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斧を投げる才能

 人には誰でも様々な才能が備わっているのはいいんですけれども、問題はどの才能が備わっているのかがなかなか分からない点であり、更に備わっている才能が分かったとしてもそれが使える環境にあるとは限らない点なんです。つまり、私も皆さんも間違いなく才能の塊ではあるんですけれども、どんな才能があるかは各々が自分で確認するなり誰かに見つけてもらうなりしなければならない。そうやって苦労して見つけた才能も時代に合っていなければ宝の持ち腐れになってしまう。難しいのは才能を持つことではなく、才能を見つけて発揮できるところまで持っていくことなんだと思います。

 例えば、私が小学生だった頃、とある森林公園のとある野外イベントに行きました。そこではなぜか、手斧を的に当てるゲームが開催されていました。手斧とは片手で持てる程度の小さな斧です。それを、太い木の断面を利用した円形の的に投げて当てるわけです。

 ご存じの通り、斧は木を切る部分が金属でできていて、柄に比べて圧倒的に重い。ボールとかブーメランとか、そういう投げられるためだけに作られた物体に比べて手斧はバランスの悪い形をしてるんです。当然投げづらい。事実、手斧ゲームには子供から大人まで様々な人間が参加していましたが、的に当てる人はいませんでした。

 いよいよ私が斧を投げる番になりました。もちろん私も斧を投げるのは初めてです。触るのも初めてだったかもしれない。しかし、手斧を持った瞬間、急に投げ方を理解したんです。こうすれば当たると分かった。

 私は早速、理解した通りに投げました。手斧は空中でくるくると回りながら、カツッと的に当たりました。みんな驚いていました。結局、3本中1本だけしか当たりませんでしたが、的に刺さるように投げられる人がそもそもあまりいないようで、イベントのスタッフは感心していました。

 私は生まれながらにして手斧を投げる才能があったようです。しかし、当時の日本でもそんな才能を活かす場面などありませんでした。強いて言えば、ファイアーエムブレムというゲームで手斧を投げるキャラクターがそこそこいましたけれども、ゲーム内に手斧の友がいたからって何だと言うのでしょう。ゲームの世界に潜り込むくらいならば、まだ世界中をさまよい歩いて手斧の才能を活かせる仕事を探し求めた方が現実味があるってもんです。

 当時の私も子供ながらに「この能力を活かせる場所はないだろう」と思っていましたし、実際にあれから1本の斧も投げることなく現在に至っています。多分、私は自らの身体に備わっているであろう斧を投げる才能を活かすことなく一生を終えるでしょう。そして、私を含めてそれを残念に思う人はいない。

 でも、ちょっとだけ気になって検索してみました。すると、2021年に斧投げバーなる店が日本に出来たという情報を見つけました。お酒を提供するお店が大変な時期に、随分ととがったお店ができたものです。

 上記リンク先の記事によりますと、アメリカでは斧を投げるスポーツが流行ってきているようで、それに関連して斧投げバーも店舗数を増やしているとのこと。それがいよいよ日本に上陸したようです。今のところ都内では浅草と神田にあるようです。

https://theaxethrowingbar.com/

 つまり、私の才能は今のところ、浅草と神田でちょっといい気分を味わえるだけの環境が整ったと言えます。斧を投げるスポーツが日本でも本格的に広がり始め、大会でも開催されるようになったら、いよいよ私の才能が長い眠りから目覚めるのかもしれません。

 不思議と才能を目覚めさせる気が起きませんけれども、斧投げ業界が盛り上がってきたらまた変わってくるのかもしれません。それまでは私の才能をもう少し爆睡させておくことにします。

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