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【小説】宇宙うさぎ1

 
地球うさぎは憤慨した。
同じ跳躍属の生物であり、自分の方が見目かわいらしく、ふわふわの王であり、親しみがあり、血族には神の使いにまで成り上がった者もいるというのに、一体全体なぜ、カンガルーごときがこの動植物園で看板をはっているというのか。特にあのモミジとかいうカンガルー。前歯が口から飛び出しているのがチャームポイントだとか言って人気があるらしいが、そんなこと言ったらこっちだって前歯四本くらいならいつでもむき出してやる。まったく腹ただしい。飼育員どものカンガルー贔屓にも反吐が出る。あいつらが私の魅力を伝えきれていないから、私の人気が低いのだ。あいつらは、私の一番の魅力を耳だと思っている。呆れかえるわ。ちゃんちゃらおかしい。へそで茶が沸く。まったく、一般常識で考えれば分かることじゃないか。しっぽ。しっぽなのだ。これがうさぎのかわいらしさの根源であり、実用性にも優れ、まん丸だと思われがちだが、実はちょっと細長いこのしっぽ。しかも回転する。本気を出せば竹とんぼ並みだ。出したことないけど。まあ、いい。今は耐え時だ。今に見ていろ。この園の王が誰か分からせる計画は、滞りなく進行中だ。
地球うさぎは、フンと鼻を鳴らして後ろ足で砂を蹴り上げた。そして蹴り上げた勢いで巣穴へ走り出した。こっそり掘った大切な巣穴。この穴には地球うさぎの大事なものが詰め込んであった。計画の要。春に芽吹く。季節は冬。動植物園の動物たちは春を待ち望んでいた。植物たちもまだ、静かに眠っていた――。

 ……私はそこまで原稿を書き、一度、天井を見上げた。それから窓の外に目をやると、季節はもう、初夏の陽気だった。


続く

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