読書感想文(51)森見登美彦『新釈 走れメロス;他四篇』

はじめに

この本を買ったのは太宰治『新ハムレット』と共に本屋で発見したからです。「ハムレット」を読んだら『新ハムレット』を読もうと思っていると、この本を見つけました。シェイクスピアからシェイクスピアを翻案した太宰治、そこから太宰治を翻案した森見登美彦。この流れで読もうと思ってセットで買いました。買ったのはもう半年以上前のような気がします。いわゆる積読になっていましたが、ちゃんと読みました。文庫は積読になっていてもふと思い立って読めるからいいなぁと思います。問題集は一生やりません。

この本も『新ハムレット 』同様、五作品の短編集です。前回同様一昨読む毎に感想を書こうと思っていましたが、もう読み切ってしまったのでまとめて感想を書きます。

尚、今回は角川文庫で読みました。どうやら元々祥伝社という出版社が刊行しており、同社から文庫化もしていたそうです。その後なぜ角川文庫で出たのかはわかりません。

山月記

シンプルにおもしろかったです。「山月記」は高校生の頃に授業で扱った人も多いんじゃないでしょうか。私は教育実習で「山月記」を教えましたが、なかなか難しかったです。ただ高校生の頃に読んだ時より、今の方がずっと心に響いてきました。授業準備をしながら2回くらい泣いたし、授業しながら泣きそうになりました。大人になった皆さん、是非「山月記」を読んでみてください。

さて、新釈山月記の方は、上手く元の山月記を使っているなぁと感心しました。山月記の枠組みを取り入れつつ、全く別の世界を作り出しています。

主人公がおかしくなっていくところは、執着の代償というか、職業病的なものを感じました。ここまで病的じゃないけれど、何かに熱中しすぎておかしくなった経験がある人って結構いるんじゃないでしょうか。特に恋愛はおかしな経験談をよく聞きます。私はまだ正常です。

藪の中

私はこの原作を読んだことがありません。なのでそのうち原作を読んでからまた読みたいなーと思っています。

原作がわからないのですが、おそらく原作もこの作品と同じように色んな人の証言を元に話が進んでいくのでしょう。そしてすぐに気がついたのが、先ほどの山月記と同じ世界線の話だということです。これもなかなか面白かったです。

しかしこの作品、実はこの本の五作品の中で一番よくわかりませんでした。どうもそれぞれの証言に矛盾があって真相を探るのが面白いようですが、私はミステリー系の小説に慣れていないので、それぞれの話を読んで終わっちゃいました。ミステリーって小説の中でも王道ジャンルな気がしますが、ほとんど読んだことがありません。探偵が解説してくれるタイプならなるほどーってなる気がするので、そういったところから読んでいくと良いのでしょうか。でも近現代の日本文学ってよくわからないのが多いので、その辺りを読んで慣れていく方がいいのかなぁと思ったりします。

全然感想らしい感想ではないのですが、正直よくわからなかったというのが本音です。よかったなーと思うのは登場人物の心理描写です。この作品で出てくる映画はそもそも設定(?)が狂っていますが、それぞれの心理が面白かったです。

あと女優に対する二人の男の評から、場面によって人の輝きが変わることってたしかにあるよなぁと思いました。この人はこれをしている時が一番美しいな、みたいな。この辺り、あんまり考えた事がなかったので考えてみたら面白いかもしれません。

走れメロス

これはもうめっちゃ面白かったです。本当に。自分の中で好きなジャンルというか系統というか、バカバカしさが突き抜けている作品が私は好きです。まさにこの本はバカバカしい。バカってほんとに素晴らしいなと思いました。ほんと、これだけでも色んな人に読んでほしいなと思いました。本文を引用してこの面白さを伝えたいけれど、引用したらネタバレになってしまうのでしません。

内容について何か書きたいなーと探していると、「友情」というテーマを見つけました。太宰治「走れメロス」は中学生用の教材としてよく使われます。そしてテーマが「友情」とされる事が多く、それでいいのかと議論になったりもしています。そんなクソ真面目な話はどうでも良くて、こんな友達がいたら大学生活面白かったかもしれないなーと思いました。私自身、ここまでバカが突き抜けていないと思いますが、やっぱり自分でも色々とバカな事をしたいなーと思ってしまいます。そういう時、もう一人バカな人がいてくれたらできる事の幅はかなり広がっただろうなぁと思います。結構色んな提案はしてみたのですが、みんななんだかんだまともなんだなぁとかなしくなりました🥺いや、ハメを外しすぎないというのはいい事なんですが、なんていうか、大学生活が終わっちゃうなーと思うこの頃です。

桜の森の満開の下

このタイトルを見つけた時、マジか!と歓喜しました。私は坂口安吾の作品が結構好きで、特に「桜の森の満開の下」は初めて読んだ作品という事で思い入れがあります。初めて坂口安吾の「桜の森の満開の下」を読んだ時は衝撃を受けました。なんというか、文体や語り口がカッコよくて、初めて文章に力を感じたのです。それまで私にとって小説とはストーリーを知るためのものだったのですが、文章というものに向き合うきっかけとなった作品です。ただどのように解釈するべきかはかなり悩んで、とりあえず3回読みました。3連続で同じ作品を読んだのは多分この作品だけです。ある程度の解釈が自分の中でまとまったものの、もっと知りたいと思って『堕落論』を買いました。そしたらこの人の考え方がとても気に入って、色んな作品を読むようになりました。初めて読むという人にオススメなのは「肝臓先生」です。あとは「白痴」も読みやすくて思います。評論の方は「堕落論」「続堕落論」の他、「青春論」「悪妻論」も面白かったです。「特攻隊に捧ぐ」も。

とまあ長くなりましたがそろそろこの作品の話を。まず感じたのは文章の力強さが足りない、という事でした。文体は原作と同じデスマス調ですが、なんというか、デスマス調ゆえの柔らかさを感じました。まあ私が元・桜の森の満開の下を好きだから感じることかもしれません。そもそも元にしているだけで別作品なのだから違って当然です。山月記の時はおもしろーいと思えたんですけどね。多分悪質クレーマー並みのいちゃもんかと思いますが、微妙に異なる雰囲気を感じたということは書いておこうと思います。

内容について、ちょくちょく元の作品の表現が出てきてやっぱり面白かったです。そして女によって変わっていく様も。あ、多分私が違和感を感じたのはここに狂気をあまり感じなかったからかもしれません。元・桜の森の満開の下は狂っているゆえの力強さがあったのだと思います。ただまあ人生が変わっていくという点ではこの作品もなかなか力強いのですが、んー、狂気が足りないのかなぁと思いました笑。

狂気が足りないものの、逆に人間らしさを感じたのは女が男を認めることによって男が次第にその評価基準を信じていくようになったことです。従来の評価基準で「自分はダメだ」と思っていた男の、本来の良さを引き出したという点はいいなーと思いました。あと男の従来の評価基準は自分が偉大だと信じた男によるもので、凄い人の評価基準に合わせるのって確かに楽だよなぁと思いました。自分がダメだとわかっていても、明確に目指す存在があるからです。自分の目指す人物像ってなんなのかなーと考えたことは結構ありますが、今はあんまり具体的に思いつきません。もっと真面目に考えた方がいいのかなぁと思いつつ、どうやって考えたもんかなぁという感じです。良くわからなくなってきたのでこの件は保留します。

百物語

これも原作を読んだことがありません。そのせいか、普通に読み終えてしまいました。なんとなく不思議な話だったなぁという感じです。

原作がどうなのかわかりませんが、この本の中ではそれまでに出てきた登場人物がたくさん出てきて、「まとめ!」みたいな感じがしました。

この作品は読んでいて普通に楽しかったのだけれど、普通に楽しかったなぁで終わってしまいました。何が楽しかったのかなぁと思い返すと、やっぱり色んな人が出てくるところで、同窓会的な楽しさだった気がします。まあこれも原作を読めばきっとまた読み方が変わるのだろうなと思います。

おわりに

全体的に、楽しかったなーという印象です。森見登美彦の作品は有名なものもあまり読めていないので、また読んでみたいなと思いました。『四畳半神話体系』だけ読んだ事があって、とても面白かったのを覚えています。気になっているのは『恋文の技術』や『ペンギン・ハイウェイ』です。森見登美彦は結構人気があるように思うので、好きって人がいたらオススメも教えてもらおうと思います。

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