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粉ものの定義が違う

 辞書を引けばお分かりの通り、ひとつの言葉にはいくつもの意味が備わっているものです。他にもニュアンスの違いというものがございまして、例えばコンビニと聞いてどの店を思い浮かべるかは人によってそれぞれ異なる。中には、言葉そのものは世の中に存在しているけれども、自分独自の意味で使っている人もいます。

 私の友人にもそんな独自表現を使う人でございます。彼は食べ物に割とうるさい人間で、特に「粉もの」が嫌いだと主張します。世間一般で言う「粉もの」は、小麦粉を始めとする、穀物由来の粉を使った食べ物を指します。「粉もん」とか「粉食」と言ったりもするようです。

 敢えて言葉として説明すると何かややこしい食べ物に思えますけれども、粉ものは日常に溢れています。タコ焼きやお好み焼きはもちろん、パンやクレープもそうですし、麺類も入ってきます。世の炭水化物の多くを占めていると言っていい。

 それらが食べられないなんて大変だなあと思ったんですが、友人は「そんなことない」と否定します。ただ、否定の方角がおかしいんです。

「俺の粉ものは世間の粉ものと違うから」

 ちょっと意味が分かりません。もちろん、詳しく意味を尋ねました。

 友人の言う粉ものは、確かに世間一般のそれと意味が違いました。彼の言う粉ものの定義は以下の通りです。

1.てのひらに乗せる
2.グッと握る
3.手を開いて粉だったら「粉もの」

 まだいろいろと疑問がありますけれども、友人はどうも一部のスナック菓子を指しているようです。確かに一部スナック菓子は握り潰せばあっという間に粉となります。そういう食べ物が友人の中での「粉もの」でございまして、それが嫌いだとのことです。

 個人の好みなので別にいいと言えばいいんですけれども、随分と曖昧な定義だと思いました。そもそも握って粉になるかどうかの判別方法では、握る人によって粉ものの定義が異なってしまう。

 例えば、超人が暴れ回るような格闘アニメでは、己の力を見せつけるために地面に落ちている石ころを掴んで握り潰す描写がたまに見られます。友人の握力がそんな超人レベルだった場合、粉もの定義はかなり広がってしまう。石だけでなく、レンガとかコンクリートとか、そういうものも粉ものになってしまう。

 と思ったんですが、どの道、友人は粉ものを食べないんですから、石やレンガやコンクリートが粉ものに入ろうが入るまいが全然困らないわけです。そして、友人以外の人類には適用されない定義ですから、そもそも関係ない。

 というわけで、今日も世界のどこかで世間と違う意味の「粉もの」を嫌う人類が元気に活動しているはずです。

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