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きつねのお宿〜斎藤一〜

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【キャスト】

斎藤一(さいとうはじめ)…新撰組3番隊組長23歳。真面目で必要なら機械のように働く。

篠田月音(しのだつきね)…きつねのお宿の女主人。きつねの耳が生えた美女。

土方歳三(ひじかたとしぞう)…新撰組鬼の副長。厳しいフリして根は優しい。

沖田総司(おきたそうじ)…新撰組1番隊組長。天真爛漫で子供みたいな天才剣士。

小梅(こうめ)…かむろの可愛い少女。ちょっとまじめ。

小桃(こもも)…かむろの可愛い少女。ちょっと天然。

旗本の武士…斬られ役。若いお坊ちゃんでプライドの高さから、斎藤に勝負を挑む。

侍…斬られ役。中年の反幕府勢力の剣士。斎藤に勇敢に挑み、立派に散る。

ナレーション…道先案内をしてくれる天の声。

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きつねのお宿〜斎藤一〜

【土方歳三】
「お前の気持ちはよくわかった…。

……新撰組3番隊組長・斉藤一!
俺はお前を北の戦地には連れて行かん!
もうお前は勝手にしろ!
……達者でな」

【斎藤一】
「…は!」

【斎藤一】
(そう土方さんに言われた。
生き方と志を違えた別れだった…。
だが…。
その時、俺の体の感覚は、
体が散り散りに切れて、
崩れて、
欠けていくような感覚を覚えた)

【ナレーション】
(この物語は、何処ともしれぬ遠い空間から、きつねの女がこう言うと始まるのです)

【月音】
「いらっしゃい」

【ナレーション】
(この世には、不思議な不思議な場所があるもの。もしかしたら、ここはもう、この世ではないのかもしれません。

ここはきつねのお宿、 ウグイスの谷にある不思議な、不思議な、この世のものとは思えないほどのおもてなしを受けられる、お宿でございます。
さあて、今回のお客様は、新選組を表裏で支え続けた新撰組3番隊組長、斉藤一。

新撰組の仲間たちが散り散りになっても、土方歳三とともに歩み続け、 最後北の大地へ行こうとする土方歳三と今生の別れになり、会津に残ったという、 実直で寡黙で真面目な仕事人、一生誠心誠意、生きたお方でございます。

さて、皆様、足など崩してごゆるりとお聞きくださいませ)

【ナレーション】
(斎藤が目覚めますと、そこは朱塗りの柱と天井の豪華な飾り絵がいくつも並んだ、 どこか城のようなところでした)

【斎藤一】
「ここはどこだ?
俺は会津にいたはず…。
あ。なんだこれは?体が…!!」

【ナレーション】
(斎藤が動こうにも、体は寸分も動きませんでした)

【斎藤一】
「これはどういうことだ。
身体が欠けてでもいるのか?
誰かっ、誰かいないのか…?!
俺の体はどうなってしまったんだ」

【月音】
「あらあら。
大丈夫でありんす斎藤一様。
体はちゃんとついてるでありんす」

【斎藤一】
「お前は誰だ…?」

【月音】
「わっちは 篠田 月音(しのだ つきね)。
この狐のお宿の女主人をしている、しのだ つきねでござりんす。
ここはあの世とこの世の境。
わっちは深く悩めるお方をお招きするのが趣味でありんす。
さてさて…」

【ナレーション】
(月音が斎藤の顔を覗き込みます)

【斎藤一】
「なんだお前、きつね耳が生えているぞ」

【月音】
「あらあら、それがどうしたのでありんすか?
わっちは狐でござりんすよ」

【斎藤一】
「狐… 俺はどうしたんだ。お前に毒でも盛られて体の感覚がなくなっているのか?」

【月音】
「いえいえ、わっちが毒を盛る訳なぞ、あるわけがござりんせん。
どうやらこれは…。ふふ、斎藤一様。
最近、心が欠けたり、折れたりしたことはござりんせんか?」

【斎藤一】
「……何が言いたい?」

【月音】
「なら聴き方を変えて、訊ねるでありんす。
斎藤一様、今まであなたは自分の過去を振り返ったことがありんすか?」

【斎藤一】
「……だから、なぜそんなことを聞く……」

【月音】
「身体のそこかしこ。足にも腕にも胸にも腹にも、あなたの気持ち、心が伴ってないのでありんす。
今まで自分のことを振り返って気持ちを確認してこなかった罰でありんすね。
それで身体が動かないのでありんすよ」

【斎藤一】
「なんだそれは。
どうしたら治るんだこれは」

【月音】
「そうでありんすね。
それは自らの過去を思い出して、 語って、気持ちと付き合わせてみれば、徐々に動くようになるでありんす。ふふふ。」

【斎藤一】
「一体何がおかしいんだ」

【月音】
「いえいえ別に。
ではでは、お手伝いして差し上げましょう。
まずは胸」

【ナレーション】
(そうして月音が斎藤の胸を撫でますと、思い出が蘇ってきます)

《回想》

【沖田総司】
「斎藤さんは真面目だな〜!」

【斎藤一】
「沖田さん…」

【沖田総司】
「斎藤さんってば、私の自慢の冗談にも笑わないんだもの!ね、土方さん?」

【土方歳三】
「そうだな総司。斎藤は真面目すぎで、冗談の一つも言わねえからな」

【斎藤一】
「…ああ、そういえばこの前…。
仕事から帰って、暗がりの中、寝床に行くと…。」

【沖田総司】
「なんですか?」

【土方歳三】
「なんだ?」

【斎藤一】
「布団がな、突然吹っ飛んだんだ」

【沖田総司】
「…………え?そのあとは?」

【斎藤一】
「そのあと…とは?」

【沖田総司】
「えっと、斎藤さんが真面目に言うから、つい。布団が吹っ飛ばされて、そのあと敵に襲撃されたかと…」

【土方歳三】
「いや、多分斎藤なりの冗談だ。総司」

【斎藤一】
「はあ、…もう そういうのは俺には不得手なんです。そういうのは全部沖田さんに任せますよ」

《回想終了》


【月音】
「あらあら、なかなか仲良しな思い出でありんすね。…この時はなんて思ったんでありんすか?」

【斎藤一】
「なんて思ったか…なんて…」

【月音】
「いいから、言わないと体も動かないままでありんすよ」

【斎藤一】
「…。
……ああ、言いづらいが、 この世にはいるだけで必要とされる人間と、何か仕事や役に立つことをしてないと、必要とされない人間とがいる。
沖田さんは明るく笑って話しかけるだけで、その場にいることを許される人物だ。

俺とは真逆の人物だ。ふたつ歳上の先輩で俺との仲は良かったが…」

【月音】
「仲は良かったが?その時は本当の気持ちはどう思ってたんでありんすか?」

【斎藤一】
「……」

【月音】
「ほらほら、言わないと。治るものも治らないでありんす」

【斎藤一】
「………羨ましかった。
俺も沖田さんのようにその場に居るだけで、歓迎される人物になりたかった…けど、俺はそうはなれない。
更に言うなら、沖田さんは戦場では斬り込み隊長に豹変する。
日常でも戦場でも活躍する稀有な人物だ。
比べた所で俺に勝てる部分はなかった」

【ナレーション】
(その瞬間、斎藤は自身の肺と心臓の動きを感じました。息が深々と吸えて、胸の存在を感じることが出来るようになりました)

【斎藤一】
「胸の感覚が戻ってきた…」

【月音】
「あらあら、よかったでありんす。
では、お次は右腕…」

【ナレーション】
(月音が斎藤の右腕を触りますと、また思い出が蘇って来ます)

《回想》

【土方歳三(少年時代)】
「斎藤は筋がいいな。
試衛館道場に習いに入ってメキメキと成長してる。さっき近藤さんに教わった右腕の使い方も、すぐに習得して、試合に活かしてやがる」

【斎藤一(少年時代)】
「あの…近藤さんは…。本当に武士になるんですか?」

【土方歳三(少年時代)】
「ああ、そうだ」

【斎藤一(少年時代)】
「だって彼は農家の出のはずでは?」

【土方歳三(少年時代)】
「ああ、それがどうした?」

【沖田総司(少年時代)】
「そこを可能にしちゃうのが、近藤さんなんですよ!斎藤さん!」

【土方歳三(少年時代)】
「少なくとも、その近藤勇に惚れ込んで、同じ夢見てるバカが、俺や、こいつや、この試衛館の仲間達だよ。
斎藤、お前も同じ夢を見るバカになるか?(満面の笑み)」

《回想終了》

【月音】
「あらあら!なんとも輝かしい青春の思い出でありんすね」

【斎藤一】
「バカだと思った…けど、本気でその夢を信じるバカ共に憧れて、俺も夢見るバカの仲間入りをした…。
この選択に後悔はない」

【ナレーション】
(そう思うと同時に、斎藤の右腕は自由に動かせるようになりました)

【月音】
「ふふ、よかったでありんす。
お次は左腕でありんすね」

《回想》

(ザシュッ!!真剣で斬り殺す音)

【旗本の武士】
「ぎゃーーーーー」

【斎藤一(少年時代)】
「ふーっふーっ(荒い息遣い)」

【土方歳三(少年時代)】
「なんだなんだ!?斎藤…っ!?
…旗本の武士を真剣試合で斬っちまったのか…」

【沖田総司(少年時代)】
「斎藤さん!!斎藤さん!!」

【斎藤一(少年時代)】
「(荒い息遣い)はあはあ、…は!」

【斎藤一(少年時代)】
(その時、刀から離した俺の左手には、大量の血しぶきが飛んでいた…)

【斎藤一(少年時代)】
「…っ!!!!」

《回想終了》

【月音】
「あらあら、辛い記憶でありんすね」

【斎藤一】
「これに関してはもう、他にどうすればよかったか、俺にはわからない。
旗本の武士がやっかみから、俺に真剣試合を申し込んできた。
俺じゃなくて、沖田さんだったら、もしくは土方さんでも、こんなことにならなかったかも知れない。
俺は旗本の武士を斬り殺した。
それで、試衛館にも、江戸にもいられなくなって、京都の親戚の道場に身を置く事になった…」

【月音】
「その時はどう思ったのでありんすか?」

【斎藤一】
「…っ、試衛館のみんなと、離れたくなかった。なんだかんだで、みんなとバカをやってるのが、俺は好きだった。
離れて寂しくてたまらなかった」

【ナレーション】
(すると、斎藤の左腕は、自由に動くようになりました)

【月音】
「あらあら、動いてよかったでありんす…。もしかしたら原因は…」

【斎藤一】
「ん?原因がわかったのか?」

【月音】
「いえいえ、まだなんとも言えないでありんす。さてさて、お次は…腹」

《回想》

【斎藤一】
「皆、久しぶり」

【沖田総司】
「斎藤さん!!久しぶりです!また会えてほんと嬉しいです!」

【土方歳三】
「斎藤、また会えると信じてたぞ。
お前はまた、俺たちの仲間に加わってくれるな?」

【斎藤一】
「はい、よろしくお願いします。土方さん」

【沖田総司】
「斎藤さん!ようこそ壬生浪士組へ!!」

《回想終了》

【月音】
「またお仲間になれたんでありんすね」

【斎藤一】
「ほぼ一年後、試衛館の面々が京都に上洛して、治安維持隊・壬生浪士組…のちの新撰組を始めた。
俺はすぐさま初日に駆けつけて、仲間に加わった。
皆、江戸にいた頃と寸分変わらぬ態度で迎えてくれた。
この日、沖田さんと久しぶりに手合いをした後、八木邸で食べた飯はとんでもなく美味かったよ」

【月音】
「ふふふ、良き思い出でありんす。
本当に大切なお仲間なのでありんすね」

【斎藤一】
「大切な…仲間。ああ、そうだな。
また仲間になれて本当に良かった」

【月音】
「お次は…右足」

《回想》

(刀で刺す音ザシュリ!!)

【侍】
「フグッ!」

(刀を引き抜く音)

【侍】
「…っぎゃあああおおお」

(露払いをして刀をチャキリと鞘に収める)

【斎藤一】
(…あれから何人斬っただろう。
覚えていない…。
もう人を斬る事にためらいはなく、
ただの作業だ。
感情を閉ざして闘う日々…。
気付けば、『新撰組で1番人を斬った男』と呼ばれるようになっていた)

《回想終了》

【月音】
「あらあら…」

【斎藤一】
「……。
仕方ない、誰かがやらねばならないことだった。
俺がやらねば、他の者がやっていたこと…」

【月音】
「けれどこれは…、お辛かったのではござりんせんか?」

【斎藤一】
「辛くなどは…」

【月音】
「真(まこと)のところは?」

【斎藤一】
「……。」

【月音】
「言わぬと体が動かないでありんすよ?」

【斎藤一】
「…わからない。とにかく辛いとか苦しいなんて言ってられない状況ばかりだった。頼りにしていた沖田さんも病死した。
もう心の弱さなど捨てなけれならなかった…。」

【月音】
「…時代の流れがそうさせたのでありんすね…。
けれども、ここをどこと思ってるでありんすか?」

【斎藤一】
「?」

【月音】
「ここはきつねのお宿。
ここはあの世とこの世の境…。
ここは現実とは全く関係ないお宿でござりんす。

あなた様が無視していた心のうちを、今、吐き出したとしても、ここにはわっちとあなたしか居ないでありんす」

【斎藤一】
「……それは…」

【月音】
「ええ、わっちとあなただけの秘密でありんす。」

【斎藤一】
「………辛かった。苦しくても吐き出せなかった。
それでも自分にはやらねばならない役割がある!
だが、この役割は、いつになっても無くなる事なく、俺にのしかかり!
いつまで経っても、俺は楽にはなれなかった!!」

【ナレーション】
(想いを吐き出すと同時に、斎藤の右足は動くようになりました)

【月音】
「あらあら、やはり心の辛さを隠していたでありんすね。
ここで好きなだけ吐き出すといいでありんす」

【斎藤一】
「みっともないな…俺は」

【月音】
「人は皆、みっともないものでありんす。隠してるだけでね。

さて、お次は左足…」

《回想》

【土方歳三】
「もう会津は持たない。俺たちは北の庄内(しょうない)に移動して援軍を乞おう。斎藤お前はどう思う?」

【斎藤一】
「会津藩は新撰組を今まで支えてくれた存在だ。
そこが落城しそうになってるのを見て、今までの恩義を忘れて見捨てる?
そんなのは、誠の志(こころざし)とは言えない」

【土方歳三】
「そうか斎藤、お前は会津に残れ。
俺たちは庄内へ行く。」

【斎藤一】
「土方さん…!?」

【土方歳三】
「お前の気持ちはよくわかった…。

……新撰組3番隊組長・斉藤一!
俺はお前を北の戦地には連れて行かん。
もうお前は勝手にしろ!
……達者でな」

【斎藤一】
「……は!」

《回想終了》

【月音】
「あらあら…」

【斎藤一】
「志を違えての別れだ。
仕方ない事ではある…。
だが……」

【月音】
「だが?」

【斎藤一】
「なぜか、この時。
自分の心と体が欠けていくように感じた…。
そうしていたら、ここで動けない羽目になっていた…」

【月音】
「試衛館時代からの大切な仲間との別れでありんすもの。
欠けたように感じるのも自然なことかと」

【斎藤一】
「?」

【月音】
「大切な仲間との別れは、自分の一部が欠けるような衝撃を受けるものでありんす」

【斎藤一】
「そうなのか?」

【月音】
「そういうものでありんす。
それがその人にとって、大切であればあるほど、大きく心が欠落したように感じるものでありんす」

【斎藤一】
「そうか…、そうだな…。
この心に空いた穴は誰にも埋められないだろう。
それくらい大事な仲間たちだった。
時代の荒波に、ひとりまたひとりと、仲間が欠けていった…。
なかにはやむを得えない事情で、俺がこの手で殺した仲間もいる…」

【月音】
「哀しいでありんすね」

【斎藤一】
「ああ、そうだな…。
俺は本当…哀しかったんだ」

【ナレーション】
(すると斎藤の体は自由に動くようになりました。
動きを確かめて、よろよろと立ち上がる斎藤を月音が支えます)

【月音】
「大丈夫でありんすか?」

【斎藤一】
「すまんな」

【月音】
「…あら?汗まみれでありんすね。
小梅、小桃、斎藤様の湯殿の準備をしなんし」

【小梅・小桃】
「「は〜い〜、わかりました✨」」

【小梅】
「斎藤様✨斎藤様✨お風呂は内湯と露天風呂、どちらがいいですか?」

【小桃】
「ヒノキ風呂に、岩風呂✨石釜風呂に、樽風呂✨打たせ湯に、寝転がり湯✨」

【小梅】
「源泉かけ流しで、滋養強壮、肌荒れ、肩こり、腰痛、いぼ痔、恋の失恋にも、とにかくあらゆる病に効くきつね温泉です〜✨」

【小桃】
「月音様も、招いた殿方に何回失恋しても、このきつね温泉で心の傷を癒しておられます〜✨」

【月音】
「こらっ、わっちの色恋について斎藤様に言うのはやめなんし!
あらあら、ほんにもう。
さあ、いい加減にして、早くお風呂の支度しに行きなんし!」

【小梅・小桃】
「「(笑い声)はーい、月音様」」

(かぽーん)
(湯をかける音)

【斎藤一】
「本当広い風呂だな」

【ナレーション】
斎藤が体を洗っていると、かららと浴場の扉が開きました。

【月音】
「斎藤様、お背中流させてくださいませ」

【斎藤一】
「……実に大胆な女だな、君は」

【月音】
「あらあら、まあ。ふふふ。
お褒めにあずかり光栄でござりんす」

(ざばあーと湯に浸かる音)

【斎藤一】
「…ふぅ〜〜」

【月音】
「お湯加減はいかがでありんす?」

【斎藤一】
「ああ、いい湯だ。ちょうどいい」

【月音】
「お体は隅々まで、ほぐれたでありんすか?」

【斎藤一】
「ああ、まあまあな」

【月音】
「本当?」

【斎藤一】
「?なんだ」

【月音】
「あと一カ所、斎藤さまの大事な所を忘れておりんした。
もしよろしければ、湯上がりに和らげて差し上げるでありんすが?」

【斎藤一】
「………そこは1番手強いが…いいのか?
月音殿…?」

【月音】
「あらあら、ふふふ。
もちろんでありんす」

(どこかで狼の遠吠え)

(朝)
(鳥がさえずっている)

【月音】
「ん…おはようでござりんす。起きるのがお早い。もうお目覚めになられたんでありんすね。ふあ」

【斎藤一】
「………月音。
俺はそろそろ現実の戦場に戻ろうと思う」

【月音】
「え?あらあら」

【斎藤一】
「この心の穴は埋まらないが、月音がその傷を忘れさせて、心を和らげてくれた。
感謝する…月音。
君のおかげでまた俺は戦える」

【ナレーション】
(その時ふーっと風が吹き、斎藤はきつねの宿から姿を消していました)

【月音】
「え?あらあら、もう現実に戻られてしまった。
ああ、もったいない!
もう少しねんごろでいたかったのに。

…まあいいか 、もともと、こちらで休まずとも長生きする方でありんす。

これから藤田五郎と改名したのち、誠実に長生きして、結婚したり、警察官になったり、女子校の事務員になったり、
悲惨な運命が多い新撰組の方々のなかでは、報われた人生でありんす。

これはこれで悪くない…。
…さぁて、次は誰を招きやしょう」

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