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笑いに関する名言集――夏のビアス祭り おまけ

 世に名言集は数あれど、笑いに関する名言を集めたものはなく、あっても名言集の隅にちょろっと固まってる程度です。だったら自分で作ろうと思いまして、noteで少しずつ公開しています。

 笑いに関する名言は以下のみっつのどれかに当てはまっているものとしました。

・笑いに関係する言葉が入っている名言
・笑いに関係する仕事をした人の名言
・笑う余地がある名言

 先日、ビアスの「悪魔の辞典」から「笑いに関係する言葉が入っている名言」を集中的に抜粋してみました。

 「悪魔の辞典」は諷刺やブラックジョークを辞典っぽく書いているものでございまして、つまり一応はどれも笑う余地がある言葉だとは思うんです。しかし、ビアスは19世紀から20世紀にかけて活躍した作家であり、しかもコテコテのアメリカ人。生きた時代も国も違うため、いくらビアスが「どう、これ。いいでしょいいでしょ」と目をキラキラさせて書いた渾身のネタだったとしても、我々現代人にはなかなか面白さが理解できなかったりします。何なら意味が分からなかったりもします。その上、諷刺という性質上、誰かを笑わせるよりも誰かを批判することを優先されている節もあり、なかなか毎度毎度笑えるわけではありません。

 それでも、何となく今の私たちでも理解でき、何ならうまくいけばクスッと笑えそうなブラックジョークがチラホラ見受けられましたので、いくつか選んでみました。では、早速参ります。

ダイヤモンド(diamond n.) パンの代わりに乞食に与えるには軟らかすぎ、それでもって乞食を殴り倒すには小さすぎる、無価値な石ころ。

 いきなり結構な単語が入った説明でございます。「パンの代わりに乞食に与えるには軟らかすぎ」は「マタイ伝」第七章第九節「なんぢらのうち、誰かその子パンを求めんに石を与へんや」、すなわち「誰がパンを欲しがる子供に石を与えるだろうか」の一文を参照すると意味が分かるようになっています。「じゃあ、ダイヤならどうだい」と一発かましている風にも読めます。

 欧米では聖書のあれこれを出典とする「聖書ネタ」が頻繁に創作物などに出てきます。当然ながら、それに関連するものもいじっています。

聖職者(priest n.) 自分は天国に至る道のインコースを走っている者であると主張し、かつその道を通る者に通行料を課したいと思っている紳士。

 辛辣なまでのいじりっぷりですが、聖職者への諷刺は伝統芸能と言っていいほど古来よりおこなわれてきた行為のようです。よくよく考えれば日本でもお坊さんが似たようないじられかたをしてきたように思います。きちんとした人格が求められる職業でありながら実際はそうでもない人が多いという落差がいじられる原因なのかもしれません。

聖人(saint n.) すでに死んでいる罪人の改訂版。

 こちらもキリスト教関係のいじりですね。確かに言われてみれば、聖人って生前は何らかの罪をかぶせられて、亡くなってからしばらくして後世の人から認定される印象があるかもしれません。この「言われてみれば」は、うまい毒舌の条件でもございますので、今回、選んでみました。

 「悪魔の辞典」は辞典という形をとっていますが、いわゆる名言とか警句とかを集めたものとも言えます。ビアス自身もその自覚があったのか、その手の単語も収録し、いじっています。

金言(adage n.) 歯の弱い者でも噛めるようにと、骨が抜き取ってある人生の知恵。⇒格言

 名言集が好きな人は当時から存在していたとしか思えないような一文です。ちなみに、格言の項目もあります。

格言(鋸)(saw n.) 民間で行われている陳腐な言い慣わし、ないし諺。(比喩的に、また口語体に用いられる。)木製の頭、つまり、鈍い頭の中へでも入り込んで行くがゆえに、このように呼ばれる。⇒金言

 英語の「saw」が「格言」と「鋸」の意味を持っているため、その両方を混ぜ込んだような説明になっています。ただ、基本的な内容は「金言」とあまり変わっていませんね。

 著者もそれを自覚していたのか、説明の後に「以下、古い格言を鋸とみなし、これに新しく目立てをした例をいくつか掲げてみる。」と述べて、もともとあった格言を、諷刺っぽく変えたものをいくつか挙げるという、今でいう大喜利みたいなことをしています。

 ちなみに、警句もあります。

警句(witticism n.) 辛辣で気のきいた寸言であるが、通常、引用されはするものの、印象に残ることがめったにない。教養のない俗物連が好んで「ジョーク」と呼ぶもの。

 似たような単語を選んでいるためか、いじる方向がどうしても似通ってしまうようです。いずれも「そんな短い言葉で分かることなんて知れてるよ」って感じだと思われます。

 続いてこちら。

棍棒(cudgel n.) 愚か者の頭や肩につける外用薬。

 当時のアメリカはそんなに棍棒でボコボコやってたんでしょうか。他の単語の説明でも稀に出てくるんですが。だとしたら、なかなかに物騒です。

 物騒ついでにこちら。

逮捕された(arrested p.p.) 現行犯でつかまり、お巡りを納得させるだけの金を持ち合わせていない。

 割と警官に賄賂が通じる世の中だったのか。それとも、実際はそうでもなかったけど、ゴリゴリいじりたくてつい書いてしまったのか。いずれにしろ、権力者と賄賂も諷刺ではいじられがちな印象です。

 ふたつの単語を続けて読むことで味わい深くなるものもございます。

アカデメイア(Academe n.) 古代の学校で、倫理学と哲学を教えた。⇒高等専門学校

 「アカデメイア」はプラトンがアテナイ郊外に設置した学校です。英語版ではこの次に来る単語が「高等専門学校(academy)」なんです。

高等専門学校(academy n.) (アカデメイア Academe に由来する)現代の学校で、フットボールを教える。⇒アカデメイア

 つまり、「アカデメイア」がフリで、「高等専門学校」がオチというわけですね。辞典ならではのウケの取り方と言えます。

禿げ頭の(bald adj.) 髪の毛がない。ただし、遺伝か偶発的な原因によるものであって――年齢のせいではけっしてない。

 薄毛いじりは100年前のアメリカでもおこなわれていたようです。年齢が原因ではないとやけに強調している理由はよく分かりません。ちなみに、ネット調べた限りビアスはフサフサでした。

 ラストは端的に参ります。

返礼(recompense n.) 忘恩。

 全てがシンプルイズベストとは思いませんが、手短な説明はあれこれ想像させ、味わい深さが増す気がします。それでは今回はこの辺で。ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

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