ナツノキセキ#6

やがてラムネを飲み終えると優花が展望台へ走りだした。

「冬弥くーん次はあそこに行くよー」

と指をさした。その方角には灯台があった。

灯台か。もちろんあるのは知っていたけれどやはり何も思い出せない。

優花がいう場所ならおそらく僕と彼女の思い出の場所なんだろうが。

そして灯台へむけて優花が走りだした。追いかける僕。

またいつもの光景が始まった。こんな日が続けばいいのにと心の片隅で思っていた。

灯台につく頃には日は傾き始め目の前に広がる海をオレンジに染め上げていた。

そして優花が口を開く

「この思い出の場所は実は冬弥くんと来たの初めてなの」

「え?」

困惑する僕。どういうことだろうか。

「でもきっと上まで行けば思い出すよ。きっと!」

と優花は続ける。

灯台の中を二人で登り始める。コツコツと靴の音がだけが反響して不協和音を奏でている。

そして頂上へ到達すると優花が

「ここだよー」

と手をひろげながら叫んだ。

灯台の上はかなり風が強い。その風に揺れたその長い髪と夕日に照らされた彼女の姿に

僕は目を奪われていた。

「ねぇねぇ。冬弥くん。何か思い出した?」

「ごめん。何も思い出せないや。でも僕はここに来たことはないんでしょ?」

僕はささやかな疑問を投げかけた。

優花は僕の手を引き下を見てみるように合図をした。

そこには船着き場が見える。

「ここはねー冬弥くんが島から本土に帰るときにね、わたしがここから手を振っていたんだよ

 冬弥くんも船の先端でこっちに向いて手を振ってくれてたんだ。」

なるほどそういうことか。そこまで聞いてもやはり思い出すことはない。

「そうだったんだ・・」

僕は相槌を打つので精一杯だった。

「ねぇ冬弥くん。やっぱり何も思い出さない?」

と優花が不安そうに尋ねた。

「本当にごめん・・・何もわからないんだ」

その瞬間優花がいきなり泣き崩れた。

「冬弥くん。ごめんなさい。ごめんなさい」

そう言いながら優花は泣き続けた。

「私がわがままいったから・・・冬弥くんを苦しめてしまった

 本当は私のことを思い出す必要なんてなかったのに・・・」

どういうことなんだ。なぜ優花が謝る?僕が悪いのに。

気づいたら僕はそっと泣きじゃくる優花を抱きしめていた。

「本当に思い出せなくてごめん。でも僕は今の優花に出会えたことが嬉しかったよ。

 今の優花が大好きだよ。それじゃ駄目なのか?」

僕は気づいたらそう切り出していた。

優花は泣きながら

 「ダメなの!今の優花を好きとか言っちゃダメなの!」

と叫んだ。僕は続けて

 「そんなことないよ。今の優花が大好きだよ」

と同じく叫んだ。

 「ダメ!絶対にダメなの!そんなこと言っちゃダメなの!!」

さらに語気を強めて優花は強く叫んだ。

なぜそんなに過去にこだわるんだ。僕は心の中でそう呟いていた。

少し落ち着いた優花は重い口を開いた。

「これ以上私のわがままは言えない。冬弥くん本当にごめんなさい。私のことはもう忘れて!」

そう告げると灯台の階段を駆け下りていく優花を僕は追いかけた。

もうあたりはすっかり日は落ち夜の帳へと消えてゆく彼女を僕は見失ってしまった。

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