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魔法少女の系譜、その142~セイカのぬりえ『チャームペア』~


 今回は、前回までの『魔女っ子チックル』とは違う作品を取り上げます。
 その作品は、テレビアニメではありません。漫画でもありません。実写のテレビドラマや、映画でもありません。
 なんと、「ぬりえ」のシリーズです。

 二〇二〇年現在では、「大人の塗り絵」が人気ですが。
 「ぬりえ」は、昭和の時代、子供の室内遊びとして、根強い人気を持っていました。漫画やテレビアニメ作品などの「ぬりえ」はもちろん、いろいろな会社が、独自のキャラクターを考案して、「ぬりえ」を販売していました。
 塗り絵ですから、色は買い手が着けるわけで、売られるのは、モノクロの線だけの下絵です。「トーンのない漫画」状態です。だいたい、同一のキャラクターの「ぬりえ」が、一冊のノートにまとまって、売られます。

 この『魔法少女の系譜』シリーズでは、普段は、いちいち、「ぬりえ」作品まで取り上げません。私の手に余るからです(^^;
 けれども、魔法少女の歴史において、知っておいたほうがいいと考えられる作品がありまして、取り上げることにしました。

 以前に書きましたとおり、昭和五十年代前半(一九七〇年代後半)には、芸能界に、「女子二人組ブーム」が来ていました。ピンク・レディーとビューティ・ペアのためです。
 テレビアニメに、その流れが波及して生まれたのが、『魔女っ子チックル』ですね。チックルとチーコのラッキーペアが、活躍する作品です。

 二〇二〇年現在であれば、芸能界のこのようなブームは、もっとすばやく、大規模に、アニメ界に波及するでしょう。
 例えば、現在、芸能界の女性アイドルで、ソロで売り出される人って、珍しいですよね。AKBグループに代表されるように、女性アイドルは、チームでまとめ売りされる時代です。
 アニメ界は、これに敏感に反応しています。『プリキュア』シリーズや、『ラブライブ』シリーズなど、「女の子たちのチーム作品」が、とても多いですよね。

 ところが、一九七〇年代には、『魔女っ子チックル』に続く「女子二人組アニメ」は、出ませんでした。それは、アニメの制作能力が追いつかなかったからです。現在とは、比べものにならないほど、アニメの制作能力は、量的に限りがありました。
 『魔女っ子チックル』が大ヒットしたなら、「二匹目のどじょう」を狙って、さらなる「女子二人組アニメ」が作られたと思います。しかし、残念ながら、『チックル』は、そこそこヒットに終わり、大ヒットには、なりませんでした。
 これですと、作り手側が、少ないアニメ制作能力を、「女子二人組アニメ」に向ける気には、ならなかったのでしょう。

 だからといって、「女子二人組ブーム」が、『魔女っ子チックル』以外に波及しなかったかと言えば、そんなことはありません。
 じつは、「ぬりえ」の世界に、波及していました。

 今は、会社としてはなくなってしまいましたが、かつて、セイカという会社がありました。セイカは、独自の「ぬりえ」シリーズを、いくつも出していました。そのシリーズの中の一つに、『チャームペア』シリーズがありました。

 『チャームペア』シリーズには、第一期と第二期とがあります。
 第一期が、『リリー&マリー』で、第二期が『キャシー&ナンシー』です。どちらも、女の子二人組のキャラクターものです。思いっきり、芸能界の「女子二人組ブーム」に乗っています。

 『チャームペア』シリーズが、いつ現われたのか、正確な時期が、わかりません(^^; 昭和五十一年(一九七六年)か、昭和五十二年(一九七七年)です。ピンク・レディーもビューティ・ペアも、昭和五十一年(一九七六年)にデビューですから、それ以前ということは、ありません。
 第一期の『リリー&マリー』も、第二期の『キャシー&ナンシー』も、奥村真理子さんという漫画家さんが、キャラクターデザインを担当しました。

 長いストーリーのある漫画ではなく、「ぬりえ」なのですが、『チャームペア』シリーズには、けっこう細かい設定があります。

 第一期の『リリー&マリー』の設定は、以下のとおりです。
 リリーとマリーという、二人の女の子が主役です。現代―一九七〇年代―よりも、少し昔の時代(二十世紀初めくらい?)が舞台です。場所は日本ではなく、ヨーロッパか、北米風のどこかです。
 リリーのほうは、お父さんが牧場主です。どういう理由でか、お母さんはいません。父親と、お兄さんのルークと、三人暮らしです。ココという、ペットのオウムもいます。かわいらしい外見ですが、おてんば娘です。
 マリーのほうは、お母さんが獣医です。彼女は、どういう理由でか、お父さんがいません。ばあやが同居していて、家事をやってくれています。ペットのネコもいて、ムーという名前です。マリーは、リリーと対照的に、おしとやかな性格です。

 リリーとマリーとは、性格も、外見も、対照的に造形されています。二人ともロングヘアですが、リリーは、あちこちがぴんぴん跳ねたくせっ毛を、二つにまとめて縛っています。マリーのほうは、「これぞお嬢さま」という感じの縦ロールを、やはり、二つにまとめてリボンを着けています。

 対照的な二人ですが、とても仲良しです。マリーのほうは、リリーのお兄さんのルークと恋人同士です。リリーのほうにも、恋人がいるという設定です。
 二人の年齢は、わかりません。十二、三歳くらいの幼さに見える絵もあれば、十五歳くらいに見える絵もあります。ローティーンからミドルティーンでしょうね。十代なのは、間違いありません。

 絵柄と性格を見ると、リリーのほうは、明らかに、キャンディス・ホワイトに似ています。当時、大ヒットしていた少女漫画『キャンディ・キャンディ』のヒロインですね。
 舞台設定も、二十世紀初めくらいのヨーロッパか北米っぽい点が、『キャンディ・キャンディ』と似ています。
 昭和五十年代前半(一九七〇年代後半)当時には、少女向けの商品を作る場合、『キャンディ・キャンディ』の影響を無視することは、決して、できなかったでしょう。前に書きましたとおり、『セーラームーン』と同じくらいの巨大ヒット作でしたから。

 『チャームペア』第一期の『リリー&マリー』には、魔法少女っぽい設定は、まったくありません。直接、魔法少女の系譜には、組み込まれない作品です。
 第二期の『キャシー&ナンシー』になると、魔法の設定があります。『キャシー&ナンシー』を語るのに、前史として『リリー&マリー』を外せないので、ここまで解説してきました。

 第二期の『キャシー&ナンシー』も、最初に出た年代が、わかりません。昭和五十三年(一九七八年)ころです。
 『キャシー&ナンシー』の設定は、以下のとおりです。

 舞台は、やはり、現代日本ではありません。二十世紀初めくらいのヨーロッパ風世界です。代々の貴族が登場するので、北米ではないでしょう。昔の少女漫画によくあった「なんちゃってヨーロッパ」世界です。
 キャシーは、貴族の娘です。ショートヘアで、いつも男装しています。貴族の娘なのに、ひらひらのドレスが苦手で、着ようとしません。じいやから剣を教わっていて、腕前は、かなりのものです。
 家族は、貴族のお父さんとお母さん、住み込みのじいやとばあやがいます。貴族らしく馬を飼っていて、アポロンという愛馬がいます。サルのビッキーというペットもいます。
 ナンシーは、地主の娘です。キャシーと対照的に、おしとやかな女の子です。髪型は、縦ロールのロングヘアですが、マリーのようにボリュームのある「いかにもお嬢さま」な縦ロールではありません。もっとずっと細い縦ロールです。一見、縦ロールではなくて、カーリーヘアに見えます。
 家族は、地主をやっているお父さんとお母さんがいます。リッキーという子グマのペットもいます。
 「ザ・お嬢さま」という感じのマリーと比べると、ナンシーは、「田舎の素朴なお嬢さま」という感じです。

 『リリー&マリー』のリリーは、『キャンディ・キャンディ』のキャンディス・ホワイトの影響がありました。『キャシー&ナンシー』のキャシーは、『ベルサイユのばら』のオスカルを思わせます。貴族の娘であること、男装の麗人であること、剣の達人であることが、オスカルと共通します。
 『ベルサイユのばら』は、日本の漫画史上に残る大ヒット作品ですね。『マーガレット』に連載された少女漫画でした。昭和四十七年(一九七二年)から昭和四十八年(一九七三年)にかけて、連載されました。『キャシー&ナンシー』の五、六年前に、現われています。
 『ベルばら』は、大ヒット作品にもかかわらず、アニメ化が遅れました。テレビアニメ化されたのは、昭和五十四年(一九七九年)になってからです。『キャシー&ナンシー』が展開されている、まさにその最中でした。

 『キャシー&ナンシー』の二人も、年齢は、不明です。『リリー&マリー』の二人よりも、少しだけ、年上に見えます。十五、六歳でしょうか。ミドルティーンからハイティーンだと思います。

 『リリー&マリー』と同じように、『キャシー&ナンシー』の二人も、むろん、仲良しです。でも、『リリー&マリー』よりも、『キャシー&ナンシー』のほうが、より親密な雰囲気です。
 リリーとマリーには恋人がいたのに、キャシーとナンシーには、二人とも、いません。そのため、より二人でいる場面―ぬりえ―が多いせいでしょう。

 キャシーが男装の麗人なので、二人で並ぶと、「普通の恋人同士」のように見えます。二〇二〇年現在の目で見ると、「百合カップル」に見えます。『セーラームーン』の天王はるかと海王みちるのような雰囲気です。
 ただし、公式には、一切、それらしい設定はありません。そもそも、当時は、おそらく、女性同士の同性愛的な関係を指す「百合」という言葉が、存在しないでしょう。あったとしても、ごく一部のアングラな界隈で使われるだけで、子供向け商品で使われる言葉ではありませんでした。

 で、『キャシー&ナンシー』の世界には、妖精が存在します。キャシーとナンシーの家の裏手に湖があり、その中にある島に、妖精たちが暮らしています。
 妖精たちは、魔法が使えます。その魔法で、たびたび、キャシーとナンシーを助けてくれます。とはいえ、妖精はいたずら好きで、魔法でいたずらされることもあります。

 じつは、キャシーは、妖精たちを使役できる道具を持ちます。代々、キャシーの家に伝わるベルです。キャシーは、普段、このベルをペンダントにして、首から下げています。
 つまり、キャシーは、魔法道具型の魔法少女です。男装の麗人にして魔法少女というのは、一九七〇年代にしては、ずいぶん、キャラが立っています。「ぬりえ」だけで終わったのは、もったいないですね。アニメ化して欲しかったです。

 『キャシー&ナンシー』は、人気があったらしく、一九八〇年代の初期まで、シリーズが続きました。少なくとも、昭和五十五年(一九八〇年)までは、あったことがわかっています。
 昭和五十七年(一九八二年)には、『チャームペア』ではない、別の女の子二人組の「ぬりえ」が、セイカから出ています。これからしますと、昭和五十六年(一九八一年)か、昭和五十七年(一九八二年)まで、『キャシー&ナンシー』が続いたのでしょう。
 『チャームペア』の名前のもとになったとおぼしきビューティ・ペアは、『チャームペア』より早く、昭和五十四年(一九七九年)に、活動を停止しています。ピンク・レディーは、『キャシー&ナンシー』の終了とほぼ同じ、昭和五十六年(一九八一年)に、活動を停止しました。
 『キャシー&ナンシー』は、「女子二人組ブーム」の最盛期に生まれて、その終焉まで寄り添ったと言えるでしょう。

 今回は、ここまでとします。
 次回も、『キャシー&ナンシー』を取り上げる予定です。



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