21世紀の『ローマの休日』になった、新海誠の『君の名は。』

 岡田斗司夫です。

 今日は、2019/06/30配信のニコ生・岡田斗司夫ゼミ「『君の名は。』完全解説と、『なつぞら』『ガンダム THE ORIGIN』、プラス6月のお便り&ステッカープレゼント」からハイライトをお届けします。

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【画像】スタジオから

 次は、恋愛ドラマとしての『君の名は。』の可能性を語った動画です。

 これは3分くらいの映像ですので、ちょっと見てください。

 では、お願いします。

(録画映像開始)

 「『君の名は。』は第2の〇〇になる」という話です。

 ついに、ジブリ作品を抜いちゃったよね。もう今、2位だっけ? 『君の名は。』。

 まあ、『君の名は。』っていうのは、これまでのビターだった新海誠監督のドラマに、砂糖をたっぷり入れて、ミルクをちょっと加えて滑らかにしたダークチョコくらいのさじ加減になってるんだよね。

 邦画と洋画って、やっぱり何が違うかっていうとさ。

 『ハリー・ポッター』の新作の『ファンタスティック・ビースト』を見た人はわかると思うんだけども、あれ、本当に内容がないんだよね。

 ただ、絵はものすごく本格的なんだよ。

 『スター・ウォーズ』の新作の『ローグワン』の予告編を見たらわかる通り、そういった絵作りの部分に関してだけは、洋画ってメチャクチャ本格的じゃん?

 それに対して、邦画って、ああいう本格的な高級感のある絵というのが、もう本当に作れないんだよね。「珍しい風景映す」くらいしかない。

 そんな中で、新海さんというのは、圧倒的に美しい「ルック」というのを持っている作家なんだよね。

 それぞれの映画なりの撮り方の個性、マンガ家で言うと絵の個性、絵面みたいなものを、映画の世界では「撮影監督が持っているルック」って言うんだけどさ。

 なので、『君の名は。』というのには、ものすごく美しい画面が出てこれる。

 今、中国でも大ヒットしてて。残念ながら、3億円くらいの買い切りだったそうなんだけど。それでも、大量のチャイナマネーが日本のアニメ産業に対して、動いているそうなんだけど。

 『君の名は。』ってね、総括すると「21世紀の『ローマの休日』」だと思うんだよ。

 『ローマの休日』っていうのは、青春ドラマ、恋愛ドラマの原型中の原型で、世界中の人が知っていて、世界中の人が共感できる話として、ハリウッドで作られた映画なんだけど。

 あの時代は、スターが出てきて、観光地としてのローマ、みんなが行きたいところに行って、お姫様と新聞記者の恋愛を描くというだけで、世界恋愛映画足り得たんだけど。

 もうね、今や、世界中の人が憧れることが出来る21世紀の恋愛ストーリーっていうのは、『君の名は。』みたいなものなんだと思う。

 出会いがあって、悲しい別れがあって、含みがあるラストシーン。

 基本的に言えば、もう『ローマの休日』での枠組みっていうのを踏襲してるよね。

 こういうワールドスタンダードな恋愛ドラマが、日本のアニメから出てきたっていうのはすごい嬉しいし、たぶん、黒澤明の『七人の侍』以来の、世界の映画界に対してショックを与える作品になるだろうと思ってるんだ。

 なので、「『君の名は。』は、世界でヒットして、おそらく『ローマの休日』のような、世界標準の恋愛ドラマになるだろう」という予想でありました。

(録画映像終了)

 はい、今ご覧になって頂いたのは、2016年の年末に行った「今年の映画を総括する」というニコ生の映像でした。

 「邦画は、高級感のある本格的な絵が弱い」という話をしてて、「それに対して、新海はルックがあるね」という話をしてたんですけど。

 『君の名は。』って、現在、ハリウッドで実写化が進行してるんですよ。

 「あんなにねヒットして、あんなにカッコいい絵を作れても、やっぱり実写にしないと世界映画になれない」というのはもうショックです。

 まだまだアニメは弱いなと思います。

 アニメで世界映画になれたのって、ディズニーと、ピクサーと、宮崎駿だけなんですよね。

 それだけが世界中で、アニメのまま受け入れられて、「ああ、ヒットしたんだ。じゃあ、実写に置き換えようか」などという、屈辱的なことを考えられなくて済んでいるんですよ。

 アニメっていうのは、実写に比べて格下だから。いわゆる、メキシコとか、そこら辺の国でヒットした映画を、「じゃあ、ハリウッドで作り直してあげよう」という、リメイクみたいなことをされてしまうんですね。

 そんな中で、ディズニー、ピクサー、宮崎駿だけは、そういうことがあまりなかったんです。まあまあ、最近はディズニーのアニメもどんどん実写になるので、そこら辺も油断できないんですけど。

 まとめとして、『君の名は。』のルックが、なんであんなに素晴らしいかというと、「新海誠は目が良いから」なんですよ。

 とにかく、新海誠には、東京という街が、新宿という街が、あんなに綺麗に見えるんです。あれがすごいんですよね。

 あの目っていうのは、富野由悠季も、宮崎駿も、高畑勲も、押井守も、庵野秀明も、誰も持ってないんですよ。

 「現実があれだけ綺麗に見えるレンズを持っている」ということが、新海誠の作家性。新海誠は、『君の名は。』で、そこにようやっと踏み切れた。

 「SF的なプロットとか、仕掛けとか、伏線こそが自分の中での作家性だ」と思っていたところから、「この世界を見る目そのものが、実は自分の最大の作家性だったんだ」と気が付いたところが、やっぱり『君の名は。』のすごさだし、新海誠のカッコいいところだと思います。

 どっちかっていうと、マンガ家の目に近いんじゃないのかな?

 後は、『ガンダム THE ORIGIN』のところでも語った通り、「SFを上手く使いこなしてる」というところが、SF野郎としては評価が高くなるところだと思います。

 以上で、『君の名は。』の話を終わります。

【画像】スタジオから

 無料放送は、もう9時近くなりましたので、ここで終わりなんですけど。

 今回は、お便り特集でもあるので、ちょっと後半から、皆さんから頂いたメールを紹介していきますけど、前半の内に、2つだけ紹介します。

 まずは、福岡県の江口さんからのお便りですね。

 先週、取り上げた『アラジン』に関して、「もし、3つの願いが叶うとしたら?」というテーマで投稿をいただきました。

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> 1つ目、無病で永遠の命。
> 2つ目、仕事をしないで好きなだけ趣味に打ち込めるだけの財力。(岡田さん程度)
> 3つ目、近視を治し、裸眼で2.0の視力。

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 ということなんですけど。気持ちはわかりますよね。

 でもね、「永遠の命」ってね、ベジータとか、フリーザとか、悪役時代のピッコロ大魔王が言うセリフでして。

 気づいたら、僕らはドラゴンボールの悪役のような望みを持って生きているわけですね。

 「財力」はね、正直、キリがないと思います。

 僕は今、エコノミーシートだったら、世界中、どこでも行けるくらいの状態になっているんですけど。それでも、日曜日には帰って来てニコ生をやらなきゃいけない。

 プラモや本も、買おうと思ったらいくらでも買えるんですけど。もう、無理なんですよ。これ以上、部屋に置けないから。

 あと、読めもしない本とか、作れもしないプラモを買っても、自分が嫌になるから、やっぱり買えないんです。

 わりと制限があるんですよ。

 「視力」についても、どうしても裸眼で見たいものっていうのも、あんまり思いつかない。

 映画って、矯正視力で十分だし。

*「倉庫を借りないの?」(コメント)*

 倉庫とか、別の部屋とか、書斎とかっていうのは無駄なんですよ。

 もう、とにかく俺は、1日あたり50歩くらいしか歩きたくなくて、その範囲の中で、このニコ生を作っているのが幸せだから。これを動かしたくないわけですね。

 というわけで、気持ちはわかりますけど、江口さんの3つの願いというのは、「現状でかなり幸せ」という意味なんじゃないでしょうか?

 だって、望んでいることがドラゴンボールの悪役レベルなんだから。「現状でかなり幸せ」というバロメーターなんじゃないかと思います。

 とりあえず、6月のステッカーを1枚送りますので、これで我慢してください。

 次は、埼玉県のみらさんからの3つの願いですね。

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> 1つ目、人生のとある時期に戻りたい。
> 2つ目、衰えない声。自分で音源を作ってレコーディングしたものを、iTunesで配信したりして、音楽を諦めずに済んでいます。しかし、年齢のため徐々に声が出づらくなってます。
> 3つ目、行動力。私がいろいろと考え過ぎてしまって、アイデアはあったのですが、それを現実化できなかった、そして、最近、身体が付いて行かなくなってしまったので、本当に惜しいことをした気分です。

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 という、3つの願いだそうですけども。

 いや、それってやり残しだと思うから、今からやればいいと思います。

 行動力っていうのは、人間、失敗しても取り返せる中年になってからの方があるんですよ。

 20代30代の頃って、行動力あるように思うじゃないですか。でも、20代30代の頃って失敗が怖いんです。

 だけど、40、50を超えると「まあ、失敗しても取り返せる」って思うので、そっちの方が行動力があると思います。

 声についても、味だと思うし、「とある時期に戻りたい」と思うなら、その時にやりたかったことを今からやった方が、絶対に楽しいと思います。

 僕は応援しています。その印として、ステッカーを3枚送りますので、これで頑張ってください。

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 記事全文は、下記のnote記事でお読みいただけます(有料)。

『君の名は。』完全解説と、『なつぞら』『ガンダム THE ORIGIN』、プラスお便り特集

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 ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
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