指を切ったら

 少し前に「cinema staff」(シネマスタッフ)というバンドについて書きましたが、今回は「österreich」(オストライヒ)というバンドについて書きたいと思います。いつにも増してさらに面白くない文章ですが、お許しください。

 高校1年生の秋ごろ。cinema staffに出会う少し前のこと。当時よく聴いていたバンドのプロフィールを探っているとthe cabs(ザ キャブス)というバンドにたどり着いた。どんなバンドなのかとYouTubeにあるMVを興味本位でみて見ることにしたが、まさかこれが運命の分かれ目になるとは思いもしなかった。
 再生した曲から色や形や情景が溢れ出し、複雑な曲の構成により緻密に作り上げられた世界観と救いのない歌詞を歌い上げる柔らかな歌声により、映し出される情景が私の体に染み出したと思うとあっという間に取り込まれ、現実から乖離された遠くの場所へ意識を持っていかれた。聞いている間は得体の知れない化け物が目の前に立ち塞がり、私の脳を侵し続け、記憶の中にある底知れぬ"恐怖"という感情を掘り起こして新たに植え付けられているかのようだった。あまり良くない言い方をすれば、自傷行為そのもののような音楽だった。私はそんな音楽に一瞬にして虜になり、長い間、壊れた機械のように何度も何度も聞き返していた。
 しかし、私がそのバンドに出会った頃にはとっくに解散してしまっていて、もっと早く出会っていればよかったと何度も悔やみながらなんとも言えない気持ちでしばらく過ごしていた。

 2018年、確かな記憶ではないがTwitterの記事(多分ナタリー)か何か)でex.the cabsという文字と一緒にösterreichという名前を目にした。気になって記事を読んでみると、元the cabsのギタリスト高橋國光さんが行っているソロプロジェクトをösterreichが、「楽園の君」という新曲を数年ぶりに出すということが書いてあった。得体の知れない何かに奮い立てられ、居ても立っても居られなくなった私は、脊髄反射の如くすぐにタワーレコードでCDの取り置きをした。今にも消えてしまいそうな、なんなら消えてしまっていた光をやっと見つけ出し、この手で掴めた気がしたのを今でも鮮明に覚えている。

 2019年、cinema staffとの共作「斜陽」が世に産み落とされ、österreichとしての初ライブやcinema staffのツアー全公演にゲストで出演したりと、cinema staffに引き上げられるかのように高橋國光という人物が音楽という世界に戻ってきた。
 しかし、その頃、私にとって音楽がどうあるべきなのか、何が正しいのかがわからなくなってしまい、路頭に迷い込むようにインディーズ界隈の音楽に浸るようになっていったが、結局答えは何一つ見つからず、挙句の果てには音楽を聴くことができなくなってしまった。
 やっと音楽の世界に戻ってきた高橋國光さんといれ違い、すれ違うかのようにわたしは音楽から離れてしまっていた。

 気がつくと2020年になっていた。3/28のcinema staffの公開レコーディングをきっかけに、少しずつ音楽を聴けるほどに回復していった。それと同時にösterreichの楽曲を改めて聴くようになり、死ぬまでにライブへ行って、高橋國光という人物を、憧れ続けた本物をこの目で見たいという気持ちが湧いてきた。

 6月に「四肢」という4曲入り(フィジカルのみ+1曲)のミニアルバムが発売され、再生した瞬間にこれは音楽界に革命が起きるぞ!と感動し、同時に私が長年欲していたものはこれだ…と涙を流したのを覚えている。

 9月には、3/13に新代田で行ったライブの映画館上映を観に行ったり、年を跨いで2021年4/30には、元々有観客の予定だったライブを完全無観客にした配信ライブを自宅で観たりした。(ライブ自体チケットが当たっていたので無観客になった時は少し気持ちが落ちたけれど)音響の迫力が凄まじく、映像もとても綺麗で大変満足はした。しかし、画面の中で、映像の中でしか憧れの人が生きていないという感覚がどうしても拭いきれず、不完全燃焼な気持ちでいた。

 そして、2021年6/4。cinema staffのツアーにて対バンをすると知った私は必死でチケットを勝ち取り、5年という歳月をかけて、やっと、本物をこの目で見ることができた。

 11/26に行ったTHE NOVEMBERSとのツーマンライブでは人生で初めて整理番号が1番だったり、最前列でかつ國光さんの真正面でライブを見れたり、本編終了時にステージから降りてきた國光さん本人からギターを渡されたりと(これに関しては本当によくわかりません)、人生の中で1番恵まれているなと感じることが多くあった。
私は高橋國光さんの作り出す音楽なしでは生きていけないし、善し悪し含めて、きっと今の人生を歩んでいなかったなと思った。

 感想やあれこれなど事細かに全てここに書き記してしまうと文量がとんでもないことになってしまうのと、私の体力とメンタルが持たないと感じたためざっくりとまとめました。(減らしてもなお文量が多くてすみません)こうしてまた音楽を続けてくださっていることに感謝しつつ、これは当たり前じゃないということを噛み締めながら、これからも応援していきたいと思っております。ご無理なさらない程度にこれからも頑張ってください。