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脚本家志望者のための映画・テレビドラマ制作の知識 その2<キャスティングと衣装合わせ>

「作品の顔」を決めるキャスティング

 キャスティングとは、脚本に登場するそれぞれの役に俳優をあてはめて行く作業です。当然、作品作りの中で非常に重要な過程です。俳優はそれぞれ事務所に所属していますので、事務所と交渉して出演OKとなったらその役のキャストが決定ということになります。(一部にフリーの俳優がいます。その場合は本人と交渉します)
 キャスティングをするのはプロデューサーの仕事です。キャスティング・ディレクターというキャスティング専門の人に依頼する場合もあります。
 俳優サイドが出演するか検討する上で考慮される主な項目は、①役柄、②スケジュール、③出演料などです。
 演じたい役であってもすでに他の仕事でスケジュールが埋まっていれば出演することはできませんし、出演料が折り合わない場合も同様です。
 それ以外には④番手、⑤共演NG などがあります。

「番手」とは

 「番手」というのは、その作品の中でその役の重要度の順番です。番手は脚本の配役表や作品のクレジットタイトルに名前が出る順番を見ればわかります。主役(=一番手)、二番手、三番手と続きます。
 配役表やクレジットタイトルの最後に名前が出ることを「トメ」と言います。主役ではない重要な役で出ているベテラン俳優などがトメになることが多いです。そしてそういうポジションの人が複数いる場合は、トメのひとつ前に「トメ前」というポジションを設けたりします。さらにたくさんいる場合は、俳優の名前が並ぶ途中に少しスペースを空けて、そこに「中トメ」として入れたりします。
 俳優やその事務所は番手をとても気にします。共演者との番手の上下関係や、前の出演作の番手がどうだったかなどとの兼ね合いが検討事項になるようです。大河ドラマのように有名俳優が多数出ているような作品は番手の並びを考えるのも大変な作業でしょう。

 脚本家は、決まった番手に合わせて脚本を書く必要があります。どういうことかというと、二番手の俳優が脚本を読んで「自分の役は二番手のはずなのに、これでは三番手みたいではないか」と疑問を持つようではまずいということです。連ドラの場合はストーリー展開の中で人物の重要度が変化してしまうことが起こりがちなので注意が必要です。

 共演NGというのはそう頻繁に起こることではありませんが、「この人とこの人は仲が悪いから共演できない」というようなことです。最近離婚した男女など明らかに共演を避けた方がいいようなケースは、最初からプロデューサーが共演しないように配慮するでしょう。

脚本家とキャスティングの関わり

脚本家とキャスティングの関わりは、
①執筆が終わってからキャスティングが始まる場合
②執筆途中でキャスティングが進む場合
で大きく違います。

①の場合は脚本家はキャスティングを気にする必要はありません。これは映画などで、脚本が出来てから制作にゴーサインが出て、その後キャスティングをするようなケースです。脚本家は自分の仕事は終わった後で誰がどの役にきまったか聞くだけです。

②は、メインキャストだけが決まっているところからスタートして、執筆中にその他のキャストが決まって行くパターンが多いです。昨年放送した『大川と小川の時短捜査』は松重豊さんと濱田岳さんの出演が企画段階で決まり、それから脚本執筆が始まりました。

 『結婚できない男』も阿部寛さんが先に決まっていたケースです。「阿部さんで何をやると面白いか」を考えることから生まれた企画で、そうでなければこの作品は生まれなかったでしょう。

 『結婚できない男』では阿部さん以外のキャストは、プロットを書き、1話、2話を書くあたりで順次決まっていきました。脚本を書きながら、「この役はあの人に決まった」と次々とキャストの決定を聞くのです。
 「あの人に交渉している」と聞いた後で「断られたので他の人に交渉する」と言われる場合もあります。「あの人に交渉している」と聞くと、脚本家はついその人のイメージで書いてしまうので、途中で「あの人には断られた」と言われるとちょっと混乱します。しかしある人に交渉してまとまらず、別の人になるというのは当然ありうることなので、そういう状況に対応するのも脚本家の仕事です。

 よく聞かれるのは「脚本家はキャスティングに関与できるのですか?」ということです。「意見を言うのは自由だけど、それが通るかどうかはわからない」という感じです。昔は「この人がいい」と言ったこともありましたが、その意見が通ることは少ないので、僕はだんだんそういうことは言わなくなりました。
 小さい役になるほど、意見が通る確率は高くなります。

 脚本家の醍醐味は、やはり主役以下出演者が決まり、その人たちのイメージで脚本を書き、それがうまくはまったときにあると言えるでしょう。先に決まるにせよ後で決まるにせよ、出演者が自分の役に演じ甲斐を感じながら演じてくれることが脚本家の喜びです。

スタッフと脚本家は接点なし

 キャスティングと同時にスタッフも決まっていきます。スタッフを決めることに関しては脚本家は何も関与しません。完成した台本のスタッフ表を見てスタッフの顔ぶれを知るだけです。なのでこの点に関して書くことは特にありません。
 同じ制作会社での仕事が続くと、その会社から依頼するスタッフの顔ぶれが毎回同じことが多いので、ある程度顔見知りになります。僕はMMJでの仕事が多い時期があり(『結婚できない男』、『特命係長・只野仁』、『アットホーム・ダッド』など)、この頃は現場に行っても顔見知りが多く、「あんた誰?」という感じは薄かったです。

「衣装合わせ」について

 キャストに関連することで言えば「衣装合わせ」という作業があります。映画やテレビドラマを作るとき、エキストラ以外の役のある出演者(台本に名前が載っている人)は全て撮影前に衣装合わせをして「どのシーンでどの衣装を着るか」と決めます。段取りとしては、まず監督と衣装担当の人が打ち合わせをして、「この人はこんな服を着ているイメージ」「このシーンはこんな衣装で」などと話します。そして衣装担当の人は付き合いのあるメーカーやお店を回って衣装をたくさん借りてきます。そして衣装合わせの当日には出演者が一人ずつやって来て、用意された衣装を次々に着て「このシーンはこれで」と決めていくのです。このとき、靴、バッグ、アクセサリーなども決めます。衣装担当の人はこれらも用意しなくてなならず、相当な大荷物になります。
 「この衣装で行こう」と決めるのは監督なので、監督が衣装合わせにいるのは当然ですが、それ以外のメインスタッフも同席します。出演者とスタッフはこの日が初顔合わせになることが多く、挨拶をします。
 エキストラの衣装を決めることはありません。撮影当日、自由な恰好で来るか、作品によっては「こんな服装で来てください」と指示されることもあるでしょう。ただし時代劇などエキストラの衣装も用意しなければならない作品もあります。この場合もエキストラは事前に衣装合わせをすることはなく、当日現場で自分のサイズに合う衣装を選んで着ることになります。
 余談ですが、僕は大学時代、京都の撮影所で時代劇のエキストラのバイトをしたことがありました。朝、衣装部屋に行って順番に着物を着せてもらい、カツラを被せてもらいます。このとき、後の方で行くと古くて汚れたカツラしか残っていないので、撮影のときスタッフに「君、カツラが汚いから後ろに行って」と言われてしまいます笑。カメラの近くで少しでも大きく画面に映りたい人は朝早く行ってきれいなカツラをつけてもらっていました。

衣装の「自前」とは

 低予算の作品の場合、俳優に自分の服を着てもらうことがあります。これを「自前」と言います。この場合も衣装合わせはします。当日は俳優が自分の服を色々持って来て、どれを着るか決めるのです。小さな役の人に自前でお願いすることは割とよくあるのではないでしょうか。主役クラスまで自前になると相当な低予算ということになります。

ヘアメイクも衣装合わせの日に

 出演者それぞれの髪型やメイクをどうするかも決めなくてはいけません。衣装合わせの日にヘアメイク担当の人がいて、これらも決めることが多いです。ただ凝ったメイクをする作品などでは時間がかかるので別の日を設けることになるでしょう。

脚本と衣装

 脚本家は脚本にそれぞれの人物がどんな服を着ているかを事細かく書くことはありません。せいぜい派手か地味か、真面目そうか遊んでる感じかなどを書くくらいです。会社員なら、きっちりしたスーツを着ているかラフな服装かはキャラに関わることなので書いた方がいいでしょう。また女性が勝負服として赤いワンピースを着るなど、明確な意図がある場合も書きます。

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