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魔法少女の系譜、その41~『5年3組魔法組』、補足~


 前回までで、『5年3組魔法組』の考察を、終わりにするつもりでした。
 けれども、考察が足りない部分があると思ったので、今回も、『魔法組』を取り上げます。

 『魔法組』の独創的な点の一つは、「魔法道具を、集団で使う」点ですね。少なくとも、『魔法組』が放映されるまでは、日本のテレビの世界には、「集団で魔法道具を使う」「魔法もの」は、ありませんでした。
 では、「魔法もの」の原点である、伝統的な口承文芸の世界には、そのようなお話は、あったのでしょうか?

 少ないながらも、あります。
 例えば、ロシア民話の「空飛ぶ船」などが、そうです。以下に、「空飛ぶ船」のあらすじを紹介しましょう。

 「空飛ぶ船」の主人公は、三人兄弟の末っ子の弟です。ある時、国の王さまが、「空飛ぶ船に乗って、城へやってきた男に、娘(=王女)をめとらせる」とお触れを出しました。二人の兄が、空飛ぶ船を作ってお城へ行こうとしましたが、失敗しました。
 末の弟だけが、不思議な老人の手助けによって、空飛ぶ船を作ることに成功します。船に乗ってお城へ行く途中、やたらに大食の男、やたらに耳が良い男、やたらに足が速い男など、いろいろな特技を持つ男たちを仲間にします。
 空飛ぶ船で、全員、無事にお城へ着きました。ところが、王さまは、庶民の末っ子に娘をやるのが、面白くありません。そのために、末っ子に無理難題を出します。しかし、一緒に船に乗ってきた仲間たちの力によって、無理難題は、すべて解決されてしまいます。王さまは、仕方なく、娘を末っ子と結婚させました。
 末っ子は、結婚してからは、とても良い王さまになりました。船に乗ってきた仲間たちともども、幸せに暮らして、めでたしめでたし。

 この話のバリエーションは、ヨーロッパに広く分布しているようです。例えば、フランスにも、類話があります。私が知っているフランス民話のバージョンでは、「空飛ぶ船」が、「水陸両用車」に変わっています。そこが違うだけで、あらすじは同じです。

 「空飛ぶ船」や、「水陸両用車」が、魔法の道具ですね。この魔法道具は、一応、主人公の末っ子の持ち物ですが、仲間の男たち全員で使います。みんなが、それぞれ特技を生かして難題を解決する場面など、現代日本のスーパー戦隊ものの原型を見るようです。

 『魔法組』には、「空飛ぶ船」に相当する、マジッカーという魔法道具が登場しますね。ショースケたち五人組で、マジッカーに乗るところは、「空飛ぶ船」にそっくりです。

 とはいえ、『魔法組』は、伝統的な口承文芸より、娯楽作品として、はるかに進化しています。

 まず、魔法道具を使うのが、男性三名・女性二名の男女混成チームであることが、挙げられます。しかも、女性のほうがリーダーです。
 このような男女混成チームは、伝統的な口承文芸では、私の知る限り、登場しません。普通は、男ばかりのチームです。混成チームにするだけで、人間関係にバリエーションができて、話が面白くなります。

 次に、魔法道具を提供してくれた超常的な存在が、ずっと話に関わり続けることです。
 「空飛ぶ船」では、空飛ぶ船を作ってくれた不思議な老人は、ただそのためだけに登場して、あとには出てきません。魔法道具が登場する口承文芸は、みな、こんな感じです。魔法道具をくれる存在は、ただその場面だけに出てくる、御都合主義的な存在です。
 でも、『魔法組』では、MJバッグの持ち主、魔女ベルバラが、ずっと登場しますね。登場するどころか、トリックスターとして、話を大きく動かす役割をします。

 魔法道具、トリックスター、チームで問題を解決することといった個々の要素は、『魔法組』と、伝統的な口承文芸とで、共通します。
 けれども、『魔法組』では、それらの組み合わせや使い方が、工夫されています。明らかに、面白くなる方向へ、進化しています。

 現代の創作物語って、よくできているのですね。『魔法組』は、一九七〇年代の作品ですが。
 二〇一五年現在から、四十年ほども昔の作品にして、すでに、この領域に達していたわけです。二〇一五年現在の娯楽作品は、もっと進化しているはずです。そりゃ、面白くなりますよね。幸せな時代です(^^)

 『5年3組魔法組』については、これで終わりにします。
 次回こそは、新しい作品を取り上げます。



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