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あたらしい公共をつくる、あたらしいつながりをつくる

2014年のある日、少し気分を変えたくなり、当時住んでいた高田馬場のマンション近くの公園へ行った。小さな滑り台やブランコ、公衆トイレ、ちょっとした広場、コンクリート製の一人がけのスツールがいくつか、あと桜の樹が一本あるだけで、ボール遊びや花火を禁止する立て看板が立っている。ふと「ここでぼくはどう過ごせばよいのだろう」と感じた。子どものためのもの? でもぼくも一人の納税者だ。ぼくのための居場所はどこにある? 見回すと何人かの男がコンクリート製の一人がけのスツールに座り静かに前を見ている。みな、周囲の時間を止めるために自分自身の動きを封じ込めているみたいだ。この公共空間のデザイナーは何を意図していたのだろうか? それを知るためにリサーチを始めた。市民共創で、ある公園をつくった行政職員に話を聞いた。そこで、行政として市民の声を聞くべきだと考えてはいるが、いざ地域住民の声を聞くと、NIMBY症候群(私の裏庭ではやらないで「Not In My Back-Yard」)の声ばかり集まってしまうため、公園に集まる人々、とくに若者や子どもを「公害」として扱わなければならなくなる、という苦悩を打ち明けられた。またぼくの疑問の背後にあったこれまで知らなかったたくさんの経緯や状況も教えてくれた。

もともと公園は60年代の交通戦争による交通事故から子どもを守り、安全な遊び場を確保するために生まれてきたこと。かつては土地ごとに個性あふれる公園をつくろうとコンクリート製の遊び心に溢れた遊具が作られていたが、コストの問題などでもはや新しくつくることができないこと。好況時に輸入品の木製遊具が増えたが、耐久性の問題で次第に量産可能なモジュール型遊具に代わり始めていること。ぼくたちの周囲にあたりまえに存在する公園はこのような状況を受けて、メンテナンスの機会ごとに誰も文句を言わない防災型公園へと変化していっていること。コミュニケーションが全く機能していない、と感じた。さまざまな人々の利害関係が絡まりあうなか、公共空間をどう維持管理していくべきか、いかに豊かな暮らしを定義し実現するか。このような答えのない問いをどう考えるべきなんだろう、と考え始めると、ぼくの頭のなかでは、ゆっくりと音を立てずに倒れていくドミノのイメージが浮かんでいた。いつか日本中の公園が誰も苦情を言うことのできない防災公園に変わっていくのかもしれない。それは安全で安心だ。でも何かが違う。

元々、ぼくはエディトリアルデザイナーとしてコミュニケーションの課題を解決することを仕事にしてきた。自分自身も本を通じて世界とつながりを保っていたから、言葉とビジュアルを通して情報媒体というプロダクトをつくり直接人々のコミュニケーションを円滑にすることができるのが嬉しかった。ただ、自分がデザインしたものが世の中に出ても特段嬉しさを感じることはなかった。ぼくにとっては、困っている誰かに対して何かをつくり出す日々のデザイン活動が喜びなんだと気がついた。「そもそもの課題を見つけ創造的に解決をする」というデザインアプローチの需要の高まりに応えるように、勤めていた会社にサービスデザイン部門が新設され、ぼくはそこでサービスデザイナーとなった。企業活動と顧客をつないでいくために新規事業開発やサービスの改善というフィールドでコミュニケーションのデザインをすることが日々の仕事となった。

サービスデザインのアプローチのベースにはデザイン思考がある。提供しようとするサービスに関わるさまざまな人々を理解して、繰り返し試作を繰り返しながら解決を図る考え方だ。サービスデザイン独自の思考としては、このような考え方を包括的な視点で実施することにある。サービスデザイナーとして企業活動の支援をしていくうちに、その領域の外側にある公共、行政領域も含めて全体的な視点でコミュニケーション課題の解決をしていきたいと考えるようになった。「何かが違う」と思ったままではなく、「誰かの公園」を「みんなの公園」に変えるようなデザインができるかもしれない──。

同僚の小橋と共に2014年に【PUBLIC DESIGN LAB.】を立ち上げた。さまざまな方々と対話し、チャレンジの機会をいただき調査研究やプロジェクトを実践してきた。約6年間の活動を通して、ぼくたちの目標は価値観の多様化やテクノロジーの発展、グローバル化……挙げたらきりがない、答えのない「厄介な問題」に対して、多様なステークホルダーをつなぎあわせて抵抗していくための仕組み、「あたらしい公共」をつくっていくことだと思うようになった。サービスデザインはユーザーリサーチを通して多様なアクターを理解し、視覚化や分析手法によって、多面的な視点からぼくたちを含むそれぞれのアクターが新しい視点に立つことを助ける。もっとしっかり活用していくことで、さまざまな能力を持つ人々がけっして孤立しない共創の場、もっとクリエイティブな「あたらしい公共」を生み出していけるはずだ。【PUBLIC DESIGN LAB.】では、その日々をお伝えしたいと思う。

PUBLIC DESIGN LAB. :https://pub-lab.jp/

Photo by Clem Onojeghuo on Unsplash

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