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悲しみとの向き合いかた

前々回の投稿から、メンタルが弱った状態から回復する力(レジリエンス)を構成する、3つの個人内要因について触れています。

新奇性追求
さまざまな物事、人物、事象に興味や関心を持つ

感情調整
特に「悲しい」「辛い」といったマイナス感情をコントロールする

肯定的な未来志向
将来に対して目標、夢、ビジョンを持つ

今回は「悲しい」というマイナス感情について考えていきます。

「悲しみ」は「怒り」よりも厄介

前回、怒りのピークは最初の6秒間と言われていて、これをいかにやり過ごすかが重要だと書きました。

2014年にベルギーのルーヴェン・カトリック大学で行われた調査によると、人間の感情を27種類に分類して、それぞれの持続時間を収集したところ、「悲しみ」が最も長く、120時間持続するという結果だったそうです。

27種類の感情の持続時間

同調査の抜粋によると「持続的な感情は、通常、重要性の高い出来事によって誘発され、高いレベルの反芻と関連している。」と考察されています。

「悲しみ」という感情は、他の感情よりも重要性が高い要因によってもたらされ、かつそれを自分のなかで繰り返し思い出されるため、長期間持続するという側面があるようです。

短時間で鎮火する「怒り」とは異なり、「悲しみ」とは長い目で向き合っていく必要があります。

ある感情は他の感情より長く続く。しかし、持続時間の違いは、少数の感情についてしか調査されておらず、観察された違いは説明されていない。本研究の目的は、感情間の持続時間のばらつきの詳細と、このばらつきの説明を提供することである。参加者は、最近の感情エピソードを思い出し、その持続時間を報告し、評価と調節戦略に関する質問に答えるよう求められた。27の感情のうち、悲しみの持続時間が最も長く、恥、驚き、恐怖、嫌悪、退屈、感動、苛立ち、安堵が最も短い感情であった。感情間の持続時間の変動は、1つの評価次元と1つの調節戦略でほぼ半分を占めた。特に、短い感情と比較して、持続的な感情は、通常、重要性の高い出来事によって誘発され、高いレベルの反芻と関連している。この結論は、感情持続時間の定義によらず成立し、感情の再帰性と強度を考慮しても有効である。

Which emotions last longest and why: The role of event importance and rumination(DeepL翻訳)

「悲しみ」の色は紅

仕事上で感じる「悲しみ」は、理想と現実のギャップによるものが多いのではないでしょうか。とりわけ、新しい職に就いたときに感じる、期待と現実との間に生まれるギャップによる衝撃のことを、リアリティショックと呼ぶそうです。

リアリティショック(英: reality shock)とは新たに職についた労働者などにおける期待と現実との間に生まれるギャップにより衝撃を受けることである。また小川憲彦は組織参加時だけでなく各節目でも発生するとしている。

リアリティショック(Wikipedia)

リアリティショックには、下記のような種類があります。

同期・同僚ショック
同期や同僚との人間関係や、周りの能力

仕事ショック
仕事上で与えられる自律性や、仕事を通じて得られる成長や達成感

評価ショック
給料や昇進機会

組織ショック
会社の雰囲気や社風、将来性

リアリティ・ショックの扱い方がポイントにー新入社員の組織適応を促す要素とは
(日本の人事部)

このときの感情を、自分視点で表すとこのような感じではないでしょうか。

  • 同期よりも頑張っているのに、上司は認めてくれない

  • 雑用ばかり頼まれて、ちっとも成長の機会を与えてくれない

  • 会社への貢献に見合った評価と報酬を与えてくれない

  • 社内の人間は、誰も私の気持ちを分かってくれない

「悲しみ」を色に例えるとしたら、陰鬱を評して「青(ブルー)」と表現されることが多いですが、私は「紅(くれない)」だと思います。

「悲しみ」を感じる紅葉の季節

前述のように自分の内側から沸き起こる「悲しみ」だけでなく、外的要因から来る「悲しみ」もあります。

春夏秋冬のなかで「悲しみ」を感じる季節といえば、ではないでしょうか。だんだんと日照時間が短くなり気温が下がってくると、夏の疲れや冷えからくる体調不良が多くなります。そんなとき、紅葉が色づいて落ちるさまに物悲しさを感じて、情緒不安定になったり、感傷的になったりします。

また、秋になると鼻や喉の潤いがなくなり、乾燥した空気が肺に入り乾きやすくなります。肺が乾燥すると「悲」「憂」といった感情がコントロールしにくくなり「何となく調子が悪い」「何もしたくない」といった不定愁訴が起こりやすくなります。

不定愁訴(ふていしゅうそ)は、臨床用語で、患者からの「頭が重い」、「イライラする」、「疲労感が取れない」、「よく眠れない」などの、「なんとなく体調が悪い」という強く主観的な多岐にわたる自覚症状の訴えがあるものの、検査をしても客観的所見に乏しく、原因となる病気が見つからない状態を指す。症状が安定しないため治療も難しく、周囲の理解も得られにくい。

不定愁訴(Wikipedia)

このように、なんだか分からないけど「悲しみ」を感じているときにも、脳は「わからないことをわかろうとする」という性質があるので、無意識に原因を探して空白を埋めようとします。

脳が不定愁訴の原因を仕事上の問題に探し始めると、フィジカルの不調に起因する「悲しみ」と、リアリティショックによる「悲しみ」を混同することもあるでしょう。振り返ってみると、先月の投稿に書いたメンタルダウンなどは、まさにこのケースだったと思います。

「悲しみ」はありのままに受け入れる

心理学者のロバート・プルチック氏は、1980年代に「感情の輪」というモデルを提示し、生物の感情を「喜び・信頼・恐れ・驚き・悲しみ・嫌悪・怒り・期待」という8つの基本感情に分類しました。

プルチックの感情の輪(Wikipedia)

プルチックの感情の輪によると、8つの基本感情は下記のように対をなしており、対になる感情は同時に表れにくい性質があるとしています。つまり、「悲しみ」を感じている間は、対局になる「喜び」という感情は表れにくいということです。

喜び(joy) ⇔ 悲しみ(sadness)
信頼 (trust)⇔ 嫌悪(disgust)
恐れ(fear) ⇔ 怒り(anger)
驚き(surprise) ⇔ 期待(anticipation)

なので、「悲しみ」を感じているときに、テンションがあがるような行動を取って「喜び」で上書きしようとしてもうまくはいきません。無理に他の感情に切り替えようとするのではなく、自己治癒力で回復していくのを信じて、時間をかけて「悲しみ」の感情を和らげていくことです。

「悲しみ」の感情は、自分でコントロールすることが難しい事態によって湧き起こるケースが多いので、抑え込むのではなくありのままに受け入れることが大切です。そして心の休息を取り、時間をかけて平穏に近づけていくことをお薦めします。

このように、「悲しみ」は5日間持続し、「喜び」で上書きすることもできず、時間を掛けて回復するしかないという、とても厄介な情動です。ですが、豊かな人生を過ごすためには、必要な感情なのかなとも思います。

冬の寒さを知ったからこそ、春の温かさに気付くことができる。そう思えるようなメンタルになったら、きっと雪解けはもうすぐです。

では。


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