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マッシュポテト・セメタリー

 お墓は大切な誰かが亡くなった時、人によって作られるものですが、言葉というものは使われていくうち意味が転じる場合があるんです。お墓も例外ではなく、本来とは違った意味で使われる時があります。

 例えば、船の墓場です。意味は大きく分けてふたつ存在します。ひとつは海難事故が多い海域であり、もうひとつは大規模な解体場です。どちらも船が失われる場所として使われていますけれども、ニュアンスが異なります。前者は航行中の船が再起不能に陥るかもしれない恐怖と隣り合わせな場所であり、後者は現役を終えた船舶が解体という最期を待つため並んでいる場所です。

 飛行機の墓場は専ら後者の意味で使われることが多いようです。解体を待つ飛行機がズラッと並んでいる様子を上空から撮影した画像は軽く調べれば見つけられまして、なかなかに壮観です。

ウィキペディア「飛行機の墓場」より

 鉄道の墓場もあるようです。電車だって当然、古くなる。古くなればいつかは捨てられる。こちらも、船や飛行機と同様、解体を待つ車体がガツンガツンと積み上げられているようです。

ウィキペディア「墓地」より

 ここまでは大き目の乗り物ばかりでしたが、人工衛星にも墓場があるようです。古くなって役目を終えた人工衛星は、他の人工衛星などとぶつかったりしない軌道、通称「墓場軌道」に移動させたり、地球上で最も陸から遠い地点「ポイント・ネモ」などに落としたりするようで、不要になった人工衛星を落とすのに選ばれがちな場所を「スペースクラフト・セメタリー」と呼ぶそうです。どっちにしろ墓なんですね。

 ただ、何でもかんでも墓場扱いはしないようです。例えば、私はその昔、結構な面積の敷地におびただしい数の三角コーンが放置されているのを見たことがあります。どれも大体古びていましたし、保管しているというにはあまりにも乱雑なんです。散らばってるとかばらまいてるとか、そんな感じでした。気になった私は家に帰ると早速、「三角コーンの墓場」で検索したんですが、全然出てきません。地名とセットで検索しても同様です。

 なぜかミカン畑の中にマッシュポテトが山のように捨てられていて、ものすごいにおいを放っているにもかかわらずカラスが平気な顔をしてついばんでいるのも見たことがあります。でも、「マッシュポテト・セメタリー」で検索しても、腐ってないマッシュポテトばかり出てきます。

 ということは、みんな何となく「墓場」と呼ぶかどうかのラインを持っているはずなんです。そのラインとはどこなのか。まず、推測できるのは大きさです。今まで出てきた墓場は、船・飛行機・鉄道・人工衛星とみんな大きめなものばかりです。もう少し検索してみると、上記のものより小規模ではありますが、自動車の墓場と呼ばれる場所はあるようですし、変わり種ですとバス停の墓場と呼ばれるところもございます。

 まあ、バス停くらいなら大きいほうかなと思っていたら、「ビデオゲームの墓場」というものが出てきました。

 その昔、アメリカのアタリという会社がビデオゲームをヒットさせたんですが、やがて質の悪いソフトが市場に出回り、大量の在庫を抱える羽目になります。その在庫をニューメキシコ州のアラモゴードと呼ばれる街に埋め立てられたというのです。

 ビデオゲームが墓場と呼ばれるんだったら、私が見かけた三角コーンの墓場やマッシュポテト・セメタリーだって市民権を得ていいはずです。そう憤ってみたのですが、上記のウィキペディア記事によりますと、埋め立てられたソフトは70万本を上回ると言われており、また長きにわたって都市伝説化するなど、とにかく規模がでかいんです。

 うちの三角コーンやマッシュポテトも量が増えれば市民権を得られる可能性があるわけです。三角コーンやマッシュポテトには是非とも頑張っていただきたいところです、と書きそうになりました。危ない危ない。そういう墓場はないに越したことはないという前提を無視してはいけませんね。

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