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魔法少女の系譜、その5~『魔法使いサリー』と『コメットさん』、口承文芸~

 某SNSからの『魔法少女の系譜』シリーズの引用です。


 前回までで、日本の映像作品における、草創期の魔法少女について、語りました。
 今回は、草創期の「魔法少女もの」と、伝統的な口承文芸の作品とを、比べてみます。

 その前に、前回までのまとめを書いておきましょう。
 日本の「魔法少女もの」が、米国作品の影響を受けつつ、どのような特徴を持ったのかを、以下に列挙します。

[1]魔法少女の魔力は、生まれつきの能力である。「魔法が使える種族」に生まれたために、魔法少女は、魔法が使える。この特徴は、米国の作品から日本の作品へ、そのまま受け継がれた。

[2]米国から日本へ移入された段階で、日本の魔法少女は、低年齢化した。多くは、ローティーン以下の少女である。この特徴は、現在に至るまで、日本の魔法少女の特徴である。

[3]草創期の段階では、日本の魔法少女は、「魔法少女としての姿」には、変身しない。これは、米国作品の特徴を、そのまま受け継いでいる。

[4]日本の魔法少女には、魔法の道具への依存傾向が見られる。米国の作品にも、魔法の道具は登場するが、道具への依存率は低い。

[5]日本の魔法少女は、草創期の段階で、「マスコット」という、独自の特徴を獲得した。米国の作品には、見られなかった特徴である。

[6]草創期の日本の魔法少女は、呪文を唱える。これは、米国では、忌避された特徴である。その理由は、「邪悪な魔女」の印象を払拭するため。日本では、そもそも、「邪悪な魔女」の印象が薄かったために、呪文というアイテムが使われた。


 さて、ここからは、口承文芸と、創作物語である「魔法少女もの」との比較です。
 これまでに取り上げた、四つの「魔法少女もの」で、比較してみましょう。
 米国作品では、『奥さまは魔女』と、『メリー・ポピンズ』ですね。
 日本作品では、『魔法使いサリー』と、『コメットさん』です。

 四つの作品に共通するのは、「ヒロインが、魔法を使える種族」である点です。簡単に言えば、ヒロインは、人間ではありません。口承文芸の世界で言う「異類」ですね。

 四つの「魔法少女もの」は、人間の世界へ異類がやってくる「異類来訪譚【いるいらいほうたん】」の形を取っています。

 異類来訪譚の中で、最も有名なのは、異類婚姻譚【いるいこんいんたん】です。人間の世界にやってきた異類が、人間と結婚する話ですね。『天女の羽衣』や、『鶴女房』や、『雪女』といった話が、よく知られています。

 四つの作品の中では、『奥さま』が、異類婚姻譚そのものです。「魔女」という異類のヒロインが、人間の男性と結婚する話ですからね。話の構造としては、自ら進んでお嫁に来る『鶴女房』や『雪女』と、変わらないように見えます。

 ところが、『奥さま』は、異類婚姻譚としては、非常に異例な形になっています。
 それは、「異類なのに、異類の世界へ帰らない」ことです。

 『天女の羽衣』でも、『鶴女房』でも、『雪女』でも、ヒロインは、最後に、夫を捨てて、自分の世界へ帰ってしまいますよね。それが、異類婚姻譚のお約束です。たいへん強固なお約束です。

 『奥さま』は、このお約束を破っています。「さまざまな困難があっても、ヒロインは、夫と二人で、ずっと仲良く暮らし続けるだろう」と、作品内で暗示されています。
 この点で、『奥さま』は、口承文芸の限界を超えています。現代の創作物語らしい物語といえるでしょう。

 残りの三作品は、ヒロインが人間と結婚していないので、異類婚姻譚ではありません。異類来訪譚ですね。

 異類来訪譚は、「異類が人間の世界へ来て、一時的に滞在して、また自分の世界へ帰る」話です。最後には、必ず、帰るんですね。人間界には、一時的に滞在するに過ぎません。

 その滞在期間に、異類は、人々に福を与えたり、逆に災いをもたらしたりします。同じ異類が、福と災いと、両方をもたらすことも、珍しくありません。

 有名な異類来訪譚としては、蘇民将来【そみんしょうらい】伝説があります。日本の各地に伝わる伝説です。細かい点は、地方ごとに違いますが、おおむね、以下のような伝説です。

 あるところに、蘇民将来と巨旦将来【こたんしょうらい】という兄弟がいました。蘇民将来は貧乏で、巨旦将来は裕福でした。
 ある時、スサノオの神が、兄弟が住む集落へやってきます。スサノオは、神だということを隠していました。巨旦将来に宿を頼むと、余裕のある生活にもかかわらず、彼は、スサノオをすげなく追い払ってしまいました。
 次に、蘇民将来に宿を頼むと、「貧乏で、ろくなおもてなしができませんが」と言いながら、快く、スサノオを泊めてくれました。
 スサノオは、のちに、再び、蘇民将来を訪ねてきます。そこで、自分の正体を明かします。心根の良い蘇民将来を、スサノオはほめたたえ、疫病除けのお守りを、蘇民将来に与えます。
 いっぽう、心根の悪い巨旦将来は、家族もろとも、スサノオに滅ぼされてしまいました。
 福と災いとをもたらしたスサノオは、神の世界へ帰ってゆきます。

 この物語の構造は、『メリー・ポピンズ』や、『サリー』や、『コメットさん』に似ていますね。
 三つの作品では、基本的に、ヒロインは、人を助けるために魔法を使います。でも、時おり、悪い人を懲らしめるために、魔法を使うこともあります。
 福や災いをもたらしたヒロインは、最後には、自分の世界へ帰ってゆきます。

 日本の「魔法少女もの」には、異類婚姻譚は、事実上、存在しないと言えます。
 なぜなら、前記のとおり、日本の魔法少女は、低年齢化が著しいからでしょう。結婚するような年齢ではないからですね。
 結果として、婚姻しない異類来訪譚が、多くなりました。

 『メリー・ポピンズ』も、『サリー』も、『コメットさん』も、典型的な異類来訪譚そのものです。口承文芸の形を、超えていません。

 この形は、その後の「魔法少女もの」でも、多くの作品で、維持されます。
 なぜ維持されたかといえば、それが、人々の支持を受けたからでしょう。長らく口承文芸で伝えられたのも、人々の支持があればこそです。
 多くの人が好む話の構造とは、そうそう変わらないものだということですね。

 とはいえ、日本の「魔法少女もの」には、ごく初期の段階で、異類来訪譚ではない話が現われています。
 それがどんなお話かは、次回にて(^^)



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