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のんきな血族

 もう15年以上前の話ですが、母方の祖父が亡くなったんです。前々から病気だったので覚悟はしていました。急いで地元に戻りまして、お通夜からお葬式まで手伝い、慌ただしい中、どうにか式を終えることができました。

 骨壺は四十九日まで祖父の自宅へ置いておくとして、とりあえず骨壺を収める予定のお墓を確認することとなりました。重々しい石の蓋を開けると一同が「あっ」と声をあげました。骨壺を収める空間に水がなみなみと溜まってたんです。

 本来は雨水が入らないようになっているか、もしくは入っても排水できるようになっているようなのですが、何かの手違いで我が一族のお墓はそのどちらもできておらず、結果として中に人工池が出来上がってしまったようです。しかも、水でタプタプになっていたせいか、中の骨壺が明らかに倒れていまして、何だったら白いものがその辺に転がっている。

 そこで思い出したのが、「あなたの知らない世界」です。その昔、夏休みのお昼ごろに放送された怪談番組です。怖い話がドラマ仕立てで紹介され、子供の頃の私はしっかり恐怖しておりました。その中に、確か卒塔婆をちゃんと飾らず、仏壇の奥にしまっていたせいでご先祖様が幽霊になって家族を怖がらせたという話がありました。それがまた子供には結構な怖さで、飾るべき卒塔婆はちゃんと飾ろうと心に誓ったもんです。

 卒塔婆を飾らないだけで恐怖に陥れるのがご先祖様です。骨壺が水の中で転倒し、中身をばらまいていてはご先祖様の大激怒は必至でしょう。そう思った私は、隣にいた母に尋ねました。

「ご先祖様が夢枕に立って『苦しい、溺れる』とか言ってなかった?」
「いや、全然」

 どうもうちのご先祖様は「あなたの知らない世界」に出てきたご先祖様とは様子が違うみたいです。

 父方のお墓でもちょっとした出来事がありました。父方のお墓は母方のほうよりも歴史があり、一族の墓石がいくつかまとまっています。石も歴史を感じさせるものが多い。風化が進んでいるとも言えます。

 中には大きな亀裂が入っているものもあるんです。もうかなり前から入っていた亀裂らしく、その墓石は太い針金で巻くという小学生の思い付きみたいな補強をしてあったんですが、その針金も長年にわたって風雨にさらされてきたためか完全にさびていて、補強の役割を果たせなくなっていました。「大丈夫かこれ」と言って私が触ると、墓石は石川五ェ門の斬鉄剣を食らったかのように、墓石は亀裂に沿って斜めにずれていきました。

「こりゃ直さないといかんな」

 そう言って頭をかく父親に私は尋ねました。

「ご先祖様が夢枕に立って『墓石をどうにかしてくれ、腰が痛くて仕方ない』とか言ってなかった?」
「いや、全然」

 どうやらうちのご先祖様は骨壺がひっくり返ろうが墓石が真っ二つになろうが全然気にしないようです。「夢枕に立つのもめんどいし、どうせそのうち気づくだろ」とか思ってたんでしょうか。いずれにしろ、おおらかというかのんきというか、そういう性格の一族の血を引き継いだのが私ということなんだと思います。

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