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絵本は数学的思考力の獲得を促進する

今回の論文は、オランダのユレヒト大学とオーストラリアのディーキン大学の研究者が、絵本は数学的な考え方を身につけるために有効であることを調べるために、実際に絵本の読み聞かせ場面を分析しました。
その結果、絵本を使う有効性や絵本の選定基準、読み聞かせのポイントを明らかにしています。

論文について

論文について

それでは今回の論文について紹介していきたいと思います。

今回の研究は、絵本が数学的な概念の獲得に効果的であるとこを明らかにするために、オランダの幼稚園に通う5歳から6歳の男児2人・女児4人の合計6人を対象に行われました。
そして、担任の先生が6人の幼児に対して絵本の読み聞かせをしている場面を分析しました。

研究に使われた絵本は3冊で、身近な「数」の領域だけではなく、幼児が日常生活で触れる機会が少ない以下の数学的な領域を使用しました。

  • 幾何学(物の断面や形状を扱ったもの)
    絵本:『O, nee! Pop in de wc ...』(著:Astrid Huijsing 出版社:Amsterdam : Pimento, cop. )
    主人公の女の子がお気に入りの人形をトイレに流してしまい、その人形を探しに行くという物語です。
    人形がある場所を示す時に、家が断面図で内部まで見えるように描写されています。それによって排水管がどのようにつながっているのか、どのように流れているのかがわかるようになっています。
    排水管に人形がある絵を見て、人形はどこにあるのか、どこが主人公の女の子の家なのか、女の子は人形が見えているのかなどについて、子どもたちが議論している場面を分析。

  • データの取り扱い(時間-長さのグラフ・時間-重さのグラフを使って成長を表しているもの)
    絵本:『De verrassing [The surprise]』(著:Van Ommen, S. 出版社:Rotterdam: Lemniscaat. )
    羊が主人公で、絵のみの文字がない絵本です。
    羊が体重を測ったり、毛の厚さを測ったりする場面などが表現されていて、ある場面では線グラフで測った結果を記しているものがあります。
    この線グラフが何を示しているもので、どう言う意味を持つのかについて子どもたちが議論している場面を分析。

  • 計測(縮尺や比率、曲がったものの計り方など)
    絵本:『De prinses met de lange haren [The princess with the long hair]』(著:Van Haeringen, A. 出版社:Amsterdam: Leopold. )
    9人の召使が髪を洗わなければならないほどの長い髪を持つ王女が、父親に裕福な男に結婚させられそうになり、それから逃れるために逃亡する話。
    王女の周りにグルグル巻きになった髪や何人もの召使が王女の髪の毛をもっている絵があり、子どもたちは髪の毛の長さをどうしたら測れるか議論している場面を分析。

著作権の都合上、絵本のページを使って説明することができません。
論文で紹介されたページは、以下の論文が掲載されているサイトで確認できます。
https://www.researchgate.net/figure/Pages-9-and-10-of-the-book-O-nee-Pop-in-de-wc-Oh-no-Doll-in-the-toilet_fig1_46725133

分析の結果、わかったこと

子どもたちは絵本を読む前から、日常の経験から数学的な考え方の基礎となる考えを持っていることがわかりました。
絵本を使うことによって、子どもたちが持っている基礎的な考え方を絵本の内容に沿って使うことができるような機会を与えることができ、基礎的な考えから、より数学的な考え方に近い考え方ができるようになるとしています。
つまり、日常経験から得た素朴的な考えを使うことによって、その考え方の使い方を絵本を通して学んでいくと言うことですね。

絵本を活用するメリット

まず、絵本は子どもたちを惹きつけ集中させることができ、さらに多くの子どもが同時に惹きつけることができます。

そして、普通に勉強として学習する時の大きな違いは、絵本を読み終わった後(学習した後)子どもたちはもう一度絵本を読んでほしい、絵本について話したいと言うことが起こるので、繰り返し子供が進んで学ぶことを促進していると言っています。

絵本の選定について

数学的思考を促すための絵本の選定基準を以下のように示しています

  • 良い物語であること

  • 子供にとって魅力的であること

  • 数学がすぐに利用できるが、それがあからさますぎないこと

  • 数学の項目を幅広く扱ったもの

良い物語であること」は、子どもたちが十分に絵本に惹きつけられないためと考えることができます。

子供にとって魅力的であること」は、絵本にある場面について考えることが楽しそうと思える必要があるからでしょう。

数学がすぐに利用できるが、それがあからさますぎないこと」は、子どもにとって簡単すぎず、難しすぎないことが重要だということでしょう。

数学の項目を幅広く扱ったもの」は、単に数を数えるだけの絵本を使うのではなく、今回の研究のように幾何学やデータの取り扱いなどを含めた幅広いものを扱うことで、子どもたちは色々な数学的な考え方を身につけることができます。

子どもの学習を促進させるポイント

子どもの学習をさらに促進させるポイントとして、グループでの読み聞かせが効果的であると言っています。
絵本をきっかけに子ども同士でさまざまな議論を生じさせることができ、子どもの概念や言葉の発達に重要な役割を果たすことができるからです。

家庭では子ども同士の議論の場を作ることは難しいでしょうから、保護者の皆様と絵本について会話する機会をたくさん作ることが重要になってきそうですね。

参考文献

○van den Heuvel-Panhuizen, Marja, van den Boogaard, Sylvia and Doig, Brian 2009-09, Picture books stimulate the learning of mathematics, Australian journal of early childhood, vol. 34, no. 3, pp. 30-39.

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