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THE SECONDについて

M-1の興奮も冷めやらぬ中とんでもない賞レースができることが発表された。それがTHE SECONDである。

これはどのようなものなのかというとM-1とは真逆でM-1の出場資格を失った結成歴16年以上の漫才師によって競われる漫才大会である。しかしながらこの賞レース誰が得するんだという懸念や不安材料もあるように思われる。その理由は以下の通りである。

1:ターゲットとなる視聴者の年齢層はどこなのか?

御本家のM-1はコンビ結成歴15年(当初は10年)以内の漫才師で行われる大会である。結成歴で縛りを設けることで活きのいい若手を発掘するという目的がある。

一方で島田紳助はM-1を作った理由に若手のスター発掘以外にいつまでも惰性で芸人を続けている芸人に対する肩叩きの意味も持たせたと聞いたことがある。10年経っても売れないんだったら芸人を辞めろというのは一見冷たくも見えるが潰しがきくうちに転職しなさいという彼なりの優しさのようにも思える。

コンビ結成歴という縛りで若手芸人の限られた時間に売れないといけないという気持ちに火を付けて、それを見た若手芸人と年齢が近い視聴者の共感を得るというのがM-1の狙いではないかと思う。

ただ、M-1は若い世代だけでなく老若男女が楽しめるエンターテイメントに成長してきたとも思う。

さて、そういった点を踏まえた上で今回のTHE SECONDはどの世代の視聴者にターゲットを絞ればいいのだろうか。結成歴16年以上と下限はあっても上限がないので極端な話(出ないとは思うが)大ベテランのおぼん・こぼんが出場してもルール上はいいのである。そうかと思えば逆にM-1出場資格を失いたての芸人も出場はできる。例えば金属バットや見取り図等が今年のM-1ラストイヤーに該当する。

つまり、若い人から見たら誰だこのおっさん・爺さんという芸人が出て高齢者から見たら誰だこの兄ちゃんという芸人が出て結果両者ともついていけなくなるという可能性もあるだろう。

2:そもそもベテランの奮闘ならM-1でも結成歴ロンダリングでできる

THE SECONDはベテラン芸人のための漫才大会を謳っているがM-1も芸歴ではなく結成歴で縛りを設けているので芸歴は長くても結成歴が浅ければベテランでも出ることができる。

これの恩恵を最も受けたのが去年チャンピオンになった錦鯉だろう。紆余曲折を経ておじさんの星となった錦鯉の活躍は見事だった。このようにベテランの活躍も御本家のM-1は完全網羅とまではいかないにせよ担っているのである。

M-1がカバーしきれないベテラン芸人たちをTHE SECONDがカバーしたとしてそこにどれだけの魅力があるかは未知数である。

3:M-1ラストイヤー組のモチベーション問題

この大会ができる前はM-1ラストイヤー組がM-1優勝できずに終わるということは名前を売る大きなチャンスを失うことを意味していた。

もちろんM-1は優勝できなかったがM-1を足がかりにバラエティで出演機会を増やして成功した悲しきチャンピオン芸人の逆パターンの芸人は千鳥、オードリー等のようにいるにはいるがそれは限られた存在だろう。あるいはジャルジャルのようにネタ特化型がM-1出場資格喪失後にキングオブコントを優勝するというパターンもあるがこれも容易ではないだろう。

しかし、この大会ができたことでM-1ラストイヤー組の芸人には「M-1がダメでもTHE SECONDがある」という安心感ができてしまう可能性がある。それが悪影響になるのではないかとユウキロック氏もYouTube動画で心配している。

4:審査員は誰がいいのか?

賞レースである以上優勝者を決めるには審査員の審査が必要となってくる。加えて賞レースの規模が大きくなればなるほど「この人がそう言うならそうなんだろう」という「格」が求められるような傾向があるように思われる。おそらく権威に弱い日本人の性なのかも知れないが。

さて、この大会はベテラン芸人が出ることが予想されるので芸歴が中堅どころの芸人が出るとなると先輩に多少なりとも気を遣ってしまうということが起きてしまう可能性もあるだろう。かと言ってオール巨人、上沼恵美子クラスを呼んだとしても高齢の身に負担をかけてしまう。

この審査員問題に対して前述のユウキロック氏は20代までの若い男女の視聴者が審査するという提案をしていた。この案のいいところは責任の分散にあるだろう。身も蓋も無い言い方をすれば例の84点なんかがいい例だろう。

ただ、20代までと若い人に絞るのはどうなのかなとも思った。M-1出場資格失いたての芸人はいいかも知れないがおじさん、下手すればおじいさんたちが自分達の世代に沿ったお笑いをやっても若い人はポカンとするだろうし無理に若者に寄せたとしても痛々しいだろう。

また、頑張っている同世代を応援したい中高年の声も拾えないというのは見る側としてももどかしいと思うということも起きるだろう。なので世代の幅は広めつつ、M-1との差別化をはかりつつ、責任を分散させるのがいいようにも思われる。いずれにせよ難しい問題である。

5:見たいと思える芸人がどれだけ参加するか

この大会に出る芸人の中にはおそらくM-1であと一歩のところで優勝した芸人が参加するということも考えられる。

しかし、前述のようにM-1で惜しくも優勝できなかった芸人でもテレビによく出ている芸人はそっちの方が忙しいからこの大会には出ないだろうしそもそも知名度を既に得ているのだから出る必要がないだろう。

だが、(変にお笑いに詳しく無い一般の)視聴者が見たいと思いたくなる芸人はそういった芸人だろうとも思う。彼らのような芸人たちが出てM-1のリベンジを果たすところを見てみたいと思う人は少なからずいるだろう。

出て欲しい芸人は出ず、かわりに(テレビの出演頻度が)微妙な芸人や誰だこいつみたいな芸人たちの漫才大会をどれだけ見たいか、モチベーションを保つのは難しそうにも見える。これが無名の若手なら成功へのスターダムを駆け上るところを見届ける喜びもあるかも知れないが。となると鍵はM-1出場資格を失いたての芸人か?

6:優勝きっかけに有名になれるか

規模の大きい賞レースの魅力の一つに「一夜で生活が変わる」というのがある。このサクセスストーリーを最も体現したのはサンドウィッチマンだろう。この大会で優勝してそうなれるかは未知数である。

ただ、これに関しては回数の問題もあるだろう。競馬で言うならG1昇格後のホープフルステークスみたいなもので何回かやってたらコントレイルみたいなのが出た、みたいなことがこの大会でもあるかも知れない。

7:フジテレビが制作するという点

フジテレビはR-1という賞レースがあるがR-1きっかけで出世したという芸人がそこまでいないように思える。博多華丸、粗品あたりは有名どころではあるが大会前から知名度がありR-1きっかけという感じではない。野田クリスタルはそのあとのM-1優勝でR-1優勝が薄まったような気もする。下手すればR-1きっかけというのはハリウッドザコシショウくらいなのではないだろうか?

三浦マイルドなんかは良くてマイナースポーツの定番カバディみたいな矛盾した知名度という感じもある。やまもとまさみに至っては顔も芸風も思い出せない。一概に賞レースの質だけの話ではないかも知れないが他の2大賞レースと比べると格落ちの感は否めない。

そもそもR-1云々というよりフジテレビ自体がもはや良い番組を作れる能力があるとは思えないような気もする。フジテレビは今でもバブルのノリを引きずっていてニーズにこたえきれてないという意見もある。これに関しては個人的に同感である。

とはいえじゃあ他局が作ったら上手くいくのかといったら微妙なコンセプトでもあるし、単純に賞レースそのものだけでなくチャンピオンになった後の芸人の振る舞い方も関係してくるかも知れない。

8:トーナメント形式について

この大会は予選を経て、本選トーナメントラウンドに出場する32組を決定する。その後、2回の本選トーナメントラウンドで、16組、8組と絞られていき決勝戦で8組によるトーナメントが行われる。

トーナメントに関してはM-1との差別化という意味もあるのだろうと思われる。個人的にはこれは好判断だったと考える。

ただ、あらかじめ決勝進出者の組み合わせが決まっていたらあのフジテレビのことだから露骨な勝たせ番組みたいな組み合わせを作ることだってありうる。そうなってしまったら見る気は失せるだろう。

だったら、MCバトルの口喧嘩祭のように「予め用意されたトーナメント戦ではなく、その場でのクジ引き形式で対戦相手を決定する」という形式でもいいのかも知れない。M-1のクジは通しであるがゆえにトップバッターになったらそこで終了という悲劇性はあるがトーナメントだったらトップバッターの悲劇もそこまでないだろう。

9:まとめ

THE SECONDという大会は改めて不安が多いと感じた。

ベテランによる戦いを謳いながら年々参加年齢が引き下げられている競艇の名人戦(現マスターズ)のように年の若い有資格者有利となりM-1とあまり差のない大会になる可能性もあるだろう。

だが、これでどんでん返し、大番狂せを起こせたらエンターテイメントとして成立するかも知れない。


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