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魔法少女の系譜、その105~『ウルトラマンA【エース】』と関連して、『ウルトラセブン』~


 前回は、『ウルトラマンA【エース】』を中心に、ウルトラシリーズについて、考察しましたね。『ウルトラマン』、『帰ってきたウルトラマン』、『ウルトラマンA』の主役たちは、伝統的なシャーマンのあり方に似ていると書きました。

 今回は、『ウルトラセブン』について、考察します。『魔法少女の系譜』からは、ちょっと外れますが、あり方として興味深いので、触れておいて損はありません。

 『ウルトラセブン』では、主役の正義の超人は、死んだ地球人と一心同体になるのではありません。ある地球人をモデルに、別の地球人に変身して、地球人になり済まします。いわば、「地球人に化けている」状態です。

 「化けている」という言葉で、気づいた方がいるかも知れませんね。モロボシ・ダンことウルトラセブンは、日本の口承文芸で語られる、狐【きつね】や狸【たぬき】のあり方と、似ています。

 日本では、狐、狸、猫、川獺【かわうそ】などの動物が、「人間に化ける」と言い伝えられてきました。
 生物学的には、これは、正しくありません。物理的に、そんなことはできません。
 けれども、口承文芸の世界では、そのような不思議なことが起こります。むしろ、そういう非現実的なことも楽しめるのが、フィクションの面白い点ですよね(^^)

 日本の口承文芸の中で、「狐や狸が人間に化けて、人間をだまして悪さをした」話は、掃いて捨てるほど、ありますね。
 例は少ないですが、中には、「狐や狸が人間に化けて、人間に良いことをした」話もあります。猫の場合は、「飼い主の仇討ちのために、人間に化けて、仇を討った」という話が多く、ある意味では、良いことをした例が多いです。

 良いことをした狐で、有名な例は、「葛の葉」伝承でしょう。
 ある狐が、人間の男性に助けられた恩返しのため、人間の女性になって、男性のもとへやってきます。女性は、「葛の葉」と名乗ります。
 「葛の葉」は、男性と仲むつまじい夫婦となり、男の子が生まれました。ところが、その男の子には、霊能力があり、母の正体が狐だと見破ってしまいます。
 正体がばれたからには、もう、「葛の葉」は、人間の世界にはいられません。子供を置いて、泣く泣く、森へ帰ってしまいます。
 その男の子こそ、のちに高名な陰陽師となる安倍晴明【あべのせいめい】でした。という伝承です。

 また、四国では、化ける狸に対する信仰があり、金長神社のように、化け狸を神として祭る神社もあります。「化ける」動物が、悪いことをするばかりではない、むしろ、良いことをしてくれるという思想も、日本にありました。

 これらの「化ける動物が、人間にとって良いことをする」思想は、「地球人に化ける」ウルトラセブンに、そのままつながります。「人間ではなく、人間以上の不思議な力を持つ存在が、人間に化けて、人間のためになることをしてくれる」点が、共通しますよね。

 口承文芸ではなく、作者の明確な創作物語で、『ウルトラセブン』の前段になる話があります。人形浄瑠璃や歌舞伎で演じられる『義経千本桜【よしつねせんぼんざくら】』です。
 『義経千本桜』には、源九郎狐【げんくろうぎつね】という化け狐が登場します。佐藤忠信という武将に化けて、源義経の愛人、静御前を守ります。
 義経は、すでに、兄の頼朝と仲たがいをして、追われる身になっていました。静御前にも、追手がかかります。頼朝勢の手から静御前を守りきって、源九郎狐は、彼女を義経のもとへ送り届けます。端役ではありますが、ヒロインを守る、小さなヒーローといえる役どころです。

 『義経千本桜』は、口承文芸と、『ウルトラセブン』とをつなぐ存在ですね。小さなヒーロー源九郎狐は、口承文芸の狐の姿をしながら、「宇宙から来た正義の超人」ウルトラセブンまで、あと一歩の存在です。

 『ウルトラセブン』は、『ウルトラマン』、『帰ってきたウルトラマン』、『ウルトラマンA』とは違うあり方ですが、やはり、日本の伝統を継いでいます。葛の葉や源九郎狐と比べれば、「化け狐」が、「宇宙から来た正義の超人」に変わっただけだと、わかりますね。

 『ウルトラセブン』が放映されたのは、テレビ勃興期の昭和四十二年(一九六七年)から、昭和四十三年(一九六八年)でした。その頃は、まだ、テレビで流すコンテンツに先例が少なく、手探りで番組が作られていました。
 前作『ウルトラマン』の系譜を引きつつ、「前作とは毛色の変わったものを」と志向して、日本の伝統「化ける動物」の形を借りたのではないでしょうか。

 革新的な物語でも、まったく、一から新しい物語というものは、ほとんど存在しません。必ずと言ってよいほど、先例が存在します。『ウルトラセブン』も、そういう物語の一つでしょう。

 今回は、ここまでとします。
 次回は、『ウルトラマンA』を取り上げる予定です。



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