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オフェンスの動きの「原則」①

モーションオフェンスが浸透していく中で、様々な動き方が指導されるようになってきましたが、中高生に指導するとどうしても「動き方」を「覚えよう」としてしまいます。そのため練習では動けても試合になるとグチャグチャになる…という人も多いです。

そこで今回は「パターン」ではなく「原則」で動くという話を書きたいと思います。※ その「原則」もチーム毎に異なることがありますし、残念ながら「原則」がバラバラのセットプレーを山のように覚えさせているチームもありますので、あくまで参考にしてもらえたらと思います。

(1) ボール(マン)の隣のスポット

ボールマンとその周囲のオフボールマンがある程度の間隔を保つことで①ボールマンがプレイ選択しやすい②DEFのカバーリングがしにくい状況を作りやすくなります。この間隔を保つことをスペーシング(spacing)と言います。プレイヤーとプレイヤーの間に空いた隙間(スペース。最近は「ギャップ」とも言いますね)と似ていますが、別の意味です。
適切なスペーシングは年齢や男女、各チームが採用しているシステムによって多少変わりますが、強く正確なパスの届く距離(5~6m)が一つの目安で「one pass away」と呼ばれます。

ボールから「one pass away」にあるスポット。(左) 1ガード(3アウト2インや5アウト)の場合、(右) 2ガード(4アウト1イン)の場合。2ガードの方が距離が短いが、逆にボールマンの周囲を空けるためのスポットの場所も多くなるため、チームのコンセプト次第で有利にも不利にもなる。

(2) 3人によるカッティングモーション


今回は単純化してペンタゴン(五角形)で説明します。5ヶ所のスポットのそれぞれで、ボール(マン)の「隣(on pass away)」のスポットに「オフボールマンが居る/居ない」状況ができます。この時に、
① オフボールマンが居るなら空ける
② オフボールマンが居ない(空いている)なら埋める
を原則として動きます。単純ですね。

5つのスポットとオフボールマンの動きの原則。トップ(#1)からパスをウイング(#2)が受けた時、その左右のスポットにオフボールマンが居るなら(この場合なら#1のいるトップを)空ける、居ないなら「誰か(この場合は#1か#3)」が埋める動きをする。

一番簡単なやり方は「隣のスポットから(=空けて)もう1つのスポットに移動する(=埋める)」方法で、「パス(ギブ)&ゴー」と呼ばれることが多いプレーです。そして、別の1人が最初の(空いた)スポットを埋めに行きます。これも良くある見慣れた動きだと思いますが、こういう原則の下で動いていたわけです。

(左) 隣のスポットに居た#1が「空ける」動きからそのまま「空いているスポットを埋める」動きをした場面。パス&ゴーでフロントサイドカットをして折り返しのパスを狙う形でよく見られる。(右) ローポストに行くのをやめた#3が「空いたスポットを埋める」動きをした場面。その結果、#2にパスの選択肢が2つできる。

でもこれだと「パス」→「空ける」→「埋める」を順番にすることになりますから、ちょっと遅くなります。なので今度は、逆サイドの#3が先に動くことで最初のパスと同時に「空いているスポットを埋める」ができる形にしてみます。

(左) 逆サイドからローポストへのパスに繋がる動き。#3が逆ウイング(逆ローポストでも同じ)から「空いているスポットを埋める」動きをしている。#1はパスをした後、トップを空ける動きをする。(右) #2→#3のパスが入ったら、#1は「空いているスポットを埋める」動きで逆ローポストに向かえば、ポストからのパスへの合わせになる(灰色のライン)。#2はパスの後に「空ける」動きでダブルチームに行かれるリスクを回避している。

この場合でも基本的な原則は同じで「隣のスポットに居たら空ける」「隣のスポットが空いていたら埋める」を繰り返しているだけです。「動き方ではなく原則で動く」のイメージが伝わるでしょうか。

(3) 4人によるカッティングモーション


これが4人になっても原則は変わりません。ただローポストはインサイドを得意とする選手が埋めた方が有利になりやすいでしょうし、逆にインサイドの選手が「空いているのを埋めなければいけないから」とトップに上がっていくのは有利さを捨てることになりかねません。そのように各スポットに「ポジション(≒プレースタイル)による優先順位」が生じます。
この優先順位はチーム毎に異なりますし、出場している選手によっても変わってきます。自分がDEFをする時にもそこが見えていると、守りやすくなりますね。

#4が逆ローポストに居た場合の動き。(左) 逆サイドの#3よりもローポストの使い方が上手い選手(#4)が「埋める」動きをする方が合理的だが、#4が入れない時のことを考えて#3も行く準備はしておく(それが「優先順位」)。(右) #4にボールが入った後は、3人の時と動きは変わらない。

そうやって同じ原則で動く中で、ボールマンの選択によって「その動きの意味」を変えるのが現代のモーションオフェンスです。DEF側から見たら同じ動きなのに、自分が攻めるカットになったり、仲間を助けるオフボールスクリーンになったりすることでズレを作っていきます。

ローポストの#4にボールが入らなかった場合。#1の「空ける」→「埋める」の動きと、#3の「ローポストに行くのをやめた後、空いたトップを埋める」動きは基本的に変わらないが、#1が「#3を助ける」目的で#3のDEF(x3)と交錯するコースに入るとオフボールスクリーンになる(露骨にコースを変えてぶつかったらファールですよ、もちろん)。

原則で動くと、タイミングを変えることでどの選手との組み合わせでも同じようなプレーがやれるようになります。上と同じ形でローポスト(#4)にボールが入った後、逆サイドローポストにトップ(#1)ではなくウイング(#2)が「空ける」&「埋める」をするのも良く見るプレーです。特にウイングのDEFがボールにダブルチームに行こうとするなら有効なプレーです。

ウイングの#2からローポストの#4へのパスが通った場面。#2のDEF(x2)がダブルチームに行こうとするなら、#2がバックカットして逆サイドのローポストへ「埋める」動きをする。x2が反応しなければフリーになるし、x2が付いて来たらダブルチームが解消される。#1は自分より先に#2が「埋める」動きした時点で止まって次のアクションに備える。

さらにこの動きを応用すると、こんなこともできます。ウイングから逆ローポストへのバックカットの動きから、トップのDEF(x1)にオフボールスクリーンをかけると、ダブルチーム回避と仲間を助ける動きが同時にできます。そこから更に「埋める」動きをすれば、ポストからのパスの選択肢が2つできます。

(左) #2のバックカット偽装からのラテラル(横向きの)スクリーン。x2はバックカットへの対応でボールマン(#4)へ行けない。x1はバックカットしようとする#1とボールの両方を見ているので正面から来る#2のスクリーンに対応しにくい。(右) #1と#2の両方が「埋める」動きになるので、#4にはパスコースが2つできる。

ステフィン・カリー擁するGSWが得意とする「ポストスプリット」はこの原則で動いているので、選手達の判断で色々なバリエーションが生まれるわけです。

これらのバリエーションの多さを見ると、「動き方」ではなく「原則」で動く重要性がわかるんじゃないかと思います。

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