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余命14日間の彼女と、青信号を渡れないボク *12話*(最終話)
#創作大賞2023
それから数日後、病院を抜け出した。いつも通りに検査を受け、いつも通りの日常を送った。”火曜日の15時” 病棟に到着する郵便配達の時刻に合わせて、私は病室を出た。
手紙を受け取った母は、それが私の置き手紙だと気づいて、追いかけてくるだろう。けれども、もう病院の電子音を聴きながら眠る日々は、耐えられなかった。残りの命を空気の澱んだ病室で送るなんて、まっぴらごめんだ。
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余命14日間の彼女と、青信号を渡れないボク *10話*
#創作大賞2023
魚の群れの間を通り抜け、海の底へと進む彼女の姿を覗く。岩肌に手をつき、流れるような動作で黒い姿を掴むと、地面を蹴り、浮上してくる。
「ぶは!!!」
大きく息を吐きだして、水面から現れた。
「採った?」
「はい!」
ラバーの手袋に突き刺さったまま、棘だらけの姿を僕に誇らしげに見せた。それを受け取り、裏返し、固い殻の隙間にナイフを突き刺して半回転させる。痛みを感じた
余命14日間の彼女と、青信号を渡れないボク *9話*
#創作大賞2023
瞼を持ち上げると、無音の世界が広がっていた。透き通るか体から両手を伸ばした。長い触手が伸び、長い脚が自分の腕に絡みついてる。こすりつけた足から沢山の泡が生まれ空へと浮かんで僕の視界を消し去った。
月は、僕の真上にあった。ここは、海の底だ。
自分ががいる場所がわかると、滑ったゼリー状の幕に覆われた僕が何者なのかもわかった。海蛍だ。僕が掻いた水面には青白い光の筋が残って
余命14日間の彼女と、青信号を渡れないボク *8話*
#創作大賞2023
8話
それに彼女は戸惑ったように瞳を揺らした。揺れる彼女の瞳を見つめる。その奥に隠した想いを暴きたくて、一歩彼女へと近づいた。
「あ、蒼央さん?」
「志歩ちゃん。僕さ」
突然、頭上のスピーカーから、5時30分を告げる音楽が流れ出した。デジタルな歌に彼女がクスッと笑う。
「良い子は帰る時間。らしいです」
彼女の笑顔に釣られて、笑ってしまった。
「そうだね、帰
余命14日間の彼女と、青信号を渡れないボク *7話*
#創作大賞2023
「ちょ、大丈夫? 救急車」
「……だ、……め!」
と苦しげに息を吐く彼女が、僕の腕を強く掴む。
「へ、平気だから……、なんでも無いから!」
何もできないまま、全力疾走をした後のように荒い息を吐く彼女の隣へとしゃがみこんだ。少しずつ呼吸が戻っていき、またゆっくりとした呼吸へとなった。僕の言葉で、彼女を苦しめたんだろうか? 傷つけたんだろうか?
彼女の隣にしゃが
余命14日間の彼女と、青信号を渡れないボク *6話*
#創作大賞2023
仕事を終えて、ようやく布団へと潜り込めるようになった時はもう23時を回っていた。疲労感が身体の中心にどしりと腰を下ろしている。さっさと寝てしまおうと、布団を畳の上に敷いていると、扉をノックする音がした。扉を開けるとそこに立っているのは志歩ちゃんだった。
「……眠れなくて、一緒に寝てもいいですか?」
彼女を部屋へと招き入れると、彼女は布団の敷かれた6畳間へとズンズン進ん
余命14日間の彼女と、青信号を渡れないボク *5話*
#創作大賞2023
海へと顔を向ける。
「ああ、たぶん、海ほたる」
「海ほたる?」
「そう。海の中に住む甲殻類。夜になると砂浜から出てきてさ、海に入るの。
波に反応して光ってるんだと思う。見たこと無い?」
この町の常識を、観光に来た彼女が知らないのも無理は無い。
「ありません。全く」
背後に居る彼女に声を掛けた。
「見たい?」
「はい!!」
元気のいい返事が戻ってくる。バイ
余命14日間の彼女と青信号を渡れないボク *4話*
#創作大賞2023
立ち上がろうとした僕の腕を彼女は掴んだ。
「そばに……、居てもらえませんか?」
彼女の赤い唇から溢れる呼気が熱い。太陽の熱に毒されているその表情。この熱は、日傘なんかじゃこの暑さを遮れない。少女の細い二の腕を掴むと、ぬるっと指先が滑った。
「この状態じゃ危険だから、どっか涼めるところにでも入らないとさ」
「涼めるところ」
ぼうっとした表情を向ける少女が、僕の言葉
余命14日間の彼女と青信号を渡れないボク *2話*
#創作大賞2023
息を吸い込むたびに体の温度があがっていく。湿気の高い熱気が肌にまとわりついてきて、首に巻いたタオルで顔の汗を拭っても拭っても汗が噴き出してくる。この土地にあるのは、海、太陽、そして日本家屋が立ち並ぶ古い街並みだ。
ここは結城郡、安寿海町。地元の人間はこの土地を、”あずみ”と呼ぶ。
昔の海はよく荒れ狂う海で、嵐になると、海近くの土地を家ごと攫っては、海の底へと変えてい