イカ芝回収作業

 今日は所属する伊奈漁協の活動に参加してきたので、作業しながら考えていたことを書いておこう。

 タイトルにある"イカ芝"とはイカ用の人工産卵礁のこと。アオリイカの漁獲が近年減っている原因(伊奈漁協管内の話。伊奈に限らないのかも知れないが)は、産卵基質となる海藻類の衰退(磯焼け)により再生産が上手く行っていないためであると考え、人工的に産卵礁を設置して産卵活動を促す、というような事業。

 ※アオリイカは、海藻やサンゴの隙間等に卵の塊を産み付ける
 ※人工産卵礁は、鉄筋の枠組に海藻に見立てたビニール紐の房を付けたもの


 公共事業的な意味合いやその他の生物や環境へ与える影響等を考えると、事の是非を簡単には判断出来ないが、やるのならきちんと効果のあるやり方でやったら良いよね。漁師のためだけになれば良いのか、と問われたらそれはそれで答えに窮するし。

 まぁ、それは心の片隅に置いておき、今日の作業に集中。

 作業内容は、海中設置中に付いた付着物等を落とすために、年明けに設置した人工産卵礁を回収し、陸揚げするというもの。
 (対馬近海の)アオリイカは春先から初夏にかけて産卵をすると考えられているため、年明けに人工産卵礁を海中へ設置し、産卵期が終わったと考えられる秋頃に回収してメンテナンスするというのが例年の流れだそう。なにぶん初めてのことなので、何も知らない。

 いざ回収してみると、いくつかの人工産卵礁にアオリイカの卵塊が付着してる!

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 実際に産卵基質として利用しているアオリイカがいるというのはプラスな成果、一方で卵塊が付着したものを現時点で陸揚げするのは明らかにマイナスだな。

 これまで対馬の漁師たちが経験的に理解してきたアオリイカの生態が変わりつつあり、産卵期がズレてきているのかも知れない。もしかしたらほぼ年中産卵してるかも。
 今年の件を踏まえ、次年度は回収の日程を後ろ倒しした方が良い、と漁協職員と話して今日の作業を終えた。


 さてアオリイカマニアの方はすでにお気付きかと思うが、このアオリイカの卵塊、正確に言うとアオリイカの中でもシロイカ型のものである。アオリイカには近年シロイカ、アカイカ、クアイカの3型がいることが分かってきており、私が居た広島大学でも研究しているグループがいる。
 クアイカは小型種で南西諸島と小笠原海域にしか生息しないが、九州南岸〜紀伊半島、伊豆半島辺りはシロイカ、アカイカどちらの種も生息域に入る。シロイカとアカイカは素人目にはよく似ている。オレもイカに関しては素人だし、イカ釣りはショア、オフショアともあまり入れ込んでやらないので、よく分からなくなる(というかあまり気にしていない笑)。基本的にはアカイカの方が南方系で、バカデカくなる、というくらいの認識。

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 シロイカとアカイカでは一つの卵嚢(一房)内の卵の数が違うそうで、数を数えればどちらのものか分かるらしい。シロイカは平均5個、アカイカは平均9個、クアイカは2個。今日見たのを数えてみたら、ほとんどが5個で最多は7個。てことは、やっぱりシロイカ。他にも産卵水深や好む基質が違ったりもするよう。シロイカは20m程度の海藻や沈木、アカイカは40m程度のサンゴの間に産卵するとされている。

 この時期まで産卵してるってのは、これまで対馬にはいないとされてきた南方種アカイカが入り込んでるのか?と一人作業中の船上で考えていたが、それはなさそう。やはり地元の漁師のこれまでの認識より、産卵期が後ろにまでズレてきているというのが正しい理解かな。

 東シナ海側(九州西方海域)では甑島辺りまでアカイカが分布するとされているが、温暖化が進めば、暖かい海流に乗って五島列島、さらには対馬まで普通にやってくる日はそう遠くないかも知れない。そうなればなったで、アカイカをうまく利用した漁業をやっていけば良いじゃん、と気楽に考えているが、果たして。

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