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技巧と感情が交錯する:「Alive And Well In Paris」の深遠なジャズ世界

■Phil Woods And His European Rhythm Machine / Alive And Well In Paris
■収録曲:Side 1 - 1.And When We Are Young(13:55) 2.Alive And Well(3:34) // Side 2 - 1.Freedom Jazz Dance(7:36) 2.Stolen Moments(9:34) 3.Doxy(1:29)
■パーソネル:Phil Woods(as) Henri Texier(b) Daniel Humair(dr) George Gruntz(p)
■録音:1968年

 フィル・ウッズとヨーロピアン・リズム・マシーンのアライブ・アンド・ウエル・イン・パリです。懐かしくって久々に聴いてみました。

 録音は1968年11月14日と15日。写真は1986年に出た東芝音工盤です。フィル・ウッズは何度も来日もしていまして、その際には地方の小さなクラブも回って演奏をしていました。私も運良く、とある田舎のジャズ・バーでほんの5メートルほどの距離でフィル・ウッズの演奏を聴くことができました。

 このアルバム裏面の岩波洋三さんの解説にもありますが、1960年代末のニューヨークのジャスジーンは飽和状態で才能があっても表舞台に出ていけないような状況にあり、多くのミュージシャンがヨーロッパに本拠を移して活動していたのだそうです。フィル・ウッズはパリに移り、ヨーロッパ・リズム・マシーンを1968年に結成してこれを録音しました。

 1950年代には数多くの名演がブルーノートやプレスティッジ等々に録音されています。このアルバムの録音とそれらの違いは、息遣いやそれによる抑揚が細部まで鮮明に録音されている点です。フィル・ウッズはもともと相当な技巧派ですがその演奏がレコードを通して目と鼻の先で演奏しているようにビシビシ伝わってくるところがポイントかと思います。一度生で聴いているのでプラシーボ効果かもしれないですけどね。

 素人のジャズ・バンドが面白くない理由は、端的に言って下手だからです。よく、テーマの簡単なソニー・クラークのクール・ストラッティンやマイルス・デイヴィス・クインテットのウォーキンなどを取り上げているのをみかけますが、1950年代のちょっとしたリフだけのような主題で、あそこまでアドリブを展開できるのは、感性と力量がいるのだろうと思います。こうした曲は、主題をなぞるのが簡単なだけで、ソリストの技量で曲の完成度が決まるということを知るべきだと思います。まして、人に聞かせようと思うのなら尚更です。ブルーノートやプレスティッジに吹き込まれている数あるアルバムであっても、スケールをなぞっているだけのつまらないアドリブは山のようにありますからね。
 こうした点が災いして、昔、私は、ジャズはどれを聴いても全部同じだと思っていたのですが、このフィル・ウッズのアルバムを聴いて、考えを改めさせられました。

 極め付けは1曲目の若かりし頃です。ジョン・F・ケネディーに捧げた曲です。冒頭、短いピアノのイントロを経てフィル・ウッズは朗々とテーマを奏でます。エモーショナルに語られる香り高いテーマ。すぐにインテンポになりこのテーマを分解し、まず、フィル・ウッズがアルトサックスでソロを取ります。この演奏の雄弁さというか美しさといったらもう鳥肌ものです。続いてピアノのソロになります。ジョルジュ・グルンツのピアノも冴え渡っています。即興とは思えないくらい実に煌びやかで美しいメロディーを奏でます。これが、ジャズの即興の醍醐味ですね。
 続いて、アルトとドラムのチェンジの後、無伴奏のベースのソロになります。このソロはテンポを落とし、最後は情念というか、カオス状態で終わるのですが、それを打ち破る猛烈なサックスのブロウが入り、テーマが再現される・・・という構成です。
 こんなに構築的な作曲がなされたジャズは後にも先にも聴いたことがありません。もう完璧スギです。

 このアルバムで聴かれる演奏を臭いと仰る斜に構えた方々もいらっしゃるようですが、それは違うと思います。ロックの速弾きと言われるギターがアルビン・リーからジョン・ペトルーシに進化したように、サックスの世界も進化してるんですよね。そんな、フィル・ウッズも亡くなっちゃいましたけどね。

 このアルバムは、そんなわけで、数十年にわたる愛聴盤となりました。このほかB面では、オリヴァー・ネルソンのストールン・モーメンツ(オリジナルは1961年2月録音)も演奏しています。これも、オリジナルよりこちらの演奏が好きかな。

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