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「いつの間にか年を取ってやり方を変えないといけなくなってるんだ」の話

「長い人生にはいろんなことがあるからね。何をやってもうまくいかないような時期だってあるよ」
「そんなことありました?」
「あるよ。誰だってあるはずだ。周りから見て幸せそうに見える人だって、辛い時期なんかいくらでもあるはずだよ」 
 老人の言葉に私は自分自身を振り返る。辛いと思えることはたくさんあった。

「何もかもうまくいかない時期ってなんかジタバタしちゃうんですけど、どうやって過ごすのがいいんですかね」
「自分にとってちゃんと正解だって思えることをするのがいいって私は思ってるけどね」
「ちゃんと正解?」
「そう、人生の正解が一人一人違うように、困難にぶつかった時の対処の仕方も一人一人違うはずなんだ」
 老人の言うことは分かる。それでも『誰か』の人生がうらやましく見えてしまうことがあるのも確かだ。

「うらやましいと感じるのは、自分もそうなりたいという気持ちがあるからだ。それは自分の正解を見つける方法の一つだよね」
「そうか、うらやましいは自分の正解の一つなのか…」

 老人はレモンティーを淹れ直してくると言って席を立つ。キッチンから戻って来た老人の手には、紅茶のポットとレモンの輪切りが入ったカップ、それにジンジャークッキーが山盛りの皿が乗ったお盆があった。

「大事なことは、ずっとうまくいかないならやり方を変えるっていうことを覚えておくことだよ。うまくいかない時にうまくいかないことをやりつづけていても、だいたいは何も変わらない。あとね、もう一つ覚えておいてほしいのは、誰もが年を取るということなんだ」
「年を取るということ?」
「そう。同じような生活をしていると、自分が年をとっていることを意外と忘れがちだ。だけど私たちは年を取るし、昔と同じようにはやれなくなっている」
 老人に言われて、私は自分が年を重ねていることを思い返す。昔よりも風邪の治りが遅くなったし、痩せにくくなった。
「昔うまくいってたやり方は、時代の助けがあったかもしれないし、若かったからかもしれない。だから、今までのやり方でうまくいかなくなったら、やり方を変えるっていうこと大事だ。今の自分にあった」
「年を取った自分にあったやり方かぁ」
 私はもう学生じゃない。それなりに社会人経験もしてきた。だけどまだやりたいことがある。でもやりたいことをやり続ける道は、平坦ではない。

「同じように生きているつもりでも、自分も時代も、ちゃんと変わってるってことだ」
 うまくいったパターンがあったら、そればっかりを繰り返してしまうような気がする。でももしもそれがうまくいかなくなったら、途方にくれてしまうかもしれない。自分なりの勝ちパターンで、すごくうまくいってた場合は特に。
「昔の自分じゃなくてね、未来の自分にとって正解だって思える方法を選べたら、それが一番うまくいくんじゃないかって私は思ってるよ。人はつい、過去にうまくいったやり方を繰り返してしまいがちだけど、自分たちは未来に向かって生きているわけだからね」
「未来の自分かぁ…」

「今の自分の正解は、未来の自分が教えてくれるんだよ」

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