【超短編】亀虫色の目玉焼きで朝食を

喝破久吉がビニール袋を手に教室に入ってきたのは始業時間の一分前。喝破の日常である。

級友の視線が一斉にビニール袋に集中する。透明のはずのビニール袋は内容物のせいで灰色になっている。

級長の鈴木が危険を察知して座席から廊下に駆け出した。何人かの生徒がつられて廊下に向かう。

喝破はふたつあるビニール袋から空気を抜くと足元に置いて踏み潰した。プチップチップチッと内容物の潰れる音と感触が伝わってきた。
喝破はビニール袋を拾い上げて結んであったビニール袋の口を開けて教室の前後にある扉に放り投げた。

忽ち教室は悪臭に満たされる。潰し損ねた亀虫が数匹抛擲されたビニール袋から這い出す。「臭っさ」「キャー」「うぇー」教室は阿鼻叫喚に包まれた。全員が教室から撤退する。

喝破は投げ捨てた瞬間に教室を駆け出し校舎の屋上に避難していた。
屋上は立入禁止で大きな鍵で封鎖されていたが喝破の解錠技術の前には無意味で避難場所として重宝していた。
自分に臭いが染み付いていないのを確認して、これからの時間なにをしようか思案を始めた。
地上での喧騒は喝破の耳に心地よく響いた。