「理想家庭」の骨肉相食む700億円銭ゲバ訴訟と統一協会トップ韓鶴子陣営(含む日本の統一協会)の逆転敗訴

2022年8月25日コロンビア特別区(ワシントンDC)控訴裁判所(Court of Appeals、ワシントンDCは原則二審制・連邦憲法違反は連邦最高裁に上訴可能)において、一つの判決があった。
以下、裁判所の判決文に基づいて報告する。判決文は全52頁あり、まとめる都合上、かなりまとめている。
 
(事案の概要)
控訴人(一審被告)は、故文鮮明の三男文顯進(Hyun Jin Moon)(以下、「三男」)らである。三男はかつて文鮮明が後継者として指名し「第4のアダム」と称していた。裁判所によれば、三男は統一協会を宗教横断的な運動体(interfaith movement)と考えており、将来的には非中央集権的な非教派的な宗教団体にすることを望んでいた。三男はUCI(Unification Church International)なる非営利法人(1971年に文鮮明が側近に命じて設立させた)の理事長でもあり、UCIは概算でも1400億円(1ドル=140円で計算)近くの資産を有していた。

被控訴人(一審原告)らは、世界平和家庭連合(Family Federation for World Peace and Unification)(以下、「家庭連合」)、日本の統一協会及びUnification Internationalであり、文鮮明の未亡人である韓鶴子、文亨進(以下、「七男」)陣営と言える。韓鶴子、文亨進の両名は、いずれも文鮮明の後継者を主張している。被控訴人らは、UCIは、包括的な宗教団体としての統一協会の制度的な具現化であり、UCIは、統一協会を支援するために存在すると主張する。日本の統一協会の請求原因の一部については一審が継続中である。なお、日本の統一協会は、UCIに対し、長年、年間約1億ドル(140億円)を送金していたという認定がある

家庭連合らは、三男以下のUCI理事らを統一協会に対する忠実義務に違反したという理由で提訴した。忠実義務違反の理由とされている事由は2つある。1つ目はUCI理事らが、UCIの資産の半分以上を世界平和家庭連合の意思に反し同連合と関連のない団体に寄付したことであり、2つ目は、財産を寄付する目的のためにUCIの定款を変更したというものである。

 問題となる定款の変更は「統一協会の各教会の活動を支援し、あるいはこれに協力し、あるいは、導くこと」、「統一神学の促進を図ること」を削除し、代わりに「統一運動の理解、その神学や原理の教育を支援すること」という文言に替えたというものなどである。

(争点)
 この控訴審における主な争点は、果たして本件紛争を民事裁判所が裁くことが出来るか否かである。
 アメリカ合衆国憲法修正1条(連邦議会は、国教を定めまたは自由な宗教活動を禁止する法律、言論または出版の自由を制限する法律、 ならびに国民が平穏に集会する権利および苦痛の救済を求めて政府に請願する権利を制限する法律は、これを制定してはならない。)は、、一般的にreligious abstention doctrine(宗教問題回避原則)に基づき、民事裁判所が宗教的な紛争に関与することを否定している。

第一審の高等裁判所(Superior Court、日本人の語感からすると紛らわしい)は、当初、本件紛争について宗教問題回避原則を理由にこれを却下した。これに対し、控訴裁判所は、ディスカバリー(discovery、証拠開示手続き)に入る前の訴状却下申立ての審査段階(motion to dismiss stage)でこれを却下したのは時期尚早であり、ディスカバリーを行い、証拠上、宗教問題回避原則を回避して世俗的な法理論により解決可能かどうかを審理するように命じ、一審判決を破棄し、高等裁判所に差し戻しをした。非法律家向けに分かりやすく言えば、本件では、これまで、一審判決と控訴審判決がそれぞれ2回ずつ存在する。2022年8月25日判決は2回目の控訴審判決であり、破棄差戻判決なので、3回目の一審審理が始まる予定である

これを受けた2回目の一審判決は、非常に長期間かつ入念のディスカバリーを経た上で、家庭連合らの訴えを認め、summary judgment(略式判決と訳されることが多い。主要な事実関係に実質的な争いがない場合において、陪審審理を経ることなく、裁判官が判断を示す判決の形式。)において、UCIの理事らの解任とUCIから流出した5.3億ドル以上(日本円にして700億円以上)について連帯して賠償するように命じた。2回目の一審判決は、本件を信仰上の教義の問題ではなく、権力と金を巡る争いとして判断している。なお、高等裁判所は2回目の一審判決に先立ち、UCIの資産の流出を禁止する仮処分を出している。

これに対し、8月25日の2回目の控訴審判決も、本件が権力と金を巡る争いであることは認めつつも、本件について解決するには宗教上の教義についての解釈を避けて通ることは出来ず、裁判所にはそのような判断をすることは許されていないと述べ、(2回目の)第一審裁判所のように、家庭連合が「指導的な権威を持つ宗教的存在」であり、統一協会にとって何が利益になるのかならないのかを判断することも出来ないし、また、裁判所が検討することが出来ない宗教問題に立ち入らずに、UCIの理事らが、定款を本質的に変更したかどうかの判断をすることも出来ない。要するに、裁判所にはいずれの当事者の統一協会像、あるいは、統一運動像がUCIの設立された趣旨により忠実なのかを判断することが出来ないろして、(2回目の)第一審判決を破棄し、また、仮処分を取り消したが、高等裁判所に差し戻している。

その理由は、UCIの理事らが自己取引、すなわち、三男と理事らがUCIの資産を三男の個人的な利益のために使ったのではないかという点について(2回目の)一審判決は判断していないが、立証次第では認められ得ること、また、宗教問題回避原則には、害意あるいは世俗目的に基づく詐欺あるいは談合についての例外があり、両当事者はこの点について主張や立証を尽くしておらず、高等裁判所において審理を尽くすべき(三回目の一審)というものである。
 
(日本への影響)
UCIの金は日本人から搾取した金か、それを元手にした事業や投資した金であり、それが莫大な弁護士費用で費消されている。両陣営ともに、高額な報酬を取る弁護士を何人も依頼しており、訴訟準備などのために一時間あたり、50~100万円以上は溶けている状態であり、被害者にとっては憤懣やまない状態である。
しかし、控訴審判決における韓鶴子、七男連合の敗訴は、700億円以上の金が入るアテが当面消えたことを意味し、資金繰りに多大な影響が出ていると思われる。日本の統一協会を追い詰め、韓国への送金を止めることが出来れば、資金ショートで統一協会の宗教コングロリマットに大打撃を与えることが出来るかも知れない。


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