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2023年度東京都特別区職員I類採用試験:専門試験解説(経済理論)

 このnoteでは、2023年4月30日に開催された、東京都特別区職員I類採用試験、第一次試験(ミクロ経済学、マクロ経済学、財政学)の解説を行います。目下執筆途中ですが、速報性を重視して随時更新していきます。もし内容に誤りや、ご不明点がありましたら、TwitterのDMにまでご報告頂けますと、大変助かります。

難易度の評価
★ Cake 一般的な知識のみで解ける問題
★★ Normal 一般的な知識についての簡単な応用問題
★★★ Hard 一般的な知識についての厳密な理解を必要とする問題
★★★★ Savage 専門的な知識を必要とする問題
★★★★★ Ultimate 専門的な知識についての深い理解を必要とする問題


ミクロ経済学

No.21 需要の価格弾力性★

 ある財の需要曲線と供給曲線がそれぞれ、
$${D=3a-P}$$
$${S=2P}$$
($${D}$$:財の需要量、$${P}$$:財の価格、$${S}$$:財の供給量、$${a}$$:正の定数)
で示されるとき、均衡点におけるこの財の需要の価格弾力性を求めなさい。

特別区2023

 需給が一致する均衡においては$${D=S}$$となるので、
$${D=S \ \Leftrightarrow \ 3a-P=2P \ \Leftrightarrow \ P^{*}=a}$$
需要曲線の切片は$${3a}$$なので、均衡における需要の価格弾力性$${\varepsilon_{D}}$$は
$${\varepsilon_{D}=\frac{a}{3a-a}=\frac{1}{2}}$$

No.22 操業停止点★

 完全競争市場において、ある企業の短期の総費用関数が、
$${TC=X^{3}-6X^{2}+16X+32}$$
で示されるとき、この企業の操業停止点における価格を求めなさい。

特別区2023

総費用関数$${TC=X^{3}-6X^{2}+16X+32}$$より
限界費用関数$${MC=\frac{dTC}{dX}=3X^{2}-12X+16}$$
可変費用関数$${VC=X^{3}-6X^{2}+16X}$$
平均可変費用関数$${AVC=\frac{VC}{X}=X^{2}-6X+16}$$
操業停止点では$${P=MC=AVC}$$となるので、$${MC=AVC}$$より
$${3X^{2}-12X+16=X^{2}-6X+16}$$
$${\Leftrightarrow X^{2}-3X=0 \ \Leftrightarrow \ X(X-3)=0}$$
$${X \neq 0}$$より、$${X=3}$$
これを$${P=MC}$$に代入すると
$${P=3×3^{2}-12×3+16=7}$$

No.23 第三種の価格差別★★

 ある独占企業が、市場をAとBの2つに分割し、同一財にそれぞれの市場で異なる価格をつけて販売する場合において、それぞれの市場における需要曲線が、
$${D_{A}=24-P_{A}}$$
$${D_{B}=32-2P_{B}}$$
($${D_{A}}$$:A市場における需要量、$${P_{A}}$$:A市場における価格、$${D_{B}}$$:B市場における需要量、$${P_{B}}$$:B市場における価格)
で示されるとする。
 この企業の総費用曲線が、
$${TC=28+X^{2}}$$
($${TC}$$:総費用、$${X}$$:生産量)
として示されるとき、それぞれの市場における利潤が最大となる価格の組合せを求めなさい。ただし、この財の市場間での転売はできないものとする。

特別区2023

 市場A,Bの需要曲線から逆需要関数を導出すると
$${D_{A}=24-P_{A} \Leftrightarrow P_{A}=24-x_{A}}$$
$${D_{B}=32-2P_{B} \Leftrightarrow P_{B}=16-\frac{1}{2}x_{B}}$$
と計算される。このとき独占企業の利潤$${\pi}$$は
$${\pi=TR-TC=P_{A}x_{A}+P_{B}x_{B}-(28+(x_{A}+x_{B})^{2})}$$
$${=(24-x_{A})x_{A}+(16-\frac{1}{2}x_{A})x_{A}-28-(x_{A}+x_{B})^{2}}$$
ここから企業の利潤最大化条件は
$${\left\{ \, \begin{aligned} \frac{\partial \pi}{\partial x_{A}}=-4x_{A}-2x_{B}+24=0 \\ \frac{\partial \pi}{\partial x_{B}}=-2x_{A}-3x_{B}+16=0 & \end{aligned} \right.}$$
となり、この連立方程式を解くと
$${x_{A}^{*}=5, x_{B}^{*}=2}$$
と求められる。さらにこれを逆需要関数に代入すると
$${P_{A}^{*}=19, P_{B}^{*}=15}$$
と求められる。

No.24 純粋交換経済モデル★★★

 次の図は、2人の消費者A、BとX財、Y財の2つの財からなる交換経済のエッジワースのボックス・ダイアグラムである。図において、横軸と縦軸の長さは、それぞれX財とY財の全体量を表す。図中の$${U_{1}}$$、$${U_{2}}$$、$${U_{3}}$$は消費者Aの無差別曲線、$${V_{1}}$$、$${V_{2}}$$、$${V_{3}}$$は消費者Bの無差別曲線、$${WW’}$$は契約曲線、$${TT’}$$は予算制約線、$${g}$$点は消費者の初期保有点をそれぞれ表している。この図の説明として妥当なのはどれか。

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1 $${a}$$点ではAの2財の限界代替率は、Bのそれより小さく、X財、Y財をより多くAに配分すれば、配分の効率性は増加する。
2 $${b}$$点は競争均衡において達成される配分であるから、$${a}$$点、$${c}$$点より配分の効率性の観点から望ましい配分である。
3 $${d}$$点はパレート最適な配分ではあるが、A、Bの限界代替率は必ずしも等しくない。
4 $${e}$$点から$${c}$$点への移行はパレート改善ではないが、$${g}$$点から$${b}$$点への移行はパレート改善である。
5 $${f}$$点と比較すると、$${a}$$点、$${b}$$点、$${c}$$点はいずれも配分の効率性の観点から望ましい配分である。

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No.25 外部不経済★★

 生産の外部不経済が存在する経済において、企業Aと企業Bの費用関数が次のように表されているものとする。
$${C_{A}=X_{A}^{2}+30X_{A}}$$
$${C_{B}=X_{B}^{2}+X_{A}X_{B}}$$
($${C_{A}}$$:企業Aの総費用、$${X_{A}}$$:企業Aの生産量、$${C_{B}}$$:企業Bの総費用、$${X_{B}}$$:企業Bの生産量)
 また、企業Aの生産する財産の価格は$${80}$$、企業Bの生産する財産の価格は$${70}$$で、一定であるとする。
 このとき、各企業がそれぞれ、相手企業の生産量を所与として利潤最大化を行なっている状態から、両企業の利潤の合計が最大化されている状態に移行するために、企業Aが減らさなければならない生産量を求めなさい。

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マクロ経済学

No.26 消費関数論争★★

 消費関数の理論に関する記述として、妥当なのはどれか。

1 ケインズ型消費関数は、消費が現在の所得に依存するものであり、所得が上昇すると、平均消費性向が下落する。
2 クズネッツは、実証研究により、平均消費性向は短期、長期のいずれにおいても一定とはならず、変動することを示した。
3 デューゼンベリーは、消費は現在の所得ではなく過去の最高所得に依存するとするデモンストレーション効果を提唱した。
4 フリードマンは、消費が所得だけではなく、預金などの流動資産にも依存してするとする流動資産仮説を提唱した。
5 トービンは、所得を恒常所得と変動所得に分け、消費は恒常所得に依存し、変動所得は消費に影響が及ばないとする恒常所得仮説を提唱した。

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1.正しい記述(厳密に言えば、「現在の消費は現在の可処分所得に依存する」がより適切)
2.クズネッツは自らの研究(アメリカの消費データの分析)で、短期消費データはケインズ型消費関数に従う一方で、長期消費データは平均消費性向が一定となりケインズ型消費関数に従わないことを示した。
3.デューゼンベリーの時間的相対所得仮説の効果はラチェット効果(Ratchet Effect)と言う。デモンストレーション効果は空間的相対所得仮説の効果のことを指す。
4.流動資産仮説を提唱した経済学者はトービンである。
5.恒常所得仮説を提唱した経済学者はフリードマンである。

No.27 加速度原理★★

 第1期の国民所得は$${290}$$、第2期の国民所得を$${320}$$、第3期の国民所得及び資本ストックをそれぞれ$${380}$$、$${950}$$とするとき、加速度原理により求められる第2期の投資の値を求めなさい。ただし、資本係数は一定とする。

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No.28 IS-LMモデル(クラウディング・アウトによる国民所得の減少分)★★

 ある国のマクロ経済モデルが次のように表されているとする。
$${Y=C+I+G}$$
$${C=0.6(Y-T)+50}$$
$${I=60-r}$$
$${G=50}$$
$${T=20}$$
$${L=M}$$
$${L=0.1Y+10-r}$$
$${M=10}$$
($${Y}$$:国民所得、$${C}$$:民間消費、$${I}$$:民間投資、$${G}$$:政府支出、$${T}$$:租税、$${r}$$:利子率、$${L}$$:貨幣需要量、$${M}$$:貨幣供給量)
 このモデルにおいて、政府支出が$${50}$$から$${60}$$に増加したとき、クラウディング・アウト効果によって生じる国民所得の減少分の大きさを求めなさい。

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No.29 AD-ASモデル(スタグフレーション)★

 次の文は、スタグフレーションに関する記述であるが、文中の空所A〜Dに該当する語句の組合せとして、妥当なのはどれか。

 1970年代に先進国で起こった、不況と(A)が同時に生じるスタグフレーションは、下図において、(B)の増加などにより、(C)が(D)にシフトすることで発生した。

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1 A:インフレーション B:生産コスト C:総供給曲線 D:左上方
2 A:インフレーション B:生産コスト C:総需要曲線 D:右上方
3 A:インフレーション B:政府支出 C:総需要曲線 D:右上方
4 A:デフレーション B:生産コスト C:総供給曲線 D:左上方
5 A:デンフレーション B:政府支出 C:総需要曲線 D:右上方

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No.30 成長会計方程式★

 次の式は、実質GDPを$${Y}$$、全要素生産性を$${A}$$、資本ストックを$${K}$$、労働投入量を$${L}$$として、コブ=ダグラス型生産関数で表したものである。全要素生産性の成長率、資本ストックの成長率及び労働投入量の成長率がいずれも3%であるとき、実質GDPの成長率を求めなさい。
$${Y=AK^{0.3}K^{0.7}}$$

特別区2023

 マクロ生産関数$${Y=AK^{0.3}L^{0.7}}$$の両辺自然対数を取ると
$${\ln{Y}=\ln{AK^{0.3}L^{0.7}}=\ln{A}+0.3\ln{K}+0.7\ln{L}}$$
となる。ここで両辺を時間微分すると
$${\frac{\.{Y}}{Y}=\frac{\.{A}}{A}+0.3\frac{\.{K}}{K}+0.7\frac{\.{L}}{L}}$$
と求められる。
 ここで全要素生産性成長率$${\frac{\.{A}}{A}=3%}$$、資本ストックの成長率$${\frac{\.{K}}{K}=3%}$$、労働投入量の成長率$${\frac{\.{L}}{L}=3%}$$を代入すると実質GDPの成長率$${\frac{\.{Y}}{Y}}$$は
$${\frac{\.{Y}}{Y}=3%+0.3×3%+0.7×3%=6%}$$
と求められる。

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財政学

No.31 戦後財政史★★★★

1.傾斜生産方式はハイパー・インフレーションを引き起こした(復金インフレ)
2.戦後初の建設国債の発行は1966年。1965年に発行されたのは赤字国債。
3.正しい。
4.1989年導入当初の消費税率は3%。
5.1998年5月の財政構造改革法改正案は特例公債の発行枠の弾力化(アジア通貨危機からの緊急避難のため、増額を許す)を狙いとしており、発行枠の抑制を目的としていない。

No.32 地方財政計画★★

1.地方財政計画は地方交付税法第7条に基づき作成される。
2.正しい。
3.地方財政計画は収支の見込みなので、決算との乖離は生じうる。
4.公営企業会計は独立採算制が原則であるため、繰出金を除き地方財政計画には計上されない。
5.地方財政計画には国庫支出金も地方債も計上される。

No.33 租税理論★

1.税負担における能力説は、支払い能力の高い者ほど多くの租税負担をするべきであるという考え方。肢の説明は応益説。
2.支払い能力の等しい人は等しく負担をすべきであるという公平の考え方は水平的公平。支払い能力の異なる人は異なる負担をすべきであるという公平の考え方は垂直的公平。肢の説明は逆。
3.財政政策上の原則を提唱したのはワグナー。
4.正しい。
5.包括的所得税にはキャピタル・ゲインが含まれる。

No.34 財政の三機能★★

A.財政の機能を3つに分類したのはマスグレイブ。
B.正しい。
C.失業保険や一定税率の課税は経済安定化機能(ビルトイン・スタビライザー)。
D.正しい。

No.35 財政理論★★

1.外延的拡大と内包的拡大による経費膨張の法則を主張したのはワグナー。
2.ピグーの経費論。肢の説明は移転的経費と非移転的経費の説明が逆。
3.正しい。
4.マネタリスト(フリードマン)は裁量的な財政政策は短期的には実体経済に影響しうるとした。
5.サプライサイド経済学は減税政策による供給面の強化を主張した。


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