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魔法少女の系譜、その165~日本人以外の有色人種ヒロインの系譜~


 今回も、前回の続きで、「日本人以外の有色人種ヒロイン」について、語ります。
 まずは、「日本人以外の有色人種ヒロイン」の年表から。

昭和四十三年(一九六八年) 『サインはV!』
      ↓
昭和四十六年(一九七一年) 『原始少年リュウ』
      ↓
昭和四十八年(一九七三年) 『はるかなる風と光』
      ↓
昭和四十九年(一九七四年) 『ファラオの墓』
      ↓
昭和五十年(一九七五年) 『アンデス少年ペペロの冒険』
      ↓
昭和五十一年(一九七六年) 『王家の紋章』
              『あやかしの伝説』
      ↓
昭和五十三年(一九七八年) 『海のオーロラ』
      ↓
昭和五十四年(一九七九年) 『機動戦士ガンダム』

 『機動戦士ガンダム』のララァ・スンは、「日本人以外の有色人種ヒロイン」にして、魔法少女であり、戦闘少女です。彼女が登場するまでに、どんな「日本人以外の有色人種ヒロイン」がいて、どのように活躍したか、以下におさらいしましょう。


 『サインはV!』のジュン・サンダースは、日本の漫画の中に、最初期に登場した「日本人以外の有色人種ヒロイン」です。『サインはV!』の主人公(メインヒロイン)は、朝丘ユミでしたが、ジュンは、ユミをもしのぐほどの人気がありました。
 『サインはV!』の舞台は、平和な現代日本― 一九六〇年代の日本―なので、戦闘する場面はありません。かわりに、ユミやジュンたちは、バレーボールで戦います。最初期のスポ根漫画の一つです。
 『サインはV!』には、魔法は登場しません。むろん、ユミやジュンも、魔法少女ではありません。


 『原始少年リュウ』のランは、日本のアニメの中に、最初期に登場した「日本人以外の有色人種ヒロイン」です。『原始少年リュウ』の主人公はリュウですが、女性のキャラクターとしては、ランが、最も重要な位置にいました。正真正銘のメインヒロインです。
 リュウは、よく戦いますが、ランは、戦いに際しては、後方支援に徹します。ランは、魔法少女でもありません。


 『はるかなる風と光』のエマは、日本の漫画の中に、最初期に登場したオセアニア系ヒロインです。十八世紀末から十九世紀初めの、ヨーロッパの苛烈な人種差別が描かれます。
 彼女は、堂々たる物語の主役で、卑劣ないじめや嫌がらせにも、負けません。直接、戦闘する場面は少ないですが、いざとなれば、男性に頼らず、自ら武器を取ることを厭いません。戦闘少女の一歩手前くらいの状態です。
 エマは、魔法は使いません。魔法少女ではありません。


 『ファラオの墓』は、舞台が古代エジプトで、登場人物は、全員、古代エジプト人です。三人の重要な女性キャラクターたちも、みな、そうです。ナイルキア、アンケスエン、アウラ・メサの三人です。この三人は、しっかりと性格が分けられています。

 ナイルキアは、伝統的な少女漫画のヒロインらしいヒロインです。優しく美しい少女です。生まれ故郷の国が滅びて、家族もほぼ全員殺され、孤児になるという不幸を背負いながらも、健気に生きます。宿命的な恋に落ちて、悩み、それが、国の運命をも変えることになります。
 彼女は、戦闘少女ではありません。魔法少女でもありません。でも、物語前半のメインヒロインです。

 アンケスエンも、伝統的な少女漫画によくいるキャラクターです。ナイルキアに、人に言えない事情があることを察しながら、彼女に優しく接し、何かと彼女を助けます。メインヒロインの援助者、助言役ですね。
 自分の国の腐敗を嘆きながらも、アンケスエンには、どうすることもできません。それでも、彼女は、最後まで、自分の国に殉じます。
 アンケスエンも、戦闘少女ではなく、魔法少女でもありません。物語を通じて、サブヒロイン的位置にいます。

 アウラ・メサの造形は、連載当時には、注目すべき革新性がありました。
 彼女は、物語に登場した時には、わずか十三歳くらいです。その年齢で、大隊を指揮する戦闘少女です。国の王女だから、そんな地位に立てるのですが、馬に乗らせても、武器を使わせても、並みの男に劣らない戦士です。主人公のサリオキスにも、自分から好きだと告白するほど、積極的な性格です。
 アウラ・メサは、日本の漫画において、「日本人以外の有色人種ヒロイン」+「戦闘少女」という要素を、はっきりと示した、最初期のキャラクターでした。彼女が、物語後半のメインヒロインになることで、『ファラオの墓』は、革新的な少女漫画となりました。少女漫画に限らず、少年漫画を含めても、革新性が際立ちます。
 アウラ・メサは、魔法少女ではありません。


 『アンデス少年ペペロの冒険』のケーナは、日本のアニメ史上、最初期の南米先住民ヒロインです。彼女は、戦闘には参加しませんし、魔法も使いません。それ以外は、優しく愛らしく、メインヒロインらしいヒロインです。
 ケーナは、日本のアニメに登場した、最初期の記憶喪失ヒロインです。主人公のペペロと出会った時には、記憶を失っていて、自分がどこの誰なのか、わかりません。ただ、ケーナという名だけを覚えていました。
 『王家の紋章』のメインヒロインで、しょっちゅう記憶喪失になっているキャロルより、ケーナのほうが、一年、早く登場しています。

 『アンデス少年ペペロの冒険』には、女性ではありませんが、黒人の少年が登場します。チュッチュという名で、まだ幼いのに、サーカスで働かされていました。
 チュッチュは、両親がすでに亡くなっていて、唯一の肉親である姉とも、離れ離れになっていました。ペペロが、彼をサーカスから助け出し、チュッチュのお姉さん探しを手伝います。
 物語中では説明されませんが、チュッチュは、肌が黒っぽく、髪は縮れて表現されます。明らかに、アフリカ系の血を引いています。チュッチュは、『サイボーグ009』の008ことピュンマに次いで、日本のアニメに登場した、初期の黒人です。


 『王家の紋章』のメインヒロインは、現代米国人―金髪碧眼の白人少女―のキャロルです。彼女に敵対する「悪役令嬢」が、アイシスですね。古代エジプト人で、魔法を使います。
 アイシスは、「日本人以外の有色人種ヒロイン」(悪役ですが)、かつ、魔法少女として、最初期に現われました。彼女は、直接、戦闘には関わりません。

 興味深いことに、『王家の紋章』の連載が始まったのと同じ年―昭和五十一年(一九七六年)―に、『あやかしの伝説』も、雑誌に短期連載されています。翌年の昭和五十二年(一九七七年)に、単行本化されました。
 『あやかしの伝説』は、そもそも、メインヒロインが、悪役ですね。少女漫画版ピカレスクロマンと言える作品です。
 『あやかしの伝説』天竺編は、古代インドが舞台で、メインヒロインのカヨウも、古代インド人です。彼女は、もとは普通の人間でしたが、妖狐に取り憑かれて、悪の魔法少女になってしまいます。妖艶な美貌と魔法とを武器に、国の王妃にまで成り上ります。
 天竺編においては、彼女も、直接、戦闘に関わることは、ありません。のちの白狐玉藻編になると、最後のほうに、少しだけ、戦闘場面があります。

 同じ年に、「日本人以外の有色人種ヒロイン」+「魔法少女」+「悪役令嬢」という属性を備えたヒロインが、二人、現われたのは、偶然ではないかも知れません。
 連載が始まったのは、『あやかしの伝説』のほうが、先です。ですから、もし、影響を与えたとするなら、『あやかしの伝説』のほうが、『王家の紋章』に影響を与えたことになるでしょう。これについては、作者さんにインタビューでもしないと、わかりませんね。
 直接、影響を与えなかったにしても、同じ年に、同じ属性を揃えたヒロインが、同じ少女漫画界に現われたのは、意味がありそうです。そういうキャラクターが求められる時期になっていた、ということでしょう。


 『海のオーロラ』は、第一部のエジプト編で、古代エジプトが舞台になります。ヒロインのルツをはじめ、登場人物は、ほぼ全員、古代エジプト人です。一部に、古代イスラエル人がいます。
 ルツは、戦闘少女ではありません。戦闘の場面では、後方支援を行ないます。魔法も使いません。ただ、彼女は、超古代のムー大陸から転生してきた少女です。途中で、前世の記憶を思い出します。ルツの恋する男性レイも、ムー大陸からの転生者です。
 ルツとレイとは、ムー大陸に始まって、古代エジプト→ヤマタイ国→ナチス政権下のドイツ→人類が宇宙に進出したはるかな未来、と転生します。二〇二一年現在に見ても、壮大なスケールの作品ですね。

 魔法少女で転生もの、といえば、以前、『魔法少女の系譜』シリーズで、『はるかなるレムリアより』を取り上げましたね。
 『はるかなるレムリアより』は、『海のオーロラ』の三年前、昭和五十年(一九七五年)に、雑誌に連載されました。ヒロインの涙【るい】は、超古代のレムリア大陸から、転生を繰り返して、現代日本に生まれ変わってきました。この作品では、レムリア大陸とムー大陸とが、同一視されています。
 『海のオーロラ』と、『はるかなるレムリアより』との類似性は、明らかですね。ヒロインの名前も、似ています。
 それが悪いと言いたいのではありません。むしろ、『海のオーロラ』は、『はるかなるレムリアより』より後に現われただけあって、より長く、波乱万丈な物語として、面白くなっています。こういうのは、パクリではなくて、オマージュと呼びます(^^)

 『はるかなるレムリアより』は、「魔法少女」+「転生」ものとして、最初期の作品でした。『海のオーロラ』は、その衣鉢を継ぐ作品です。
 ただし、『海のオーロラ』のヒロイン、ルツは、前世の記憶があるだけで、魔法は使えません。このため、魔法少女とは言えません。
 少女漫画における転生ものでは、一九八〇年代後半から一九九〇年代前半にかけて、『ぼくの地球を守って』が、爆発的な人気を得ることになります。あの作品も、突然、現われたのではありません。少女漫画の中に、一九七〇年代から、転生ものの系譜がありました。

 そうして、『海のオーロラ』の翌年に、『機動戦士ガンダム』で、ララァ・スンが登場します。「日本人以外の有色人種ヒロイン」+「魔法少女」+「戦闘少女」のララァですね。
 上記の年表に、ヒロインたちの属性を付け加えると、以下のようになります。


昭和四十三年(一九六八年) 『サインはV!』
 少女漫画最初期の「日本人以外の有色人種」ヒロイン。メインヒロインではなく、サブヒロイン。スポーツ少女だが、戦闘少女ではない。魔法少女でもない。
      ↓
昭和四十六年(一九七一年) 『原始少年リュウ』
 アニメ最初期の「日本人以外の有色人種」ヒロイン。メインヒロインである。戦闘少女でも魔法少女でもない。
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昭和四十八年(一九七三年) 『はるかなる風と光』
 日本漫画界最初期のオセアニア系ヒロイン。メインヒロインである。戦闘少女の一歩手前の状態。魔法少女ではない。
      ↓
昭和四十九年(一九七四年) 『ファラオの墓』
 日本漫画界最初期の古代エジプト人ヒロインたち。複数人登場する。そのうち二人はメインヒロイン。一人がサブヒロイン。一人が戦闘少女。誰も魔法少女ではない。
      ↓
昭和五十年(一九七五年) 『アンデス少年ペペロの冒険』
 アニメ最初期の南米先住民ヒロイン。メインヒロインである。戦闘少女でも魔法少女でもない。
      ↓
昭和五十一年(一九七六年) 『王家の紋章』
              『あやかしの伝説』
 どちらの作品も、「日本人以外の有色人種」+「魔法少女」+「悪役令嬢」のヒロインが登場する。『王家の紋章』では、メインヒロインの敵役。『あやかしの伝説』では、メインヒロイン。
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昭和五十三年(一九七八年) 『海のオーロラ』
 「日本人以外の有色人種」+「転生」ヒロインが、メインヒロインで登場する。魔法少女でも戦闘少女でもない。
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昭和五十四年(一九七九年) 『機動戦士ガンダム』
 作品自体に「メインヒロイン」がいない。ララァは、メインヒロインに近い存在。アニメ史上最初期のインド系ヒロイン。「日本人以外の有色人種」+「魔法少女」+「戦闘少女」。


 ララァが現われるまでに、「日本人以外の有色人種」ヒロインが、幾人も現われて、少しずつ、いろいろな属性が加えられていったことが、わかりますね。この積み重ねがあったからこそ、あの鮮烈なララァ・スンが生まれました。

 ところで、上記の年表の作品の作者さんたちに、注目してみて下さい。二〇二一年現在では、誰もが知るビッグネームが多いです。

 『サインはV!』の原作は、神保史郎【じんぼ しろう】さん、作画は望月あきらさんです。今となっては、知る人が少ないでしょうが、神保さんは、魔法少女もののアニメ『花の子ルンルン』の原作も書いた方です。望月あきらさんは、全盛期の『少年チャンピオン』に『ゆうひが丘の総理大臣』を連載して、ヒットを飛ばしました。少女漫画誌、少年漫画誌の両方で連載して、ヒットを飛ばす人なんて、二〇二一年現在でも、そうはいませんよね。

 『原始少年リュウ』の作者は、石ノ森章太郎さんです。今さら説明の必要もないビッグネームですね(^^)
 『遥かなる風と光』の作者は、美内すずえさんですね。一九七〇年代から、二〇二〇年代の今まで、『ガラスの仮面』を連載し続けている超人漫画家さんです。
 『ファラオの墓』の作者は、竹宮惠子さんです。この方も、もはや伝説的な少女漫画家さんですよね。

 『アンデス少年ペペロの冒険』は、アニメオリジナル作品です。アニメ作品は、制作に関わる人が多くて、誰の影響が一番強いのか、はっきりしないことが多いです。この作品もそうなので、判断できません。

 『王家の紋章』の作者は、細川智栄子さんと芙~みんさんです。この作品自体が、伝説的な存在なので、ここでこれ以上、言うことはありません(笑)
 『あやかしの伝説』の作者は、わたなべまさこさんです。この方は、水木しげるさん亡き今、おそらく、現役最年長の漫画家さんです。なんと、一九五〇年代から活躍していて、二〇二一年現在も、現役です。これだけで、超人だとわかりますね(^^;

 『海のオーロラ』の作者は、里中満智子さんです。この方も、一九六〇年代にデビューして、今なお作品を描き続けている、超人的な漫画家さんですね。日本の飛鳥時代を舞台にした『天上の虹』などは、昭和五十八年(一九八三年)に連載を始めて、平成二十七年(二〇一五年)に完結させました。

 なぜ、こんなにビッグネームが揃っているかと言えば、常に革新性を求めて、作品を作り続けてきたからこそ、ですね。そういう作品を作り続けたから、結果として、ビッグネームになりました。
 昭和の時代に、「日本人以外の有色人種」ヒロインを作品に登場させることは、冒険的なことでした。編集さんなどに、止められたかも知れません。それでも、やり遂げたところに、創作に対する意欲を感じます。

 今回は、ここまでとします。
 次回は、「魔法少女の系譜、その163」でお約束した、「原始もの」あるいは「ターザンもの」に触れる予定です。



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