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桜、枝、蕾、春。

 店先に、蕾をつけた桜の枝が束ねてあった。気の早い一輪がにかっと笑顔を綻ばせていて、招き猫然に誘ってきた。招く手に導かれるまま店内に入り込むと、坪庭に浮かぶ雲のような花を咲かせたコテマリがいちばん奥に鎮座していた。枝はしなだれているのに、花は真っ直ぐ空を向く。荒波に弄ばれるがごとく浮かぶ社会びとの無垢な生き方みたい見えて、健気な生き方が他人事には思えない。気持ちを揺らされはしたものの、コテマリは買わない。春に備えて気持ちを切り替えるのに、今日は桜と決めていたからだ。

 桜は挿し木で増えると聞く。土に移せば100年後には桜並木ができるだろうか。
 花瓶に生けた桜は、並木への夢を揺らして養分を吸い上げていくことになる。
 ごめん。キミに泡沫うたかたの景色は彩ってもらえても、未来に命を託させることはできない。たとえ土に近い低層といえども大地と直結しないこのベランダにいては、キミの夢は永遠とわに叶えられることはない。
 桜は部屋の中から花瓶に収められたまま、晴れ渡った束の間の景色を眺めている。

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