マイナ保険証」となるのではないか?
「初回無料の定期購入商法」について、消費者庁は「特定商取引法に違反するおそれがある」と明記している。無料どころか、2万円分のポイントで釣っておいて、数年後にそれ以上にむしり取る悪徳商法だとしたら、絶対許せない。今のデジタル庁ならそれくらい考えているかもしれない。
「解約不可への批判」を恐れてか、8月8日には「マイナンバーカードと健康保険証の一体化に関する検討会 最終とりまとめ」の中で、「マイナンバーカードの健康保険証利用登録は任意の手続であることを踏まえ、利用登録の解除を希望する方については、資格確認書の申請を条件とした上で、任意に解除の手続を行うことができるよう、システム改修を行う。」と記入された。

マイナ保険証利用登録の解除とは?

現在のマイナポータルの利用規約を図解すると、図9.のようになる。システム改修する「マイナ保険証利用登録の解除」とは、どこに保存されているどのデータを削除するのか、紐づけだけを断ち切るのか?
今も、マイナ保険証の利用に同意していない人のデータも資格確認サーバーには保存されている。資格確認サーバーから、健康保険証情報や診療・薬剤情報を削除することは不可能だ。だとすれば、マイナカードとマイナ保険証の紐づけを解除することになるが、それを手作業ですると再び新たなトラブルになる可能性もある。
当初の「登録は解除できない」という方針は技術的な理由だと思われたが、それとも政治的な判断だったのか?ここでもちぐはぐな対応に終始している。
マイナカードとマイナ保険証の紐づけは、マイナンバーを使わずにデータを統合するために、複雑に設計されたシステムになっている。マイナンバーで統合すれば簡単そうだが、情報漏えいを考えてマイナンバーを使わないシステムのために大変複雑になった。
住基ネットのポンコツシステムを無理やり使おうとしたのが原因と指摘する人もいる。
マイナポータルの規約では、29項目の情報取得については、何も書かれていない。そして、登録解除の規約もないので、いずれ新設することになるが、十分な法務的な検討が必要だろう。

図9. 利用規約の図解

7.  データの結合~誤登録

第7の問題として、マイナカードとマイナ保険証の紐づけを希望したにもかかわらずできていない「未了」、さらには、健康・医療・税などの紐づけの間違いがあり、結果として個人情報漏えいが問題になっている。マイナカードと紐づけられている項目、点検対象は29項目だ(図10.)。

図10. 紐づけられた29項目

8月24日現在、マイナカードとマイナ保険証の紐づけができていない人「未了」が77万人いることが分かった。協会けんぽで36万人、健康保険組合などで41万人だという。厚労省は11月末までに紐づけを完了させたいとしている。
さらに紐づけの仕組みは、マイナンバーを使わず「あいまい」な方法で行われているために、誤った紐づけ・誤登録が起こっているようだ。マイナンバーだけで紐づけし、マイナンバーのないものは紐づけないという仕様ではだめなのか?
紐づけ間違いの一番の原因は、準備不足なのに急いで100%達成=「納期を守る」ことを目標にしたためだ。経済同友会の新浪剛史代表幹事は6月28日の記者会見で、保険証の廃止時期を「納期」だとして、「納期を守るのは日本の大変重要な文化」と発言し、保険証廃止が経済界主導でプレッシャーをかけていることが明らかになった。

2023年2月17日「マイナンバーカードと健康保険証の一体化に関する検討会」中間とりまとめ参考資料によれば、「個人番号未提出者の場合、保険者が自ら調査し、被保険者の資格データを登録しているが、特定できない場合や誤りが生じる場合がある」としている。
ここでは、「カナ氏名」の突合が提案されているが、関係者は実態を知っていたのだろうか? 
マイナンバーカードには、読み仮名がない。マイナンバーカードのICチップに記録されているのは、券面に記載されている氏名・住所・生年月日・性別の四情報と顔写真、マイナンバー、それに、電子証明書と住民票コードだ。
一方、協会けんぽの保険証の名前には今も読み仮名が入っているが、国保保険証には、今は読み仮名がない。一方、国保マイナ保険証には、すでに読み仮名入っていて、J-LISから入力しているらしい。
ところが、この読み仮名には間違いが確認されている。ショウコさんがシヨウコさんと表示されるように、“小さな”「ヤ、ユ、ヨ、ツ」問題が指摘されている。
昔のシステムで入力された読み仮名は、“小さな”「ヤ、ユ、ヨ、ツ」が入力できなかったので、国保マイナ保険証にも“大きな”「ヤ、ユ、ヨ、ツ」で入ってしまった。そのため医療機関窓口で「一致しません」のエラーメッセージが出る。銀行口座の読み仮名も同様に表記が問題になっている。
市役所に「どうしたらよいのですか?」と聞いたら、「本人が窓口に来て訂正を申し出てください」とのこと。今は訂正が可能になっているそうだが、お役所対応には閉口してしまう。
 
2023年4月14日に出された通知「オンライン資格確認等システムにおける正確な資格情報の登録について」、さらに2023年5月23日に出された課長通知「オンライン資格確認等システムにおける正確な資格情報等の登録について」でも、5情報でマイナンバーを取得するように通知している。
5情報に対するQ&Aも示されているが、答えになっていない。
Q2 5 情報に含まれるカナ氏名を正確に記載いただくことについて、カナ氏名の表記がされない住民票もある中、どのような確認方法があるのか。住民票がローマ字表記の場合のカナ氏名はどのように確認するのか。
A 住民票の記載事項は、住民基本台帳法(昭和42 年法律第81 号)第7条で定められていますが、カナ氏名(振り仮名)は当該条文で規定されておらず、現在は市区町村が任意で記載している項目です。住民票にカナ氏名(振り仮名)の記載がない者についてカナ氏名を確認する場合は、パスポートのローマ字表記で確認するしかありません。
5情報とは、漢字氏名、カナ氏名、生年月日、性別、住所の5項目だが、現状では読み仮名は確定していない。
読み仮名が完成するのは、2023年6月2日に成立した戸籍法改正が実施され、全国民が1年以内に本籍地に「読み仮名」を届けた後に完成する。しかし、届け出時の混乱が予想され、いつ完成するか予想は困難だ。
「読み仮名」が確定していない時点で、総点検は完了するはずはない。デジ庁は、総点検できる魔法の杖を持っているのか?

マイナ保険証の本当の目的は何か?

 これだけ準備不足でトラブルが多発するマイナ保険証を、無理やり急いで導入する理由は何なのか? やはりお金、経済界と岸田政権が一儲けしようとしているとみるのが妥当だろう。
1つ目の目的、「新しい資本主義」の1つにGX及びDXがあり、儲けの対象としては個人個人の医療情報が「情報資源」として注目されている。弘前市は医療ビッグデータを日本医師会医療情報管理機構に提供し、匿名化したデータを製薬会社や医療機関に提供するプロジェクトが始まっている。法的には次世代医療基盤法が施行され、利用を拒否した患者分を除けば匿名にして活用が可能になった。
 2つ目の目的は、社会保障費、医療費の圧縮に医療DXが使えるということだろう。「社会保障個人会計」を創設し、一人一人の負担と給付を明らかにし、亡くなった時に財産が残っていたら「死亡時清算」として使った分を差し出させる案まで出されている。いずれも「応益負担」という新自由主義的な原則導入を狙っている。
 逆に、所得と税・保険料を把握することで、応能負担を導入することも可能だが、その意志を持った政権が誕生していることが条件となる。
 3つ目は、消費税、インボイスなど、税金を徴収するためのツールとなる。世界中で個人番号、生体認証を導入する一番の目的は、「確実な納税」だ。
 さらに、週刊現代8/26・9/2号で「本当の目的」は2つある。「財政破綻した時に備えてお金の流れを把握し資産課税を狙っている、もう一つは、有事に備えた国民番号制度、反逆者やスパイをあぶりだし、いざというときの動員をスムーズにすることだ」と、弾圧と徴兵のためだと分析している。「便利そう」「トクしそう」という話で終わらないことは間違いないだろう。
 日弁連も11月14日、マイナ保険証への原則一本化方針を撤回し、現行保険証の発行存続を求める意見書をまとめ、総務大臣、厚労大臣などに送付した。
 今後は、マイナンバーとマイナカードをどのように使うのかは有権者が決めるべきだ。次の総選挙で争点になるよう各党は政策づくりを急ぐ必要がある。現場の混乱を最小限にする現実的な対応としては、マイナ保険証とカード型保険証のダブル保険証で対応するのが、現実的だ。

まとめ

・厚労省とデジ庁の情報公開があまりにも不十分、不都合な情報もすべて公開する。
・憲法や健康保険法、個人情報保護法など法務的な検討を優先する。
・マイナンバーカードとその他の情報の紐づけは、本人の希望を優先させる。
・紐づけで、税・保険料の応能負担実現の可能性もあるが、国民の意見を尊重し国会で検討する。
・マイナ保険証とカードの保険証のどちらも使えるダブル保険証に戻す。
・給付のための情報をデジタル化し口座に振り込むことから始めてはどうか。
・与野党の議員は、行政に任せることなく立法府としての責任を果たすべきだ。

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参考資料

保団連オンライン資格確認義務化サイト

https://hodanren.doc-net.or.jp/medical/facialrecognition/

日弁連:マイナ保険証への原則一本化方針を撤回し、現行保険証の発行存続を求める意見書

https://www.nichibenren.or.jp/document/opinion/year/2023/231114_2.html