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舞台感想 ねじまき鳥クロニクル

昨日、12月1日。
宝塚ファンの私にとって、この日は特別な日でした。
宝塚大劇場での公演再開日でソワソワしていました。
私の個人的な意見としては、ホッとしているし再開を喜んでいます。
様々な考えがあると思うけれど、私は歌劇団公式の「ご遺族代理人とのお話し合いについて」を信じています。
するべき謝罪はし、変えるべき部分は変え、残すべき部分は残し、時代に即しながらも伝統を守る歌劇団として存続してほしい。
「歌劇」という一つの文化。
OSKやハウステンボス歌劇団、他にも歌劇を演じる集団は存在し、それは一つの芸術分野だと思います。その代表者ともいえる宝塚歌劇団なのだから、矜持を捨てずに、立ち直って欲しいと思います。
理事長も変わったことだし、良い方向に変わると信じています。
頑張れ、宝塚歌劇団!

おまけに、今日のスカイステージで、早速昨日の初日映像が流れて涙。
卒業なさる和希そらさんのイケボも聞けて、踊る姿も見られて、涙。
そして……
咲ちゃんの「お客様がずっといっしょにいて下さって」って言葉に涙腺崩壊ですよ。
いるよ、一緒にいるよ、ずっと応援しているよ!
様々な思いに苦しんだだろうけれど、頑張って幕を開けてくれてありがとうね。頑張るタカラジェンヌを心から応援しているからね。
フローズンホリデイの振り付けもマスターしたからね。
観に行くからね。大好きだからね。

と、愛を叫んだところで本題。

昨日12月1日、私はシアタードラマシティで観劇をしてまいりました。
宝塚とは、かなり毛色の違う作品。
でも、音くり寿ちゃんが出演するので、興味を持ったのです。
というのも、ご卒業後のくりちゃんの出演作「曇天ガエシ」を観劇して、感動したのですね。「うちの音くり寿って凄いでしょ」って宝塚ファンとしては自慢したい感じだったからね。
感想は、こちら
舞台感想 梅棒16th showdown「曇天ガエシ」|おとぼけ男爵 (note.com)

多分、オーディションとか受けて手に入れる役なのだと思うけれど、ジェンヌさん時代から何をやらせても上手い!特に芝居の豹変ぶりにはビビる!というくりちゃんでしたから、引く手あまたなのではないかしら?

そんなくりちゃんが、出演する舞台が「ねじまき鳥クロニクル」
うう……これは梅棒と違って難しそうだぞ~ 寝ないかな~ 
12000円!? なかなかのお値段~ どうしようかな~
と迷っていたのですが、イープラスさんの手数料無料のお得メールがきたので、思わずチケットを取ってしまいました。
二週間くらい後には値引きメールがきてちょっと頭に来たんだけれど、きっとひどく悪い席しか残っていないのだろうと、自分に言い聞かせました。
全席同一金額っていうのは、少々問題あるといつも思います。
最前列も最後列も同一金額ってねえ。だから売れ残って値引きしちゃうんじゃないの?後ろだとホント損した気分になりますものね。

ま、宝塚はいいんですよ。バウとかドラマシティとかは、いっつも満席だからチケット取れるだけでOKなの。

でも、当日券ありのような公演では、ほんと、頭にくる。
以前も京都劇場であったのよね。ぴあの正規で手数料払って購入した席が最後列で、隣は空席で当日券ありっていう日。(それも空いているわけだから窓口で当日券が売れていないってことですよね)
手数料返せ!って言いたくなった。
あの時は、14500円ってお値段だったからね。
最前列は20000円、最後列は10000円くらいにして差をつけて欲しいと、心から思いました。

ま、グチは置いといて、舞台感想を。

観劇した作品は、ねじまき鳥クロニクル
原作 村上春樹
演出・振付・美術 インバル・ピント
脚本・演出 アミール・クリガー
脚本・作詞 藤田貴大
音楽 大友良英
出演
<演じる・歌う・踊る>
岡田トオル:成河/渡辺大知
笠原メイ:門脇 麦
綿谷ノボル:大貫勇輔
加納マルタ/クレタ:音 くり寿
赤坂シナモン:松岡広大
岡田クミコ:成田亜佑美
牛河:さとうこうじ
間宮:吹越 満
赤坂ナツメグ:銀粉蝶
<特に踊る>
加賀谷一肇
川合ロン
東海林靖志
鈴木美奈子
藤村港平
皆川まゆむ
陸渡辺はるか (五十音順)
<演奏>
大友良英
イトケン
江川良子

読書は好きなのですが、村上春樹さんの作品はそれほど読んでいません。
この作品は、かなり昔に読んだという記憶だけがあり、内容忘れてしまいました……

村上さんの作品は、読んでいるときには吸い込まれるようにして読み進めるのだけれど、読み終わってしまうとええっとどんなお話だったかしら?ってわからなくなる不思議な読後感を味わうんですよね。

最近読んだ作品の感想はこちら
読書感想文 街とその不確かな壁 村上春樹|おとぼけ男爵 (note.com)

現実と精神世界や時間が交じり合うような独特の世界観を持つ村上作品を舞台にって、ストーリーが単純じゃないから、どうなるの?って思います。

HPを見ると
「イスラエルの奇才 インバル・ピントと気鋭のアミール・クリガーの演出、演劇界の俊英 藤田貴大の脚本で舞台化し、音楽を大友良英が手掛けた創造性豊かな意欲作。2020年の初演時に、公演期間の短縮を余儀なくされた伝説のステージが、ついに今秋11月に再演される」
だそうで、ちょっと凄そうです。

当然、音くりちゃんは初演に出ているはずもなく、今回新たに参加するキャストなわけですよ。くりちゃん、どんな演技をみせるのか? ドキドキ!

宝塚観劇とは別の感覚で対峙しないと寝てしまうぞ!という予感があったので、頭をからっぽにして舞台全体を観よう!と思って、観劇に臨みました!
臨みました!っておおげさな……
結果、一度も眠ることはなく(ちょっと危ないところはあった)最後まで観劇し、けっこう満足しました。
宝塚を観終わった時のような、ルンルンした感じではないのです。
けれど、作品そのものが上質な演出と見事なダンスパフォーマンスに支えられて、村上作品を読み終わった時のような、不思議な感覚で見終わることができました。これって、村上作品を見事に舞台化したってことですよね。
私のような一般的な舞台好きなおばちゃんが、なかなか面白かったと思えるのだから、マニア向けの特別な作品ではなく広く大衆に向けて創られた上で、高い芸術性を持っている稀有な作品とでもいえると思います。

ネタバレありの舞台感想です。ご注意下さい。

ストーリーっていうのは、上手く説明できません。
岡田トオル、クミコ夫妻の飼っていた猫が行方不明になります。トオルは猫を探すのですが、その内クミコまでもが行方不明になります。
トオルが猫を探している時に出会ったのが笠原メイで、メイはトオルを気に入っている様子です。
メイにあだ名を聞かれてトオルは「ねじまき鳥」と答えます。
トオルには謎の女から性的な電話がかかってきます。
後半では行方不明のクミコからも電話がかかってきます。
猫を探すトオルが頼る占い師が加納マルタです。マルタの助手で妹のクレタは綿谷ノボルにレイプされ、娼婦になっていた過去を持ちます。
綿谷ノボルは、クミコの兄で邪悪の象徴のような人物です。
邪悪な顔を隠して政治家になろうとしている人物なのですが……
そして、行方不明になったクミコはノボルの所にいるらしい……
トオルはクミコを取り戻せるのか?
戦争体験を持つ間宮や声を失ったシナモン、その母のナツメグなども物語に関わってきます。
って、書いていてもなんのこっちゃ?ですけれど。
大筋はトオルがクミコを取り戻そうとする物語なのかなあ……

現実世界と枯れ井戸の中の不思議な世界を行き来するように物語はすすみます。

ストーリーを追うというよりは、場面場面の視覚的な面白さ、セリフと演者の動きなどを楽しむ感じです。

印象的なシーンを思い起こしてみますと、
猫を探すトオルにメイが枯れ井戸におばけがいると言います。すると井戸である舞台中央の穴からダンサーが現れ、踊ります。その、不可思議で怪しげなダンサーたちの動きにゾクリとします。
トオルとクミコが室内の長テーブルの端と端に座って行方知れずの猫について話をしています。時計の針がくるくる動き、二人の間にある長テーブルはどんどん長くなってトオルとクミコの距離が離れていきます。
舞台上部では会話をするトオルとマルタが見え、下側では黒いダンサーが犬の散歩させるように踊っています。
いくつものドアの中から現れたり消えたりするダンサーたち。
部屋のソファにクレタがすいこまれて消える。
ダンサーたちが泳ぐプール。
オークション会場にノボルが現れ、ダンサーたちが繰り返し踊る。
間宮が戦時中の残酷な話をし、井戸を落ちていく。
メイの入った巨大な絵ハガキ。
他にも色々面白いシーンがあります。
一つ一つのシーンの装置や見え方が面白いのです。
ダンサーがどこから現れてどこに消えていくのか予測がつきません。
ダンサーたちのユニークなダンスは、鍛えられた身体でなければ表現できないような動きです。
スローモーションのようであったり、組体操のようであったり。
人の体の集合体が一つのデザインになっているような美しさがあります。
一人の人間が一人の人間を抱えて自分の体の周りを回せちゃうものなんですね。なんというか重力が消える? 磁石のように体がくっついてる?
すごい技術だなと思います。
大きな布にトオルが吸い込まれていくような演出もおもしろかったなあ。

そしてユニークなのが、配役。
「岡田トオル:成河/渡辺大知」ってどういうこと?
ダブルキャストじゃないのに。
そうなんです、岡田トオルを二人の役者が演じるんですね。
一人の人間の表と裏とか、そういう意味合いがあるのかな?
わたしにはその「意味」についてはよくわかりませんでしたが、まるで鏡に映っているように現れる二人目のトオルの登場から、舞台を二分して二人が存在したり、二人が一緒になったりするのは面白かったです。
この不可思議な世界観は「意味」がわからなくても、なぜだか納得できました。なぜだろうな?

演出家がイスラエルの奇才と言われるだけあって、本当にユニークです。
演出を生業とする人がこの作品を観ると「やられたなあ」って思うのではないかしら? どのシーンをとってもユニーク。そして、ダンスの振り付けもユニークです。本当に観たことない作品です。

音楽は生バンドで、シーンにあわせながら演奏されるのも迫力がありました。バンドの音や、電話のコールなど、突然大音響で鳴らされる音に、びっくりするようなシーンがいくつかあったので、そういうのが苦手な方はご注意下さい。「大きな音」であることで、ドキンとして心がざわざわする不快感を感じさせることも演出の一つなのかもしれません。

出演者の皆さんは、芸達者な方ばかりで上手いです。
でも、私的にはやっぱり音くりちゃんですよ。
凄いです。
マルタとクレタの演じ分け。
マルタの融通のきかない変人っぷりは見事です。
クレタのとらえどころのないふわふわ感が豹変するのも凄いです。
そして、クレタとノボルの凄まじいダンスシーン。
ここ、ちょっとドキドキするというか、ちょっと目をそむけるというか、心穏やかには観ていられないダンスなんですね。
生々しいというか、性的な動きを感じさせるというか。
歌の印象の強いくりちゃんですが、ダンスの凄さにも進化を感じました。
この作品は音楽劇なので、歌も歌われますが、ミュージカルのような歌ではありません。セリフの延長のような流れのある歌です。
くりちゃんだけは、美しくも怒りに満ち恐ろしさを秘めた声量ある歌声を響かせておりまして、これまた凄いなと思いました。

私の観た回は終演後にねじまき談話室というキャストトークが実施されました。渡辺大知さん、大貫勇輔さん、音くり寿さん、吹越満さんが登壇されて東京公演のお話などをして下さって、面白かったです。
吹越さん曰く、演出家はイスラエルに帰ってしまっているから、必要な場合は日々の演出は出演者で変更するようです。面白いですね。まさに、生き物のような舞台です。そして、出演者の好きなシーンの話がでたのですが、吹越さんは音くりちゃんのシーンの全部が好きだとおっしゃっていて「さすがだわ」と呟いておられました。あれだけのベテラン俳優をあれだけ感心させるくりちゃん。また、誇らしくなっちゃいました。

楽しいだけではない舞台鑑賞も脳の違う部分を刺激される感じがあって面白かったです。

宝塚OGさん出演 舞台感想まとめ|おとぼけ男爵 (note.com)

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