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【落語好きの諸般の事情】#24 「落語マニア」の独断的類型問題

鉄道マニアが「乗り鉄」「撮り鉄」「音鉄」「スジ鉄(時刻表マニア)」等いろいろ分類されることは近年よく知られるようになった。
では、落語マニアはどのように分類されるのか。ここでは寄席演芸マニアも含めて考察してみる。なおここに記した分類はすべて私個人の独断で、落語ファン全体の共通認識ではないことをあらかじめお断りしておく。

(1)収集系
代表的なのが「テープマニア」。ラジオに寄席番組が数多く存在した時代、落語をエアチェックし、その録音テープを溜め込んで何度も聞き返す落語ファンを、かつてはこう呼んだ。テープが録音機材の主流でなくなった現在は何と呼ばれているのか知らない。テープマニア同士がお互いのコレクションを無償交換しあうという交流会が催されたりもした。プロの落語家の中にも、立川談志師を始めテープマニアはいるらしい。
落語レコードの収集では、ミュージックソー演奏家で落語家の都家歌六師が第一人者。SPレコード草創期から落語レコード生産終了期までのすべてのリリース記録を有しておられる。
その他コレクション対象となるのは、落語のCD・テープ・映像ソフト、落語速記本や落語関係書籍全般、古書、寄席のプログラム、チラシ、新聞の切り抜き、手拭い、扇子、御披露目三点セット、千社札、サイン色紙、写真、ノベルティや市販商品、名人由来の品、といったあたりか。珍品系専門というマニアも探せばいそうだ。
そういえば以前、寄席の紙切り芸人さんに毎回注文して作品をコレクションしていたお客さんがいたという。ちょっと収集の成果を見てみたい気もする。

(2)学術系
落語マニアがすごいのは、学者でも評論家でもない一般人なのに知識量がベラボーに多い人がそこら中にゴロゴロしている点だ。
古典落語の出典に詳しかったり、主だった落語家の名跡の系統や落語史の知識がすべて頭に入っていたり、中には過去の名人落語家の墓所に詳しいなんて人までいる。
ピンポイントで詳しい人も多く、特定分野にのめり込む余り、スキルとして身に付けてしまう例も珍しくない。寄席文字や着物、出囃子の三味線などなど。
一方では、落語に登場する地名や名勝、建造物を片っ端から巡る人もいる。都内ならまだおとなしい方で、日本全国の落語の舞台を旅行している人までいる。落語に詳しいだけではなく旅行好きでもあるのだろう。

(3)実地体験系
いわゆる「常連客」。寄席や芸人さんに身銭を落としつつマニア度を深めるので、落語界にとっては上客である。
常連になってマニア度が増すと、すべての落語家の生高座に接したくなる。これは自分の中だけで指標を定めコンプリートを目指す「エアコレクター」の心理に等しい。
常連には、特定の演者さんを追っかける人もいるし、特定の寄席に通い詰める人もいる。これが発展して、終演後の打ち上げが好きになる人が多いのも特徴である。落語ではなく打ち上げの方が優先順位で上になる人も、少なからずいる。
さらに、客席だけで満足できなくなった人が、落語会を主催して自分の好きな芸人さんを呼ぶようになったり、自分でも落語を始めたりする。もっと症状が進行すると、落語のストーリーに登場する小道具・調度品などをコレクションしたり、自分でこさえたりする。あるいは落語に出てくる光景をジオラマで作ったり、マンガで描いたり、好きな登場人物同士でBLストーリーを考えたりする。おしまいの方はかなり常連の道を逸脱してはいるが。

以上は私が思いつくまま書き並べた過去~現在の落語マニアの種類だが、では将来、新たな落語マニア道は開拓されるのであろうか?
例えば寄席のすべての座席に座るとか、古今東西の芸人さんのプロフィールを昭和以降全員暗記しているとか、落語キャラで萌えフィギュアを作る名人とか。我と思わん方はやってみなはれ。
なお蛇足ながら、ご時世的に「ネット動画を多く見た」という人は多いと思う。ただネット動画は落語初期体験としてならばさておき、落語業界や関係者にお金を落とさない人はマニアとは呼びづらいので、ここでは除外した。やっぱし贔屓したけりゃお金落とさなきゃ。


さて、ここから先は今回のオマケです。
過去に拙サイト「落語別館」の日記やブログで書いた、東京時代に足を運んだ寄席と落語会の観覧記。それにちらっと説明を加えてのリサイクル公開(一部本邦初公開もアリ)。24回目は、2004~2006年の記録その14。名物落語会初観覧の記録や、某落語家さんが入門前に色物として高座に上がっていたという記録まで。私が落語脚本を書かせていただいた会もちらっと登場します。

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