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遊び以上、デート未満。

はじめてデートしたときのことは、よく覚えている。東京タワーと公園。相手は同い年のとっても奥手な男の子。デートらしいものではなかったし、東京タワーに登ってすぐ帰るようなコースだった。

相手の男の子とは中学生のころから知り合いだ。音楽の趣味が似ていたし、生きている感覚が近かった。それなりに仲が良いけど2人で遊ぶことはない。そんな距離感。学校が違う、というのも大きなハードルだった。なかなか会えない相手と恋愛はしにくいだろう。それが中学生ならなおさら。

会えば話す、そんな関係は中学を卒業しても続いた。高校生になってお互いアルバイトや部活で忙しくなったけど、時間を見つけては好きな曲を聞かせあった。幸せだった。恋愛って楽しいと思った。付き合いたいと神さまにおねだりした。

高校の卒業式の翌日「〇日に東京タワーに登りたいんだけど、着いてこない?」と言われたとき、ほっとした。やっとデートに誘ってくれたことに。デート、と言われてないけれどこれはデートだと思い込ませた。東京タワーって王道のデートスポットだし。
さり気なく好きな服装を聞いて、ナチュラルなメイク法を研究した。いつもよりかわいい私を見せたかった。もしかしたら告白されるかもしれない、とどきどきしながら眠りについた。

そして迎えたデート当日。いつもより早く目が覚めた。わくわくしながら着替えとメイクをする。自分史上最高なかわいさで家を出た。
どきどきとわくわくが混ざって不安になりながら待ち合わせ場所に。時間通りに現れた相手と東京タワーへ向かう。

お花見のシーズンだからか、平日にも関わらずチケット売り場は混んでいた。並びながらお互いの近況を話す。チケットがもうそろそろ買える、となったとき

「俺、高いところ苦手なんだよね…」

と言われた。1番上の展望台は止めておこう、と思いながら「どのくらいの高さから苦手?」と聞く。

「5階くらいかな」

まさかの5階。東京タワー、無理なのでは。「今から別のところ行かない?」と提案するも

「男なんだからこれくらいしないと」

男なんだから!!??東京タワー登れないとってこと!!??正直登れたから男らしさがあると私は思わないよ!!??
意外と登ってみたら平気かもしれない、とかすかな望みを胸にチケットを買った。

後悔した。
やっぱり登らないで違うところに行けば良かった。窓の近くに寄れない様子を見てそう確信した。なんとか一緒に周ろうと「手、つないでてあげるから景色見ない?」と誘うと

「付き合ってないのに手は…」

奥手なのを発揮してくれた。ここで。1人で眺めても楽しくないし、相手も待ってるし、15分くらいで降りた。

降りたあとは東京タワーの周りを散策した。さくらを見ながら公園を歩く。私に合わせてゆっくりと歩いてくれてどきどきした。相手は無理して男らしさを見せようとしているときよりも、ずっとずっと優しい顔をしていた。

歩いているとき、10年後も一緒に過ごしているだろうと思った。弱い電気が走るような甘い刺激がからだを巡っていった。離れたくないと感じた。

本物の恋だ、と気が付いたときはもう夕焼けの時間帯だった。
もう少し一緒にいたいけど、今日は帰っていいかもしれない。そう思っていたのは相手も同じだったようで、別れ際はあっさりと解散した。さみしいよりも満足した気持ちでいっぱいだった。告白されなかったのはちょっと悲しかったけど。でも東京タワーのような王道のデートスポットに連れて行ってくれたってことは、ただの遊びではないのだろう。


はじめてのデートのときのような、甘い刺激を感じる恋がしたい。

その後、相手は私のはじめての彼氏になった

スキをもらえたらとても嬉しいです。よろしくお願いします!

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