もう会えない貴方へ

知らぬ間に春が来て、知らぬ間に春が終わろうとしている。
マフラーを首に巻いてポッケに手を突っ込んで音楽を聴きながら帰った冬の夜。その時間がはるか前のことかと思えるくらい暖かい季節になった。

太陽が、枝についている桜、もう散ってしまって道端に落ちている桜たちを照らし、風が唸り、もう半袖を着てる人だっている。新学期で教室が新しくなって、席から見える景色も少し変わった。外では選挙の声が聞こえる。夜になると虫が細い音で鳴いている。

春。そっか。春なんだ。

生まれてから今日まで私の中で春はずっと不思議でよくわからない季節だった。出会いと別れの季節だなんて名前をつけられて新しい1年の始まりともされて。誰がそんなことを決めたんだろうななんてしょうもないことを春が来る度に思う。

毎年ただそう思うだけの春だった。そんな純粋で美しくて儚い春が私は好きだった。

だけど、どうやら今年は素直にそう思うだけで春を越せないみたい。うん。きっと、越せないね。

まさか、もう一生君に会えなくなるだなんて、思ってもいなかったから。

んー。そっか。会えないのか。別れの季節だからなんて理由で済まされないんだよ。
突然すぎるよ、最期に何か残してくれたっていいのに、何も残さないで消えていって。ほんとむかつく。そーゆーとこ大嫌いだった。大嫌いで大嫌いで大嫌い。
最期の最期まで相変わらずすぎてもっと嫌いになったよ。

今年も平穏無事に1年が始まろうとしてた矢先のこと。私にとっては重すぎる爆弾だった。
初めその言葉を聞いた私は、驚いたとか嘘だとかそーゆー感情は一切なかった。そう、なにもなかった。それから数日がたってやっと状況の整理ができた。整理できてしまってからが恐怖の始まり私はこれからどうすればいいんだろう。とか、今の私に何ができるんだろう。とか、感情がやっと自分自身に追いついてきて。その日からはずっと途方に暮れる毎日で、1日があっという間で、イヤホンから流れてくる好きな音楽すら嫌になった。こんな春は初めてだった。

電車の中でなんとなく読み返した日記には君のことでいっぱいで、たくさんの文句や愚痴が書かれてる。当時は本当に腹が立って殴り書きて書いた言葉たちも、今こうして見てみるとそこに詰められている思いは全部愛情の裏返しだってことが素直に理解できた。
散々言い争ったこともあった、お互いディスりまくってばっかだったし、いっつも馬鹿にされては噛み付いての繰り返し。思い返せばくだらないことばっかだった。でも、そんなくだらないことを言い合って共に過ごした時間は、全くくだらない時間ではなかったんだね。

私はあの人に対してむかつくって感情しかないと思ってたけど、実はそのむかつくって感情に、感謝とか、申し訳なさとか、嬉しいとか、悲しいとか、そういった些細な感情がたくさんくっついていたんだな〜。なんて、失ってから気づいてしまう。

もう会えない君へ。

やっぱり、今思い返しても私はあなたが嫌いです。ムカつくし、すぐ馬鹿にしてくるし、上から目線だし。マジで嫌いです。バレンタインの日に八方美人だとか、注意散漫だとか言ってきたり、そもそも日常会話が出来てないとか、散々ディスられたし。でも、私があなたに抱いた『ムカつく』という感情が、『負けたくない』という感情に変わって、いつからか、必死にあなたを追いかけていました。そして、あなたも、それを面倒くさがりながらも、なんだかんだしっかり面と向かって受け止めていてくれました。ありがとう。今の私がいるのは間違いなくあなたのおかげです。褒めてくれたりちゃんと優しくしてくれてたのは気づいてないふりをしてたけど、痛いくらい伝わっています。実はその優しさに何回も救われていました。高2の最初のテストで学年で下から3番目の点数をとった私に嫌々ながら半年以上ずっと付きっきりで面倒みてくれて、学年末、最後のテストで学年で1番の点数をとった時、私が、「あなたのおかげで頑張れた」って言うと小さな声で「美桜が頑張ったからです」って言ってくれたのずっと忘れないよ。その一瞬だけはあなたのことが好きになりました。一瞬だけね。でも、もう会えなくなったからといってあなたとの戦いが終わった訳ではありません。私はずっとあなたに宣戦布告をし続けます。だってやっぱムカつくもん。絶対に負けたくない。いつもムカつくっていうとスルーだったくせに、1回だけ私がいつもみたいにムカつくって言ったら、呆れたように笑いながら、いいよそれで一生懸命頑張ってくれるんだったらって言ったのだって忘れてないから。てか、それ以外にもあなたとのことは全部忘れないから。意地でも忘れてやんないからな。墓場までもっていってやる。こんなこと言うときっとあなたはまた笑いながらはいはいって言うんだよ、知ってる。嗚呼、馬鹿馬鹿しい。涙が止まらないや。

あなたにもう会えないと知った日から今日までずっと不安と困惑でいっぱいいっぱいだったけど、もうそろそろ私もケジメをつけます。もちろん私のことだからこの不安と困惑がすぐに消える訳ではないけれど、この2つの感情をもったまま、またスタートラインにたって前に進んでいきます。だから見ててください。

文中で最期に何か残してくれたっていいのにって書いたけど、確かに、最期は何もなかったけど、今まで君が私に伝えてきたたくさんの小さなことが君が私に残してくれた大事で大切なものなんだなって。もしかして、君は自分の最期がわかっていたから、私にここまで色んなものを教えて残してくれたのかななんて思ってしまう。あくまで憶測だけど。でも、そう信じてもいいかな?

あなたが私に残してくれたたくさんの言葉をしっかり1つ1つ思い出して、いつか、きっと、絶対に、あなたに追いついてみせます。

今までありがとう、さようなら。またね。

#日記 #春 #さようなら

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