お寺のお坊さん

正に駆け込むようにして、私はお寺へ来た。少しでも息がしやすい場所を求めてさまよっているうちに、ここへたどり着いたようだ。

お寺へ来てはじめに言われるのは、おしゃべりをしないことで、その時私は言葉を発することすら苦しかったから、これには助けられた。

なにか罰を受けているように自分の言葉にも他人の言葉にも反応していた。

そんななかで、言葉を発さなくていい、発さない方が望ましい、言葉を発さなくても失礼でない環境は、私にとっては救済所になった。

このころ、ほとんどの人間に恐怖を感じて、人と接触する度に心と体が硬直していたのだけれど、このお寺に居るお坊さんたちにはそれを感じなかった。

彼らからは清潔な精神が発せられていて、私の雑念の起こる隙はなかったのかもしれない。

毎朝おつとめのお経の際にあらわれる、彼らの袈裟姿は、ひらひらとした黒い布がとてもきれいで、そこからのぞく裸足の足首を、いつも眺めていた。





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