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『さよならマエストロ』が面白い!”のだめ超え”を予感させる、特大クラシックエンタメ作品に期待

先週末、日曜劇場『さよならマエストロ~父と私のアパッシオナート~』第二話目が放送されました。
前評判も上々で、一話目放送後から反響が大きかった本ドラマ。
キャストが豪華であったり、東京音大監修で本格的であったり、とにかくキャストが豪華であったり…と、予告の時点ですでに注目作。ホームドラマとしてのテクスチャも良好で、なんとなくヒットしそうな雰囲気に包まれていました。

第二話まで見進めたところで、このドラマに注目する理由は、まず三つ。
・主演の西島秀俊×芦田愛菜のキャスティングによるパワーが想像以上。
・玉山鉄二、西田敏行ら脇を支えるバイブレイヤーの醸し出す演技を超えた存在感。
・クラシックを「小難しいもの」からどれだけ引き離せるか。それと同時に
「ハマると面白いジャンル」をどれだけ表現できるか。

上二つは敢えて説明するまでもないと思いつつ、
スタート前は正直「西島さんと愛菜ちゃんってどうなんだろう、、」と思っていた方ではありました。
今となっては、とにかく愛菜ちゃんは俳優として非常に上手い上に、響というキャラクターにえげつないくらいハマっていること。
西島さんの演技力は推して知るべしですが、これまで演ってきた役が随所に生きていると感じられ(『きのう何食べた?』など)、上手いを超えて深いなとすら思います。
バイプレイヤーの方々については、このドラマの人気を担う重要なファクターだと思いつつ(石田ゆり子然り、玉鉄然り)、個人的には西田さんが画面に入ると急に映画になる、説得力が増すことにいつもグッときています。
(最近、ストリーミングで『タイガー&ドラゴン』や『俺の家の話』を鑑賞したばかりだったので、より感じ入るものあり…。2024年の今、テレビドラマで西田さんの演技を見れることの貴重さをしみじみ感じています。)

 最後に、本ドラマにおいても命題である、クラシック題材を大衆向けにどう料理するか、という部分。
これに関して考えた時、当初『オケ老人!』(2016年公開)という杏主演の映画を想起しました。この映画は若者と老人が入り混じるアマチュアオーケストラに、レベルの高いオケと勘違いして入団してしまった杏演じる主人公が成り行きで指揮者を務める事になるコミカルな作品です。
当時、この映画のイメージCDをリリースするレーベルに勤務していたので、マスコミ完成披露会に参加したことなどを思い出しますが、
そういえばあの頃、杏ちゃんは双子を出産したばかりで。黒島結菜も出てたな…と今や別の意味でも感慨深いというか、感じるところありますが。

 『オケ老人』がいまいち大ヒットしなかった理由を敢えて考察すると、「なぜクラシックなのか」の説明が端折られてしまっている気がしたのと、クラシックシーンの「ガチさ具合」が十分でなかったことが一つあるかなと考えています。
主人公がアマチュアオケに入団した理由が、偶然や勘違いであったり、大人になってオケに入ろうとした理由が”学生の時からオケでバイオリンを弾いていたから”というのに対して『さよマエ』は、
クラシックに懸ける父親と娘に起きた人生最大のすれ違いが生んだ確執といった大きな人間ドラマが軸になっていて、市民オケで共に音楽を鳴らすことをきっかけに、2人の関係性に雪解けを……という狙いがすでに眼前にぶら下がっていますが、掴みとして大変わかりやすい。
おそらく今後もそれだけではない仕掛けがたくさん出てくるのだろうなあと予想します。
クラシックやそれを演奏するオケという題材はフレームの一つで、2人の人間関係がメインテーマであること。でもそのフレームに強めのケレン味があり、ウィーンで活躍した指揮者が地方の市民オーケストラで振る……
まではありそうでなさそうなリアリティとフィクション性の妙ですが、さらにその市役所で娘が勤務しているというのは、めちゃくちゃよく出来た脚本だなあと、唸ってしまいますね。
「何、私の職場で指揮振ってんのよ!」って。
普通、娘の職場で指揮は振りませんし、そんな経験をした人がこの世の中に何人いますか?という。とんでもない設定なんですよね。宇宙的とでも言えるかもしれません。

 続いて、個人的に注目している、『さよマエ』がクラシック題材のエンタメの世界で『のだめカンタービレ』のようにブレイクするか?どうかですが、
クラシックというジャンルはやはり敷居の高い= 一般的にわかりづらいジャンルの音楽であることは否定できず、題材にしてコミカルなドラマや映画をやろうとした場合、その”ハードル”を感じさせない工夫が必要になります。例えば『オケ老人』でのアマチュアオケように老若男女で楽しめる一つの”コミュニティ”のように見せる、などの発想が生まれるのかなと思いますが、個人的にはクラシックを無理やり市井のものっぽく見せることは、本質的なスケールとはちょっとばかり離れてしまうのかな、と思うところがあります。実際は練習は厳しく、やってる人々はクセが強く、集団としてまとまりづらく、楽しいだけでは成立しないもので…

 逆に、クラシックはそのアカデミックさを包み隠さず出しておかしみに持って行く方向だとわかり良く面白く見える、というのが持論です。簡単に例えると、ドラマ『ガリレオ』みたいに数式を壁や床に書いちゃうような特異な演出が合うというか。あれは表現こそ誇大ですが、クラシックの世界も本質的にはああいうことを日々やっているところがあります。
『ガリレオ』を引き合いに出したのは、クラシック題材エンタメ作品で最もヒットした作品である『のだめ』に共通する面があると思っているからです。主人公・のだめのキャラクターは、まさしく「ピアノバカ」。

その観点で突っ走ると、『さよマエ』においても「のだめ」は存在しています。西島さん演じる夏目俊平です。
彼はオケや指揮から距離を置いても、自然とまた生業に戻っていってしまっているという、典型的なクラシックバカになります。クラシックを題材にしたエンタメ作品には、こういった、「本物」のバカが必要不可欠です。
彼の存在があり、その周りに吸い寄せられる本物志向や未来の本物が浮き出てくる図式です。早速二話では、先々の指揮候補として谷崎天音が登場していますが、それを想起させるワクワク感がありますね。
そして娘・響の担うポジションはクラシックから目を背け、W主人公の片割れとしてストーリーにブレーキをかける、が、これまた本物の「クラシックバカ」なんです。

こうして登場人物の相関図を眺めてみると、改めて物語に夢中になる要素しかないので、
もしかすると『のだめ』がもたらしたクラシック発社会的ヒットをアップデートしてくれるのではないか?と、今から期待が膨らむこと請け合いです。

第三話は、二話で登場したチェリストが緩い市民オケの演奏力を責め立てて早くもチームワークに不協和音ーーといった内容も含まれるそうなので、しっかり押さえるべき要素が入っているな…とほくそ笑んでしまいます。

次回も楽しく視聴させていただきたい、というところで『さよマエ』に関する一回目の記事を締めたいと思います。

ここまで読んでいただきありがとうございました!

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