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【よみか】映画「ロケットマン」 ~売れっ子になるとみんな自分を見失う

20世紀のスーパースター、エルトン・ジョンの伝記的映画。
ちょっとまえに公開されてヒットした「ボヘミアン・ラプソディー」は同年代のロックグループ「クイーン」のリーダー、フレディ・マーキュリーの伝記的映画だったけれど、やっぱり、という感じでとってもつくりは似ている。

年代的にはどちらも僕の「青春の伴奏者」とも言うべき音楽たちであり、アーティストなんだけど、僕自身はクリーンよりエルトンの方に圧倒的にシンパシーがあり、実際、エルトンの黄金期のアルバム(すでに死語かも)はすべて、それこそすり切れるほど聞いている。だからこの映画の公開を知ったときは「見ない」と思った。

え? 「見る」じゃなくて?

そう、見ない。

だって、なんかあとからの追加的な説明や評価など、邪魔なだけだと思うから。でも、見に行っちゃった。実際、ちょっと後悔している。映画ダメだからということじゃなく、エルトンはずっとあの時代のエルトンのままでよかったんだよ、ということで。
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  (ネタバレあり)
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ほんと、あの時代(1960年代後半から1980年代ぐらいのロックの黄金期)って、ロックスターになると世界中から熱狂され、何でも手に入った。一夜にしてずば抜けた人気と富を手にし、女も男も資本家からプロデューサーから広告やからファンまで一気にうじゃうじゃと集まってかしずいてくれた。昨日まで神さまだと思っていた選好するアーティストたちが、まるで旧友のように接してくれる。

エルトンも(フレディ・マーキュリーも)無名時代、有名プロシューサーに馬鹿にされ、いじられ、音楽性を曲げさせられたりしているけど、いったんヒットすれば、何も言わせない王様になれる。

でも、

王様は孤独だ。
王様には美女が寄ってくる。
何をしてもみんながちやほやしてくれる。才能の結果だと思われる。
美酒が寄ってきて、麻薬もやってきて、美食も、プール付きの家も、高級車も、スポーツカーも、何もかも手に入る。
でも、親や親友やいっしょにやってきた仲間とはどんどん離れていく。
酒に溺れ、女を突き放し、同性愛に愛の行き先を見出せば、世間からは孤立した(1970年代の世界はまだまだ不寛容だった。
麻薬に溺れ、買い物依存症になり、不愉快なプロデューサに小突き回され、ボロボロでも派手なライブ・パフォーマンスをするしかなかった。

エルトンは(フレディも)孤独だった。
でも、音楽の才能は驚異的だった。

映画「ボヘミアン・ラプソディ」と、映画「ロケット・マン」。
そっくりそのまま相似形の物語。
ちがうのは、フレディは同性愛からの結果としてのエイズによって死去、エルトンは同じく同性愛者だったけれど、エイズの感染はせず、この映画の制作指揮をしている。

 ★ ★ ★

エルトン・ジョンは、作詩のパートナー、バーニー・トーピンとともに音楽を作ってきた。

バーニーとので愛、そして彼の詩(詞ではなく、あきらかに詩だ)がなければ、エルトンは存在しないし、少なくとも僕がエルトンを好きになることはなかった。バーニーの詩は難解で、こんな詩がついた曲がどうしてヒットするのか、当時からわからなかった。映画では、当時のアルバムに付属する歌詞カードよりずっとわかりやすい対訳がついていて、そしてそれらの詩が、エルトンとバーニーのその瞬間ごとの関係を歌ったものだという個人史のエピソードと重ねると、詩の意味がよくわかる。映画を見て、よかったと思うのはこの点。

とはいえ、僕はあえて詩の意味を、バーニーとエルトンの関係の中に意味づける必要はないと改めて思う。

僕はバーニーの詩が好きだった。

英語を学ぶ時期と重なっていたので、バーニーの詩をノートの書き写し、覚えてしまって、それで英語を覚えた。意味がよくわからない英語で英語を覚えた。英語を学ぶことがけっこう好きになったのは間違いなくバーニーとエルトンのおかげだ。

 ★ ★ ★

エルトンが自伝映画を作ったことについて、正直やめておけばよかったじゃんと思う。でも。そんなことはエルトンの自由だ。そしてエルトンは、すばらしい音楽家ではあっても、高尚な哲学者でも宗教家でもない。作りたいモノを作り、自分を忘れさせないように詩、もっと金を稼いだっていい。映画を作って売名行為をしても、誰からも文句を言われる筋合いはない。まして僕がここでやめとけといっても伝わるわけもない。

映画を見ても、見なくても評価は変わらなかった。エルトンの音楽がもっと好きになるかと思って見に行ったけど、特に変らなかった。今までも好きだし、これからも、これまで好きだったように好きだ。新しく何も加わらない。

ただ、ちょっと謎めいていたバーニー・トーピンの姿が、ちょっと身近になったことは、見てよかったことだ。

最後に、僕が一番好きなエルトンのアルバムは、売れたけど成功作とは呼ばれない「Blue Moves(蒼い肖像)」(1976年全米全英3位)から、「カメレオン」。これをイチオシに挙げるのは僕ぐらいかも。

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