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私はカラス界の指名手配犯

私はカラス界で、指名手配されている。

だいたいどこへ行っても、
カラスは私を見つけると仲間を呼び合って攻撃しようとしてくる。

小さい時、カラスをいじめた記憶はない。

むしろ、かこさとしさんの『からすのパンやさん』は
私の大好きな絵本の頂点だった。

『いずみがもり』にいつか私なら辿り着けると思っていた。



そのカラスへの愛が断ち切られたのは、28の時だった。

仕事帰りに駅まで歩いていた時のこと。

彼氏にメールを打とうとポッケから携帯を取り出した。

その時だ。

後ろの方から、バサッ、バサッという大きな音が近づいてきた。

振り返ろうとしたその瞬間に、

とてつもない重さが私の頭にのしかかり、

私はその重さに耐えきれず、膝がガクンとかがんだのを覚えている。

私は何が起きたのか分からず、声を失って完全停止。

次の瞬間、私の携帯に大きな黒い物体が写り

頭上に大きな脚が羽ばたいていったのだ。



「カラスが私の頭に着地した」

状況を理解するのに何分かかったのだろう。

状況を理解した途端に、恐怖が襲ってきた。

一瞬、110番しようかと思ったのだけど

とりあえず、逃げよう、と思った。

自宅に着くと、命からがら母にキレた。

「私の頭の上に何か乗っていないか!!」と。

すると母が、何も乗ってはいないけど血がでていると。

そこで私は初めて鏡を見て、

頭皮が血まみれになっていることに気がついた。

彼は飛び立つ際にあの強靭な爪で私の頭をわし掴みにしたのだ。

頭をかすめて行った、のではなく、本当に数秒の間、
頭の上に着地していたことが、この傷跡から証明された。

あの晩、病院のカルテには、
〈28歳女性、頭部血まみれ。情緒不安定。カラスにやられたと証言〉
と書かれたことだろう。


カラスを嫌いになるには、十分な出来事だったが

その後結婚し、子どもが生まれ、

再び『からすのパンやさん』を読むうちに

子どもに「カラスも全員悪いやつじゃないよ」と諭されて

そろそろ許してやってもいいかもしれないと思う時があった。


しかしその後も私は、彼らの洗礼を受け続けた。

子どもとピクニックをしているときに、

突然木から降り立ったカラスが息子の塩パンをさらっていった。

公園で私のママチャリにだけ彼らがなぜか停まっていて

私に気づいて、飛び立ち際に大きなフンをしていった。

毎朝、子どもを幼稚園へ送る道の上から

私を目掛けてフンを落としてくる。

それは非常に高い確率で命中する。

最近は、ママ友からカラス情報が送られてくる。

「今、カラスここにいますので気をつけてください」


もうどんなにカラスを擁護する人がいても、私の心はブレなそう。

どんな街のカラスも、私を見ると、雄叫びをあげて喜んでやってくる。

私は、カラス界では有名な指名手配犯。

私は冤罪だけど、戦う気持ちも正直ない。

だって、もしも万が一
いつか『いずみがもり』が目の前に現れたとき
入れてもらえないと・・・いやだから。



「実は自分もカラス界で指名手配を受けてるよ」
という人がいたら、ぜひ私と友達になってください。


あなたがしらないもりのなかで どこからか こうばしい おいしいにおいがしたら もりのうえのほうをみてごらんなさい。 もし、かざぐるまが、ちらちらまわっているのがみえたら、そこが からすのパンやさんがいる いずみがもりなのです。『からすのパンやさん』より


おわり

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