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ひとりのときの頭の中を並べる

一生懸命歌をきいて歌詞を見ている。文字を書いている。文字を読んでいる。ほんとにやりたいのはメイクを落とすことなんだけど、メイクを落とすことに手の動きと目線が奪われると、頭の中に考えたくないこととか全部やってきちゃうからどうしても目線を活字に移してしまう。
山田詠美は恋の先生。テーマに不倫の話がいくらあったとしても、純と言えるのは、お互いがお互いの方向を向いて、お互いだけの話をしてるから。起承転結なんて二の次で、不倫されている旦那のことなんて頭にないみたいに書かれてるから。それになりたいかというと別かもしれないけど、いつでもお互いのことだけを考えている2人組は、理想だと思うから許してしまう。
大学時代の同級生に「純」君という子がいたっけ。同じ学科で、潤でも順でもなく、「純」。小柄でメガネをかけた男の子だった。女の子に「純」がつくと、「純粋」や「純真」という言葉を彷彿とさせるのに、男の子だと「純情」が似合う気がするのはなぜだろう。
この漢字を持つ彼の名前を、私はとても綺麗だと思ってた。
図書館にあるパソコンの部屋に行くとたまに課題をしていて、何度か会話をしたけど、あるときラインが来て食事に誘われ、偶然用事があっていけない、と返信した日から、一度も再度食事に誘う連絡をくれることはなかった。まあ私から連絡をすることも一度もなかったのだけど。
そのとき私には遠距離中の彼(過去のnoteに綴られている)がいたが、純くんと彼はメガネをしているところと、黒髪を茶色にしてみたりしないところと、サラサラじゃない猫っ毛と、恥ずかしがり屋なところだけが似ているなあと思っていた。
「翠」という名前の人も、綺麗だったので思い出した。新卒で働いていた頃の職場の先輩で、これまたメガネをかけた、黒髪をひとつに無造作に結って、化粧っ気のない、小さいお子さんがいる女性だった。その人はいつも口数が少なく、話しかけても最低限のことを教えてくれるだけで、ほかの茶髪の優しい先輩たちのように、あまりプライベートなことを話さない人だった。その人はいつも名字で呼ばれていたし、はじめは化粧っ気のないその感じが、「翠」と言う名前を持つのはなんだかイメージとはずれている気がしていた。
私は割とすぐ会社を辞めているが、よく泣きながら仕事をしていた頃、子供を送ってからの遅めの出社をしていた「翠」さんは、ロッカールームで泣いていた私と偶然二人きりになったときに、予想外にも声をかけてくれた。確かに泣いている後輩の前で声をかけないのも不自然かもしれないが、皆の前にいるときとは違う、心を感じる、「当たり障りない」でなく「わたし用」の声をかけてくれたのだ。「翠」さんは、あのとき私を頑張らない方向に励ましてくれた。名前の響きだけでなく心の美しさと、「黒くてつやのある髪」を形容するときに使用する「翠」という名前がぴったりの人だったことがわかった。
嫌なことを考えたくないときは、こうやって言葉を繋いで、新しい言葉に飛ばして膨らませてく。思い出を振り返る。今日あったことを思い出す。GW中の晴れて暖かかった日。憧れていた人の個展を見に行った。美しいブルーと白と金の馬。白から金が滲み出た天使。この天使を内側の腕に刻みたいと思ったけど、2日前にママにタトゥーはだめと言われた。ママの言うことを聞こうとする26歳になりそうな女。そんな女を「ギャラは出すから30分だけご飯に行こう」と誘ってきた、ナンパ師のおじさん。私は今日三つ編みしてたしカジュアルな服装してたから、たぶんその人ロリコンだったんだと思う。一人で歩くと積もっていく不名誉なナンパ履歴。
羊文学の「ロマンス」を聴いて帰る。この街で叫んだら。誰かが見つけてくれるんじゃないかって思う。きっとロリコンのおじさんもそう。ロマンスは女の子のためだけの歌じゃない。誰でもいいおじさんが声をかけ続けたどうでもいい女の子たちの中にひとり、おじさんを特別に思ってくれる子がいることを願う。爽やかに去っていくナンパ師は意外とたくさんいる。なんなら迷っているときに話しかけられて、一か八かで聞いてみたら新宿駅の東口を教えてくれるナンパ師も存在する。おじさんがいろんな女の子に不快な思いをさせまくる前に、おじさんの顔が好みで気が合う女の子が現れますように。

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