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【好きな落語家、好きなネタ】第11回 古今亭志ん生

物書き兼「落語音源コレクター」である私なかむらが、ただ好きな落語家さんのネタの思い出を書き綴るだけのシリーズ。2年ぶりに再開します。いつまで続くか本人も判りませんが。
再開第1弾は古今亭志ん生。今回から故人の敬称は略します。

 ~ ~ ~

古今亭志ん生ほど、市販音源数が多い落語家はいないでしょう。
サブスク主流になった現在の状況はよく分かりませんが、レコード、テープ時代からCD時代に至るまでは、とにかく点数が多かったのでした。

滑稽噺から人情噺、三遊亭円朝作品から講談種、音曲から小咄に至るまで、音に残されたすべての芸は市販されたのではないかと思います。
なにしろ、2019年に小学館が刊行した落語CDブックに収録された『三助の遊び』のような、それまでマニア間で水面下で広まっていた出典不明の謎音源すら世に出たのですから、いよいよ最後の最後の残りカスまで搾り出しちゃったのでは?

『火焔太鼓』『替り目』『黄金餅』等々々、十八番演目についてはもう食傷ですよね?
関連書籍も山ほど出てますし、そこらの話はすべてショートカットして、自分の音源コレクションの話を中心に書くことにします。

自分の音源コレクション中、志ん生でしか聴いたことがない稀少演目を探したら、前述『三助の遊び』を始め、けっこうありました。
コレクション後に演者が増えた演目も含めて、ちょっと列挙してみます。

・『五銭の遊び』
(「増補落語事典」には『白銅の女郎買い』のタイトルで掲載。金の無い若者がエピソードトークをしゃべり合う、明治期の吉原の噂)
・『雪とん』
(佐七という男の、雪の日のモテ話。『お祭佐七』のスピンオフ?)
・『猫の恩返し』
(『猫定』とちょっと似ている、回向院猫塚の由来。講談『猫塚の由来』とは別話)
・『探偵うどん』
(いかにも明治時代の匂いが漂う捕物話)
・『羽衣の松』
(「増補落語事典」には『羽衣』のタイトルで掲載。おとぎ話のような掌編)
・『素人相撲』
(「増補落語事典」には『大丸相撲』で掲載されている相撲ネタ)
・『和歌三神』
(俳人の旦那と、3人の歌詠みの乞食の噺。近年のCDには収録が無い)
・『おもと違い』
(万年青‐おもと‐の鉢植えが流行した明治期の噺か?)
・『麻のれん』
(按摩が登場する、季節感のある噺。やはり近年CDシリーズから外れていたが、春風亭一之輔師の高座が先般放送された)
・『ぼんぼんうた』
(子供の無い夫婦が子供を拾う噺。立川談四楼師が「日本の話芸」で演じていた)
・『庚申待』
(『宿屋の仇討ち』の江戸バージョン。桂歌丸も演じた)
・『おかめ団子』
(飯倉片町の団子屋が舞台の、孝行の徳をテーマにした噺。古今亭志ん朝も持ちネタにし、現在は林家正蔵、林家たい平両師がやる)
・『庭蟹』
(以前『化物使い』のマクラで小咄として聴いた。最近『洒落番頭』のタイトルで若手が多数演じるとのこと)

その他、『今戸の狐』『お初徳兵衛』『搗屋幸兵衛』『駒長』『宗珉の滝』など、古今亭・金原亭一門で語り継がれている稀少噺も多くあります。『猫の災難』を改作した『犬の災難』や、『笠碁』を改作した『雨の将棋』なども含めてよいかもしれません。
また、「増補落語事典」に掲載されてない演目としては、
・『本所七不思議』(金原亭伯楽師が教わった由)
・『夕立勘五郎』(志ん生の自作、古今亭志ん輔師が演じる)
・『女給の文』(『ラブレター』の別題で演者多数)
などもあります。いずれも志ん生の音源としては稀少な演目。

さらにこれ以外では、以前見かけた古い新聞ラテ欄の寄席番組に、志ん生口演で、『三夫婦』『二八義太夫』という今や全く聴く機会の無い演目の記載もありました。
万が一音が残っていればとっくに市販されているでしょうが、どんな噺か一度聴いてみたいもんです。

こんなニッチな記事だけ読んで
「よーし僕も志ん生の落語を聴いてみよう!」
などと思う志ん生未体験者は皆無でしょーね。
端っこの話ばっかりしてるのもアレなので、一応ど真ん中の情報も。
現在ユーキャンの通販で発売中の「ザ・ベリー・ベスト・オブ志ん生」30席12巻がまさしく十八番揃いなので、セットリストもご紹介しておきます。

第一巻『火焔太鼓』『猫の皿』
第二巻『稽古屋』『鰻の幇間』『天狗裁き』
第三巻『三枚起請』『たいこ腹』『道灌』
第四巻『唐茄子屋政談』『強情灸』
第五巻『妾馬』『あくび指南』『幾代餅』
第六巻『粗忽長屋』『替り目』『千早振る』『鮑のし』
第七巻『五人廻し』『黄金餅』『二階ぞめき』
第八巻『お直し』『藁人形』
第九巻『文違い』『淀五郎』
第十巻『井戸の茶碗』『抜け雀』
第十一巻『鈴振り』『風呂敷』
第十二巻『らくだ』『品川心中』

1973年9月21日、83歳で没して、今年で丸50年。
落語人気の低迷期も、新世代台頭による人気再浮上以降も、落語ファンの間で常に「まず志ん生を聞け」という一種の指標的立場で居続けたのが古今亭志ん生でした。その存在と足跡には尊敬あるのみです。

あ、そういえば、没後50年というと、今後志ん生音源は版権フリーになるのかしらん。それとも権利継承者がいたらフリーにならないんでしたっけ?
すいません未確認のまま書いちゃった。志ん生音源を使う方は各自事前に確認してね。
(第11回・了)

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