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新作漫画遭遇記 第四回 『ウスズミの果て』 ジャンル:ポストアポカリプス

(画像は岩宗治生『ウスズミの果て』一巻表紙から)

こんばんわ。
新作漫画を紹介する連載、新作漫画遭遇第四回は

岩宗治生『ウスズミの果て』

をご紹介します。

(第三回はこちら)

みんな大好きポストアポカリプスジャンルの大注目作品!
また、前回前々回と完結済み作品の紹介でしたが、今回は連載作品の紹介となります。連載誌はKADOKAWAのハルタ。コミックビームから派生した大胆な新人起用を行う渋めの漫画雑誌です。

そろそろ紹介に移りますが、本記事は一巻ラストに明かされる主人公の秘密を除いた一巻内のネタバレを含みます(連載中の作品ですので最新二巻には触れません)。
未読の方はお気をつけください。

一話が無料試し読み可能ですので、リンクを貼っておきます。


あらすじ

無人の世界。廃墟と化した街。そんな中で主人公の少女・小夜は50年以上前に世界崩壊のきっかけとなった異形の存在・断罪者の振り撒いた結晶病に罹った死んだ者たちの死体を回収し続けながら生存者を探す。
生存者に出会ったことは一度もない。それでも、小夜は崩壊した街の隅々を探し続ける。

作品の魅力

この作品最大の魅力は「ポストアポカリプスの描き方にある」と言えるでしょう。
病気の流行で崩壊した世界というのは、それだけだとありきたりに感じます。

しかし、この作品は他の作品にはない有機的な存在、すなわち断罪者が設定として挿入されています。
これにより特撮映画のような異形の死骸と破壊された街という既存のポストアポカリプスとは違う情景が浮かび上がるのです。

また、ポストアポカリプスものは背景の緻密さと崩壊した世界における生活のリアリティが非常に重要になってきます。その世界観が作品一番の魅力だからです。

終末世界の生活リアリティ


その点、『ウスズミの果て』は抜かりありません。

まず、背景が抜群に上手い。背景一枚を見て「綺麗だった街が無惨に崩壊したんだな」という情景が伺えます。

岩宗治生『ウスズミの果て』第一話

これは世界観の構築に於いて非常に重要なポイントです。
「ただの街」と「崩壊した街」というのは描写で違いを出すのが難しい。だからこそ、違いが感じられた時、その世界をとても魅力的に感じます。この作品にはそれがある。設定だけにならない演出の力です。

それが第一の魅力だとすると、第二の魅力は小夜が各地で見つける機械や場所の魅力になるでしょう。

例えば、「映画好きの男の人格を受け継いで映画を見続けるグロテスクな見た目のロボット」

例えば、「病気による主人の死を理解できず綺麗な見た目から生きていることを信じて尽くすアンドロイドメイド」

例えば、「断罪者との戦いの果てに遺されたシェルターとガスマスクを付けたまま死んでいる子供達」

どうです?心が躍りませんか?
魅力的な荒廃世界のシチュエーションが幾つも繰り広げられるというのがこの作品、「ウスズミの果て」もう一つの魅力です。

この二つの魅力は有機的に絡み合い、相互に作品の世界観を作り上げています。まだまだ謎が多い世界観ですが、そのクオリティはとても高く魅力的。

総合すると、『ウスズミの果て』は「緻密な背景と生活のリアリティ」と「魅力的なポストアポカリプス的シチュエーション」のコンビネーションが光る作品、ということです。また、特撮映画の怪獣的な設定を取り入れているのも革新的で、新しい時代の到来を感じさせる注目作です。

一話を読んで「世界観が好きだ」と思った方は一巻を読んで損はしません。むしろ、一話の静かなシチュエーションから世界観の掘り下げが行われて、より魅力が深まっていきます!

新時代のポストアポカリプスを求める方に是非ともおすすめしたい一作でした。


あとがき

この作品もまた池袋ジュンク堂で出会った作品です。「注目作」などと書きましたが、この作品に出会ったのは偶然のことでした。新刊島で表紙に惹かれ、随分前から一話を読んでいました。
ただ、そこから買うまでにしばらく時間がかかりました。理由は一話を読んだ限りではどの方向に進んでいくか分からなかったからです。このままポストアポカリプスが続くことを望んでいたのですが、なんとなくアクションものの線もあるかなという印象でした。
ただどうやらその方向には進まないらしいということがわかり、二巻が出たタイミングで買ってみて、やはり良かった。本屋での出会いにはやはり身を任せるものですね。
本屋の出会いというのは刹那的なもので、その時買わなければもう出会わない作品も多いです。そんな中、この作品のことを忘れずにいられたのは幸運なことでした。
今後もジャケ買いを継続してこの連載を続けていきます!というか、毎月更新を謳っていながら先月の更新ができず申し訳ありませんでした!
年内の記事更新はこれが最後になります。みなさん良いお年を!良い週末を!
いえ……良い終末を!

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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