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街頭インタビュー

 わたしの彼は左利きで年下の男の子なの。彼のことを人に話すと、なんだか昭和歌謡だねと言われます。なぜでしょう?
 干支はひとつしか違わないのに、歳は13違うと言うと、ぎょっとされますのよ。犯罪だと冷たい視線を投げてくる方もいらっしゃる。いいじゃないの、お互いに幸せならばと思うのですが。人様がとやかく言うものじゃないでしょう? 
 ひどいのになると、わたしがたぶらかしたみたいな言い方をされることもあるんです。
 その時は、よしてくださる? これはれっきとした純愛ですのよ、とはっきり言わせていただきますけれども。

 それはそうですよ。わたしのほうが先に老けるでしょう。だって彼より13歳年上ですもの。13年分早く老けて当然ですわ。その分、私は彼より経験を積んでいるってことです。人としての厚みは違うかもしれません。わたし、可愛くなので可愛い女を演じることもしませんし。
 わたしには、努めて意識してることがあるんです。かっこよく生きなきゃって思っています。歩き方ひとつとっても、しなやかで滑らかに。腹筋に力を入れて、お尻をきゅっと引き締めて歩く。生き方もそう。胸を張って進み、来るものを寛容に受け止めて、都度都度考えて、最適解を探すようにしているんです。
 答えが出ないことだってありますよ。当たり前じゃないですか。世界はちっぽけなわたしなんかより、ずっと広くて複雑にできているんですもの。うまく渡り合えるわけなどありません。

 わたし、若い頃、そうねちょうど今の彼と同じ年くらいのころかなあ、肩に力が入り過ぎてました。何事にも全力でぶつかるなんてことをモットーにしていたんです。若いなあって自分でも客観的にあのころの彼女を見るとそう思います。若気の至りですね。負けず嫌いだって周囲には見られていました。
 でも今は紆余曲折があって負け好きを公言しています。意地を張って我を通しても碌なことにはならなかった経験がそうさせたのだと思います。人は苦い経験を通して踵を返す、そういうことなのかしら。
 
 あら、もう時間になっちゃった。約束の10分、きちんと受け止めさせていただきましたので、わたし失礼いたします。彼を待たせるわけにはいきませんから。
 こんな答えでよかったのかしら。あんまり役には立たないと思いますが。必要なければばっさりカットしてくださいね。

 実年齢ですか?
 いえ、特に隠したりしてもいませんし、誤魔化すつもりもないのでかまいませんが。
 
 みなさん、そうおっしゃいます。努力していますもの。
 といっても美容に時間もお金もかけてはいません。わたし、綺麗ではないし、だから自惚れることもないし、だから人一倍清潔にしていようって、ただそれだけです。

 年齢詐称は言葉の詐欺であって、見た目には適用されるべきものではありませんことよ。たぶんですけど。それに見た目を装う努力はしていないって、先ほども申し上げたとおりです。見た目を繕うことより、あとになって悔やむような生き方だけはしたくないなって。こっちを選んだら、そっちにかける労力を捻出できなかった、そんな感じです。

 君たちはどう生きるかって時代に問われているでしょう? 今まさに映画も公開されていて、あれに触発されたわけではないのですが、常々このように生きてみたいなあ、と思うところがあって、自分なりの生き方をしているだけなんです。
 
 5分オーバーです。もう行きますね。これ以上待たせるわけにはきませんから。

 いえ、こちらこそ。お仕事、がんばってください。
 では。

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