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フィンランド人仏教徒の「ほとんどの人はちゃんと生きたがってる」の話

 エストニア南部の町のアーティスト・イン・レジデンスに参加していた時、複数のプロジェクトがレジデンス内で進行していたために、いろんなアーティストがとっかえひっかえやってきた。首都タリンの大学に通う学生さんたちがたくさん来た時には、学生さんがセト民族の教会まで車で連れてってくれた。その日はキリスト教にとって特別な日で、その日のための儀式が見られるだろうとのことだった。

 学生さんたちの一人に、仏教徒の人がいた。エストニアは物価や学費が安いので、フィンランドでお金を貯めてエストニアに留学しに来ていると言っていた。哲学としてのブッダの考え方がとても好きだとその人は言っていた。

「僕は村上春樹の小説も好きでね。日本のものはとてもいいよ。アジアには行ったことがないけど、いつか必ず行ってみたい」
「私も村上春樹好きですよ! 耳がすごくきれいな女性とか出てくるんですよね」
「そうそう。村上春樹の小説を読んでると、日常がとても大切だってことに気づかされる気がするんだ」
 最近は情報に踊らされすぎて疲れているから、本を読むとか散歩するとか、日常を感じられることがとても好きだと彼は言った。

「SNSとかもさ、もともとあんまりやらないタイプだったんだ。でも最近は、連絡するにもメッセンジャーを使うようになってるし、インターネットなしに生きられないよね」
「そうですねぇ。海外は田舎でもネットが早いし、ネットがないと自分ももう生きられないかも」
「SNSを見てると、みんな、なんだかんだで生きたがってるんだなぁって感じるから、すごくイヤなわけでもないんだけど」
「生きたがってる?」
 SNSを見てると、たまにすごくネガティブなコメントや争いが見える時があるのに、どうして生きたがってると思うのだろう。不思議に感じて彼に聞く。

「本当にこの世の中に絶望していて、もうどうでもいいって思ってたら、コメントなんてできないんじゃないかって思うんだよね。少なくともネットの中にコメントを残すのは、誰かに聞いて欲しい、気づいて欲しいっていう気持ちの表れだと思うんだ。
 それは生きたいって思ってる証拠だと僕は考えてる。誰かに助けを求めて頑張ってる姿なんじゃないかなって」
「そっかぁ。そしたら必要なのは聞いてくれる人の存在なのかもしれないですね」

 教会の近くにつき、車が駐車場に入る。イベントは深夜〇時から始まるために、外は真っ暗だった。

「うん。ネットには発信する場はたくさんあるけど、ただ聞いてくれるような場所はあんまりない。そういうのが必要なのかもしれないね」

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物語に登場してみたい!という方は「本人の見た目の描写、自分の呼び方(私・俺など)、職業、簡単な性格ほか」をコメントください。名前は不要(あってもよい)なのと、見た目や職業も創作で構いません。
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