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言語教師・持田の問題圏(続き)

はじめに

繰り返しになりますが、私の考えている言語教育は学習者の次の4つの学びを支援するものです。

  1. 日常で使っている母語を見つめ直す

  2. 客観的に見つめ直した母語を鍛えて言語技術を身につける

  3. 母語との比較対照から外国語を学ぶ

  4. 母語による言語技術を学習した外国語に転移させる

今回は、このうちの1と3について少し詳しく述べていきます。

1について

私やこのページをお読みの方の多くの母語は日本語です。私たちは生まれてから日常生活の中で自然に日本語を身につけていきます。そして小学校に入学するころまでには、日常会話に不自由しない程度の文法を身につけ、無意識に使うようになっています。いわゆる日常会話がこの時点でできるようになっているわけですが、この日常会話の相手は初めは家族であり、やがて近所のコミュニティの人たちや友人たちとの会話も可能になっていきます。

しかし、これには個人差があります。個人差があってもよいのではないかという見方もありますが、生活をしていくうえではトラブルの原因になることもあります。たとえば、自分の感情を表現することがうまくできる子どもと、うまくできない子どもが出てきます。自分の感情がうまく表現できない子どもは、ことばで表現できないことを行動で表現するようになります。暴力に訴えることも出てきます。

こうした状況を乗り越えるためには、ことばを知り、ことばを使う学びが必要になります。「言いたいこと」と「言えること」のギャップを少しずつ埋めていくためにことばを見つめ直す必要があるのです。日本語の文の仕組みに習熟したり、語彙を増やしていったりということがこの段階で必要になります。実際の授業としては、物語を読む中や、あるいは会話の場面を設定して、ことばのしくみや働きに意識を向けていくような単元を作っていくことになります。もちろん、小学校高学年以降になれば、もっとストレートにことばそのものに焦点を当てて授業をすることも可能です。「そんな授業では子どもが興味を持たない」という意見もありますが、ことばそのものに興味を持たせるのも私たちの仕事です。

3について

母語以外の言語を学ぶ場合には、日常生活の中で使う言語を学ぶ場合(第二言語)、日常生活では使わないが自分の先祖が使っていた言語を学ぶ場合(継承語)、日常生活では使わず自分にとってゆかりもない言語を学ぶ場合(外国語)の3通りが考えられます。継承語というのは馴染みがないかもしれませんが、日系人が日本語を学んだり、在日コリアンが朝鮮韓国語を学ぶ場合がこれに該当します。日本に暮らし日本語を母語とする人が英語を学ぶ場合は、多くの場合、このなかの外国語として学ぶことになります。

日本語母語話者が日本で英語を学ぶ場合、ただ日常生活で使わないことだけでなく、母語である日本語と目標言語である英語とではその仕組みに大きな違いがあることも考慮しなければなりません。よく「最新の第二言語習得理論に基づく~」ということを謳っている教材や講座がありますが、そうした研究の中には英語母語話者がスペイン語を学ぶ場合などを扱っているものなどがあります。英語とスペイン語は比較的近い関係にある言語同士ですし、アメリカにはメキシコ系アメリカ人がスペイン語で暮らしている地域があります。日本語母語話者が英語を学ぶ場合とは条件がまったく違うのです。

こうした状況を踏まえると、私たちは日本語を踏まえつつ日本語を乗り越えることでしか、英語を身につけることができないことが見えてきます。日本語で生活している私たちは、頭の中でも日本語で思考しています。このため何の準備もなく英語漬けにしてしまうと、頭の中で英語と日本語を機械的に対応づけようとしてしまいます。このことが「日本語の発想で英語を使う誤り」を生み出してしまうのです。この自体を避ける、あるいは乗り越えていくには、日本語と英語を比較対照し、日本語と英語がどこが同じでどこが違うのかに気づくことが大切なのです。私がふだんからnoteでも英文和訳や和文英訳を重視しているのは、このためなのです。

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