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短編小説!📖『熱帯魚』

『熱帯魚』

いつものように 朝が来た。
いつものように 起き上がるはずだった。
しかし その日は様子が違った。

どうしても 立ち上がることができない。
私にも とうとうこの日が来たのか?
無理に無理を重ねてきた この身と心。

その日からはじまった 闘病生活。
病気と闘うと言っても 休むことが闘い。
今までとは 真逆の生活だった。

身体に染みついた、悪い生活習慣。
新しい生活には、簡単に馴染めないのだろう。
精神への圧迫も、日々感じながら。

部屋からは どうしても出ることができない。
変化変化の連続とは 本当のことだった。
良いことも悪いことも 長く続くとは限らない。

ご飯お風呂以外の時間は 布団での生活。
頭だけが ぐるぐると回っている。
今まで考えなかったことまで ぐるぐると。

苦しいはずの この状況。
苦しくないと言えば 噓になる。
しかし 苦しさだけではなかった。

収入も途切れ 普通の生活ができないのに。
体験して はじめて分かる人の心。
人並みに 他人の痛みが分かる存在になりたい。

3か月ほどたった頃 少し動けるようになる。
うれしくて 無性に何かをしたくなった。
無理しない程度に 動いてみようか?

日課になっていた 熱帯魚の動画鑑賞。
お気に入りの ユーチューバー。
私にもできるのか 彼のように。

金魚を飼っていた時に 使っていた水槽。
引っ張り出して 水づくりをはじめる。
オブジェとお魚を買いに 久しぶりに家を出た。

動画の真似して 挑戦してみた。
目の前で 元気に泳ぐお魚たち。
時間を忘れて 眺めていた。

熱帯魚のお世話が 朝晩の私の仕事。
とともに 希望が見えてきた。
この病気からは 抜け出せないと思っていた。

こんな状態でも 私がいなければ…。
誰かの役に立っていると 強い実感。
これが 生きるということなのか。

今まで私は 何をしてきたのだろう。
頭で分かるということと 心で感じること。
この2つには ここまでの差があったのか。

私を育ててくれた 熱帯魚たち。
多くの人たちの お世話になってきたのだ。
立ち上がるしかない もう一度。

自分だけの人生なら こんなに楽なことはない。
他人のための人生なら 迷うはずもない。
人の輪の中で 自身の中に生きるとしよう。

もう一度 立ちあがって…








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