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魔女になりたかった女の子のこと

もうずっと前の話。
ある日会社で、1本の電話を受けた。
声の主は、おそらく小学生の女の子。その子は思い詰めた声でこう言った。

「どうしたら魔女になれますか」

まじょ…マジョ…魔女…
「えっ…?」と言ったきり絶句した私に、その子は早口でもう一度同じことを言った。

当時勤めていた会社は、占いやミステリーなどの本も作っていたので、時々それに関する読者からの問い合わせが来ることはあった。
けれど、魔女について書いた本はあったっけ?

女の子の、ただならぬ圧に気圧され、思考停止。これが、おもしろ半分のイタズラ電話であれば、こちらも軽く対応できたかもしれない。けれど、電話の相手は年相応に楽しく、ラクラク生きている子ではないように感じた。

情けないことに私は何の返答もできず、上司に電話を託した。しばらく女の子の話をうん、うん、と聞いていた上司は、あのね、と言って静かに話しだした。
「魔女はいろんなことを知っていて、いろんな人の気持ちがわかるの。あなたも、今は一生懸命いろんなことを勉強したり、人の気持ちを考えたり、自分の内面を磨いてごらん。まずはそれが先」

そんなふうに答えていた。
私は感動して、ほぅ〜とため息をついた。
やっぱり人生経験大切…そう思った。
当時の私にそんな力量はなく、けれど今現在の私は当時の上司の年齢くらいになっているけれど、今でもとっさに答えられるか怪しい。

女の子は、なぜ魔女になりたいと思ったんだろう。
恋の悩みだろうか。
意地悪な子をやり込めるためか。
勉強しなくても頭が良くなりたい、誰からも好かれる女の子になりたい、そんな思いからだろうか。
ほうきに乗って、空を飛びたかった?

『魔女図鑑』 マルカム・バード作・絵

この本を目にしたとき、あの日の電話のことを思い出した。
この本には、魔女の暮らしや性質、言い伝えや魔女が持つ知恵などが詳しく書かれている。
魔女って本当に賢くて、曲者。人の心を見抜く力を持っていて、達観していて。ちょっと怖いけれど、仲良くなれたら楽しいかもしれない。「あんた本当にバカね」なんて言われながら、いろいろ教えてもらえそう。
あの時、何も答えられなかった私は、今も魔女の足元にも及ばない。

電話の女の子、今どうしているかな。
賢くて真面目で繊細で、ちょっとミステリアスな女性になっているかな。

もしかしたら、まだ心の中では「魔女になりたい」と思っているかもしれない。それを上手に隠しながら、ときに人や自分にウンザリしつつ、思い直して前に進む、そんなふうに生きているだろうか。

少しは生きやすくなっているといいな、そう願っています。

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