わかりあえなさを受け入れる
先週あたりから、生成AIが物理領域に進出しつつあるという記事が、立て続けにリリースされるようになりました。
「まさかの」と見出しが付けられていますが、これは既定路線でしょう。
ソフトウェアの分野で生成AIが発展すれば、プログラムで動作するハードウェアに生成AIが組み込まれるようになるのは「すでに起こった未来」です。
ロボット側から見る生成AI活用のメリット
ロボットの制御にはプログラムが利用されています。
ロボットに行動を教えるためのロボットティーチングは、以下の4パターンに分類されます。
従来のロボットティーチングは、決められた動作を正確に繰り返すように、エンジニアがロボットに手順を教示するというものでした。
手順を教示されたロボットは、決まったサイズの箱を持ち上げたり、定められた場所にパーツを取り付けるといった作業は得意分野です。しかし、想定外の事態や偶発的な状況には対処できません。
生成AIが実装されたロボットは、物理的な世界で起こる事象を膨大なデジタルデータから学習することによって、想定外の事態にも対応できるようになっていきます。
人間と同じように、初めての事態に直面したときにも臨機応変に対応できるようになるのです。
生成AIがロボットに実装されるメリット
続いて、生成AI側から見たメリットを考えてみます。
現在の生成AIはクラウド上で動く無形のシステムであり、生物に例えるなら脳みそだけで身体がない存在です。
人間は記号(シンボル)と実世界の意味を結び付けて言葉を理解しますが、現状の生成AIはそうではありません。
ChatGPTなどの大規模言語モデル(LLM)がやっていることは、あくまで大量のデータを処理して言葉の続きを予測しているだけです。言葉の本当の意味を理解しているわけではないのです。
物理的な身体を手に入れた生成AIは、身体性を獲得します。
身体性を持ったAIは環境を感知できるようになり、言葉と世界がどのように結びついているかを認識するようになります。
そうなると、環境と相互作用することで自ら動き方を修得したり、作業を自動化したりといったことが可能になると考えられます。
身体性を得た生成AIは、やがて人間の感覚を理解するようになります。
人間の身体性と認知特性
人間には外界を感知するための感覚が備わっています。特に、視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚という、古代ギリシャのアリストテレスによって分類された5種類の感覚は五感と呼ばれています。
人間は感覚器から入ってきた様々な 情報を、脳の中で「整理」「記憶」「理解」する能力を持っています。その際に、五感をバランスよく活用できる人もいれば、特定の感覚に偏って認知している人もいます。
わたしたち一人ひとりが、それぞれの認知の仕方や思考のパターンを持っていて、この違いを生み出す要因を認知特性と呼びます。
認知特性は以下の3つに分類されています。
認知特性が生まれる背景には、遺伝的要因と環境的要因の両方が関わっています。遺伝的には、脳の構造や神経伝達物質の働きなどが影響します。一方、幼少期の体験や教育環境、文化的背景なども、認知スタイルの形成に大きく寄与します。
一人ひとり異なる認知特性は、コミュニティに多様性をもたらす一方で、相互理解を難しくする要因にもなります。わたしたちは、自分の特性を理解してもらえないときにやりづらさを感じたり、相手の特性が理解できないときにわかりあえなさを感じます。
コミュニケーションにおける齟齬を避けるためには、相手の認知特性に合わせてふるまいを変えることが有効です。
例えば、新しい商品についてのプレゼンテーションをするとき、視覚優位の人は図やグラフが非常に有効なコミュニケーション手段です。それに対して、聴覚優位の人は話し言葉や音のニュアンスを重視します。触覚優位の人は試作品やワークショップなどが伝わりやすい手段となり得ます。
このように、認知特性の個人差を理解し尊重することが、誤解のないスムーズなコミュニケーションにとっては重要です。お互いのスタイルに合わせて上手く意思疎通を図ることが大切なのです。
身体性を持ったAIは明るい未来をもたらすか?
身体性を持ったAIにはバランスの整った感覚が実装され、わたしたちの偏った認知特性にもうまく合わせてくれるようになります。
やがて、AIは自分のことを誰よりも理解してくれる存在になるでしょう。
AIとのコミュニケーションに心地よさを感じる人々は、次第に人間同士の交流を避けるようになり、共感力や対話を通じた解決能力を失っていきます。
人間とAIとの間に生まれた新たな依存関係は、人間の自由意志や個性を脅かし、アイデンティティさえも曖昧にしていくのかもしれません。
あるいは、コミュニケーションの齟齬が生じないように、AIが人間と人間の間を取り持ってくれるようになるのでしょうか。
AIを介することで、人間はお互いにストレスを感じることなく、祖語のない完璧なコミュニケーションを取ることができるようになるかもしれません。
いずれにしても、わたしたちがわかりあえなさを感じていられる日は、そう長くないようです。いまのうちにわかりあえなさを楽しんでおきましょう。
では。
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