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1月の火曜日「あいさいの日」

 仕事を終えて、これから帰る旨をラインで送ると、妻から「今日は愛妻の日だってさ」と返信がきた。愛妻の日? 毎日、何かしらの記念日というか、適当な語呂合わせがあることは、なんとなく知っているけれど、なぜ今日が愛妻の日なのかを二秒ほど考えたら、『0131』いや『131』で、最初の『1』をアルファベットの『I』として、『31(さんいち)』を『さい』としたと判った。英語と数字と日本語混じりの、やや強引なこじつけで、さながらマフティ・ナビーユ・エリンみたいだ、と思ったけれど、妻には通じないので、そのメッセージは既読スルーした。

 とはいえ、なにもしないわけにもいかないので、電車で最近ハマっている戦隊モノの『ドンブラザーズ』をアマプラで観ながら、何を買って帰るのかを考える。以前から、娘と一緒にプリキュアを観た流れで、つまみ食い的に観るでもなく観ていたのだけれど、なかなか破天荒なストーリーで、徐々に気になり出し、先週ついにハマってしまった。断片的に観ていたので、ストーリーの大枠がわからないというか、掴めていなかったので、第一話から観ているけれど、結論、ちゃんと観ていても判らない(笑)。でも面白い。ストーリーは進んでいるようで進んでいない、ようでいて少しずつ進んではいる。といった感じ。あくまで自分が知っている(子供のころに観ていた)戦隊モノの、その一般的な感覚でいうところの、シリアスメインの中に稀にあるおチャラケ回を毎週やりながら、たまにメインのストーリーが少し進む的な。

 しかし、愛妻の日というのは、どのくらいポピュラーなものなのだろう。正直言って初めて聞いた。今日の今日なので、いまさら手の込んだプレゼントは用意できないため、花でも買って帰るか、と最寄駅にあるフランチャイズのフラワーショップを覗くと、正面にデカデカと「今日は愛妻の日」とイーゼルが立ててあった。お前らが黒幕か!? と思わないでもなかったけれど、まんまと小さなブーケを買った。花とケーキを買って帰ろうと思っていたので、花だけにあまり予算は割けなかったのだけれど、『愛妻の日ブーケ』なるものは、二千円代、三千円代、五千円代と種類があり、僕の前に会計をしていた初老の男性は五千円代のブーケを注文していて、きっと会社役員か何かなのだろう。お金持ちだな、と思った。一方の僕は五五〇円のブーケ。しかも会計の際に店員さんに「愛妻の日の贈り物ですか?」ときかれて、一瞬返答に詰まった。「え、あ、はい、そう、なんていうか、それ的な……」と、しどろもどろになりながら答えると、「ではこちら、お付けしますね」と愛妻宣言カードなるものをつけられた。妻の誕生日、結婚記念日、良い夫婦の日、愛妻の日、バレンタインデーにこのカードを使うと一割引になるらしい。妻の誕生日と結婚記念日の欄は、ご丁寧に空欄になっていて、自分で記入するらしい。涙ぐましい営業努力だ。なんだか五五〇円のブーケでバツが悪い。ただ、言い訳ではないけれど、僕はお花と合わせて、ケーキも買って帰るのだ。コージーコーナーとはいえ、ケーキだって一個税込で五百円はする。それを五個買ったら二千五百円で、お花と合わせたら三千円だ。

 家に帰り、買ってきたのものを渡すと、妻は「本当に買ってきたの? 言ってみるもんだわ〜」と言っていた。義母と義妹も感心していたというか、なんかウケていた。まぁ、悪くはないかな、と思いつつも、夕飯を食べている途中だった娘は、ケーキを見るなり、「もうおなかいっぱい。デザートしかたべれない……」と、女優モードに。なだめすかして、食後にみんなでケーキを食べた。

 食べている最中に、妻が「愛妻家の反対ってなに?」というので、「恐妻家じゃない?」と言うと、そうではなくて「愛夫家」的な言葉はないのか、ということらしい。そんな言葉はないけれど、強いて言うなら「林家」かな、と言うとみんなにポカンとされたので、「ペー」といったらまたポカンとされ、さらに「パー」と言ったら、だだスベリした。一個も面白くないので無理はないけれど、こんなときにパー子がいてくれたら、とも思った。

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