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一人の時を選ぶ

病気がすすんで、お別れが近い時「大切な人の最後は、そばにいたい」あるいは「一人で逝かせてはいけない」と思う人は多いのではないでしょうか。

でも、寿命まで、ちゃんと生ききった人は、その人自身が思う時に、人生の幕引きができるように思えて仕方ありません。

遺さなければならない大切な人を大事に想うからこそ、家族が全員そろうまで呼吸を続ける人がいる。
大切な人を大事に想うからこそ、一人の時間を選ぶ人がいる。

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ある方は、長年連れ添った奥さんが「今日は歯医者に行ってくるからね」と告げて、「わかったよ」と返事をした。奥さんが、家事を済ませてから出かけようと、洗濯物を干して戻ったら、息をしていませんでした。穏やかで静かな最期。

ある日の訪問看護の風景:台所からいいにおい。
奥さん「かんぴょうを大根で巻いて、午前中にお出汁で煮ておくの。一旦火を止めてね・・・」と料理の話し。
看護師「へぇ~」「おいしそう」
ベッドからお奥さんと看護師を交互に見て、ニコニコしながら話を聞いている。
お料理上手な奥さんが自慢の仲良し夫婦。

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ある方は、友人が訪ねてきて、お客さんと楽しく話しをした。飼っているワンちゃんはお客さんに吠えるから、2階にあげられていて、お客さんを見送った奥さんが、犬を連れて戻ったら、息をしていませんでした。穏やかで静かな最期。

ある日の訪問看護の風景:
奥さん「何でこんな病気になったのか」「先週は車を運転していたのに、急に寝たきりになって、子供も孫のことで忙しいし、私ひとりじゃ困っちゃう」と不安顔。
看護師「そうですよね。整理がつきませんよね。一緒に考えましょう」
庭に作りかけの植木鉢を置く棚がある。奥さんのために作っていたもの。

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ある方は、夫婦二人暮らしで、ご主人の意向は最期まで家にいること。寝ずに付き添う奥さんが席を離れて、ご主人のベッド横の椅子に戻ったら、息をしていませんでした。穏やかで静かな最期。

ある日の訪問看護の風景:
奥さん「嫁いだ娘に頼る訳にはいかない。私一人で頑張る」
状態が悪くなったことを、知らされていない娘さんは、何かを感じて看護師に電話した。「父もだけど、母は大丈夫ですか?体が弱いのに頼ってくれないから」
看護師「いつ、その時が来てもおかしくない状態です。お母さんは、ずっとそばにいて、寝ていないと思います」
娘さん「わかりました。偶然を装って帰省します」母親の考えを尊重して、「たまたま用事があって」と急ぎ新幹線で帰省した。
娘さんが付き添いを交代して、奥さんが席を離れたその時に息が止まった。仕事一筋のご主人に連れ添った奥さん、両親想いの娘さん。

何の前触れもなく、突然に。さっきまで話していたのに・・・という方は1割くらい、8~9割は前兆があるのだそう。

最後を見せなかったのは、大切な人の悲しむ顔を見たくないから。
「頑張りすぎないで」というメッセージを伝えたかったから。

今まで、充分自分が大切にされてきたと、わかっているから、一人の時を選んだ。そう思える。

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